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TRENDLIFESTYLE

2021.06.23

「デリカシー」を尺度にすると、他者の気持ちが理解できるようになる

白いパジャマ姿で熊のぬいぐるみを持ち、強烈なインパクトでお笑い界に登場した鳥居みゆきさん。2013年からは舞台へと活動の幅を広げています。独特の個性は魅力の一つでしたが、その反面、人を遠ざけてしまう部分も。自己表現と人間関係に悩んだ末、気付いたのが、「他者への配慮」だったといいます。鳥居さんならではの視点で、マナー、気遣いをどう考えるかを語っていただきました。

鳥居みゆき

そのマナー、同調圧力になっていない?と思うことがある

「マナー」という言葉はとても難しい。人によって、マナーと思うこともあれば思わないこともある。例えば食事のマナー=ナイフやフォークを美しく使えること、とは一概には言えない。フォーマルな席であれば有効なマナーになるが、気が合う人たちとの食事で、正しくナイフやフォークを使うことが必須かというとそうでもない。

「マニュアルどおりにやることがマナーなわけではないですよね。それに、強要するものでもないと思うんですね」というのは、お笑い芸人で女優の鳥居みゆきさんだ。現在は、単独ライヴや演劇などにも活動の幅を広げている。自らネタや脚本も制作する鳥居さんにとって、大事なのは誰にも邪魔されず思考できる時間。そのとき必要なのが、タバコだという。

「私にとっては、とても大切な楽しみの時間でもあり、思考を整理するうえでもとても大事なんですね。なくてはならないものという言い方もできるかもしれません。でも、タバコを吸っているだけで、やめたほうがいいとか嫌な顔をされてしまう。もちろん、吸わない方の前で吸えばそれはそう思われても仕方ないかもしれません。でも、喫煙のルールをきっちり守り、自分の楽しみという領域のなかであればいいと思うんです」

とはいえ、「なんとなく肩身が狭い思いをすることは多い」と、鳥居さんは言う。これは喫煙に限ったことではない。例えば、コロナ禍のマスクにしても、人と会話をするときは必要だが、近くに人がいなければ外しても問題はない。1人で車を運転していた人がマスクをしていなくて、交差点で隣の車のドライバーに怒られたということが、SNSで話題になったことがあった。「これがマナーである」「この方法以外は認めない」という決めつけや同調圧力が最近増え、さまざまな場所で軋轢を生んでいる。

自分自身になかった「デリカシー」の大切さを考えるようになった30代

「マナーっていうと、人によって捉え方が変わってしまうと思うんですね。私は、マナーって思いやり、他者に対して気遣いができるかという部分だと思うんです。目安にしているのは、“デリカシーがない”ということは、マナーから外れていることだということ。例えば、喫煙所でタバコを吸うことはデリカシーがないことではないですよね。でも、喫煙所の外で待っている人がいるのに、いつまでも喫煙所に居座ってスマホをいじっている人を見ると、デリカシーがない、と思って、『たくさん待っている人がいますよ』と言ってしまいます」

また別の日には、こんなことがあったという。舞台の備品を購入していたときのこと、サービスカウンターで領収書をお願いすると、店員の男性は、黙ってレシートを受け取り領収書に手書きし始めたという。

「でも、何度書いてもボールペンのインクが出ないんです。それなのにその係の人は出ないペンでずっと書き続けるわけです。見ると私の後ろには列ができていて、みんな順番を待っているわけです。さすがに、『ずっと書いていてもインクが出ないようなので、別のペンはないんですか?』と言うと、やっとペンを探し始めるのですが、今度はペンがないって言うんですよ(笑)。スーパーなのにペンがないって、そこに売っているのに。ネタなのか、ってツッコミを入れたくなりましたけど(笑)。これは一例ですけど、こんな感じに状況が把握できない、周囲がどう思っているか想像できない、というのも配慮がない=デリカシーがないこと、だと思うんです。マナーってこういう人への配慮ができるか、ということだと思うんですよね」

鳥居さんがこんな風にデリカシーについて考えるようになったのは、過去の自分の痛い経験が関係しているという。

「ご存じの方もいると思いますが、デビューしたての20代のころは、ものすごく尖っていたんですね。自分は天才だと思っていて、ほかの人よりも自分が面白い、自分の発想以外受け付けないと思うところがあって、ものすごくピリピリしていたんです。でも、そんなことをしていると、当然、人は近寄ってこないですよね。自分の発想を認めてほしいのに、自分で人を遠ざけてしまっていたことに気付いたんです。誰もピリピリしている人に近寄りたくないじゃないですか。そんなときに、デリカシーってとても大事なことだな、と思ったんですね。当時の私は、今思い返すとちょっと怖くなるほど、デリカシーがなかったんだと思いますね。今は、愛嬌があって感じがいいってことはとても大事なことだなって思っています。

以前は人と話していてもすぐに『でもさー』と遮る反論的な言い方で突っ込むようなところがあったんですね。最近は意識してやめています。この『でも、でもさー』って言い方、無意識に使っている人、意外と多いんですよ。あ、この人も使っているな、と思うことは多いですね。自分が使わなくなってわかったんですが、相手との信頼関係を拒絶するデリカシーがない言い回しなんですよね。自分のやらかした部分を知るのはつらいです。でも、今わかって良かったと思う。そのまま年齢を重ねたら、そういうことに気付かない人間になっていたと思うから。30代ってそういうことに気付く最後の年代なのかもしれませんね」

鳥居みゆき(とりいみゆき)
お笑いタレント、女優、映像作家、小説家、絵本作家。ドラマ「陸王」「アイドル×戦士 ミラクルちゅーんず!」など多数出演。

TEXT=伊藤まなび

ILLUSTRATION=友澤健太郎

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