映画ライター渥美志保さんによる連載。ジャンル問わず、ほぼすべての映画をチェックしているという渥美さんイチオシの新作『決戦は日曜日』をご紹介。作品の見どころについてたっぷりと語っていただきました!
二世議員だらけの日本の、地方選挙の笑えない裏側
親子そろってアメリカ大統領になっている人って、私はブッシュさんしか知らないんですが、日本の総理大臣経験者で「お父さんも総理大臣だった人」は、安倍晋三、麻生太郎を筆頭に、福田康夫、鳩山由紀夫と、すぐに何人も思い浮かびます。これが「お父さんも政治家だった人」とか「お父さんも〇〇大臣だった人」となると、ほとんどの総理大臣が当てはまっちゃうような・・・。この映画は、そんな政治家一家のお話です。
映画は、ある地方都市を地盤にもつ大物議員が病に倒れたことから始まります。主人公は間近に迫った衆議院選挙に、父に代わって出馬することになった一人娘・有美。大物議員を父に持つ彼女は、アラフォーぐらいなのでしょうか。ネイルサロンの経営に道楽で関わってはいるけれど、他人に使われたことは一度もないんだろうなという、いわゆる「スーパーお嬢様」。
候補者として決定しただけなのに、すでに大物議員であるかのようにふるまう彼女は、謝罪と恭順が大嫌い。自分勝手な言動と面倒くさい熱意で突っ走る、暴走機関車のようです。
物語は、この人ともう一人の主人公、彼女の「お守り」としてつけられた秘書・谷村の、トラブルだらけの選挙活動を追ってゆきます。
地方議員の支持基盤は一言でいえば「地方の政財界」なのですが、地元の有力者が集まる後援会とか、政党支部とか、地元企業とか様々でそれぞれの思惑があります。
有美の出馬は「父がダメなら子が」という単純なものではなく、それぞれが自分たちに有利な人物を推して調整がつかなかったから。「誰が出ても勝てるんだし、ど素人のお嬢ちゃんにしとけば、思い通りに動かせるし」ってことなのです。
ところがスーパー自己主張&高飛車な有美は、周囲のいうことを素直に聞くタイプじゃない。かくしてどっちもパワハラ体質な「おっさんvs有美」のゴジラvsキングギドラみたいな戦いに、脱力系秘書はブンブン振り回されることに。
この流れを爆笑しながら見ているうちに、見えてくるのは政治の実態です。人々が有美を応援するのは、地元の既得権益の分配システムを守るためであり、自由も民主主義もない、金と権力の奪い合いです。それなりの正義感を持つ有美が、それを理解し失望し、「関わりたくない」と思ったのは当然のことですが、そこから先がこの映画のアイロニーの本当に面白いところ。
爆笑に次ぐ爆笑ですが、「本当に笑ってていいのか?」という気持ちにさせられ、映画の結末はまるで「それでも観念して関わることでしか、変える方法はありませんよ」と言っているようです。
ちなみに日本ほど世襲議員が多い国はなく、先日発足した岸田内閣も閣僚の半分以上が世襲議員です。この映画のようなしょーもない選挙戦で彼らを当選させているのは、私たちであることは言うまでもありません。
『決戦は日曜日』
監督・脚本/坂下雄一郎
出演/窪田正孝、宮沢りえ、赤楚衛二、内田慈ほか
(c)2021「決戦は日曜日」製作委員会
https://kessen-movie.com/
※2022年1月7日(金)全国公開
渥美志保の記事をもっと読む。