体が入れ替わって戻れない男女の15年の人生を描く映画『君の顔では泣けない』が11月14日(金)より全国ロードショー。自分の人生ではない人生を重ねたふたりに突然訪れた「もしかしたら戻れるかもしれない」というチャンス。この体に留まるか、チャンスに賭けるか――。切なくも愛おしい想いの果てを見届けて。
もし入れ替わって戻れないまま15年が経ったら…

――芳根さんといえば、笑顔が印象的でハッピーオーラをまとっているひと。その多幸感の秘訣はなんでしょうか?
根本の性格が好奇心のかたまりなんです。「これやる?」『やってみる!』、「これ食べる?」『食べてみる!』と、基本的に前のめりな性格だと思います(笑)。だからこそ、何事も楽しくありたいと思っています。お仕事でも、全員は無理でも、ひとりでも多くの人が「この現場に関われてよかった」と思えたらいいなと思うんです。せっかくご縁があってこうして集まっているわけなので、みなさんが前向きな気持ちでいられたらうれしいです。
――そんな芳根さんが髙橋海人さんと初共演を果たした主演映画『君の顔では泣けない』は、入れ替わってしまった男女の15年の年月を繊細に描いています。“入れ替わりもの”は多数ありますが、本作についてどのように感じましたか?
率直に「こう来たか!」と思いました(笑)。入れ替わりというと、私は元に戻ることがゴールだと思っていたのですが、「戻れないまま15年も経つと戻らない方がいいという考えが生まれるんだ」とハッとさせられました。この作品はファンタジーではあるけれど、「もしかしたらこういう人たちがどこかにいるんじゃないか」と観てくださる方に思ってもらえたらいいなと思います。
――芳根さんが演じるのは、水村まなみの外見をした坂平陸という人物。役作りは複雑だったのではないでしょうか?
過去に映画『累-かさね-』で入れ替わりを演じたことがあるのですが、そのときは何度も入れ替わったり戻ったりを繰り返し、2つの役を追求するという作品でした。ですが、今回は最初から最後まで、私は陸という1つの役にだけ集中できると分かったときに、すごく気持ちが楽になったんです。クランクインの前にリハーサルの時間をいただいてみんなで役柄について話し合った時に私たちがやることは外側よりも内側、中身を詰めていくことだと気づいたことが役を掴めたきっかけだったと思います。

――徐々に陸として適応していくまなみの一方、まなみになりきることに戸惑いを隠せず時間ばかり過ぎていく陸ですが、どんな要素を持った人物だと思いましたか?
陸は不器用で、まっすぐで、憎めないひと。でも「まなみが近くにいてくれたから、どうにかなってるんだぞ!」っていうのを伝えたいです(笑)。生い立ちも性格も違うけれど、ふたりのバランスが絶妙だと思うので、まなみが「はいはい、しょうがないな」と思えるようなキャラクターになるといいなと思いながら演じていました。
――その部分を表現するために大切にしていたことはなんですか?
とにかく髙橋さんと助け合うことです。お互い顔に感情が出るタイプだったので(笑)、「分からないね。どうしよう」「このシーン辛いよね」って話し合えたことがよかったと思います。陸とまなみはある意味家族以上の関係性だと思うので、その関係性を一緒に演じることができたのが髙橋さんでよかったです。「人生を交換したのが、君でよかった」という作品のコピーがありますが、劇中のふたりがそう思っているように私もなれていたらと思います。
――戻ったときのためにお互いの近況を語り合う喫茶店のシーンが印象的ですが、ある意味“会話劇”のような要素もありますよね。
とにかくシーンが長くて、ふたりで喋っているシーンだったので、最初は怖かったです。画が変わることが少ないので、どういうふうに見せればいいのか、どうやって空間を埋めるようか、すごく考えたんですが…その考えているときに髙橋さんがどうくるのか分からなくて面白かったです。彼はいい意味で動物的で、どういう球を投げてくるのかが分からなくて、それがすごく楽しくて。彼が投げる球を全部獲りたいし打ち返したいと思いながら、お芝居をし、セリフのキャッチボールがすごく楽しいなと改めて感じました。もし次に共演させていただける機会があったときも、この役を一緒に演じ切ることができたので、怖いものはないと思います。どんな役でも「任せて!」という感じです(笑)。

――15歳から30歳までの15年間で、陸はまなみとして、結婚や出産などの転機を迎えますが、芳根さんの人生の転機を教えてください。
この世界に入ったことが私のいちばんの転機だと思うのですが、なかでも「人生が変わる」と実感したのは、「朝ドラのヒロインに決まった」と言われた日の夜です。スタッフさんからサプライズで発表してもらってすぐ、次の日の会見のために衣装合わせをしたり打ち合わせしたり、と慌ただしかったのですが、夜ホテルに戻ったときに、当時厳しくしてくれていたマネージャーさんから握手の手を差し伸べられたときに「人生が変わるんだ」と思いました。もちろん、朝ドラのヒロインをやる=この先も業界でやっていけるというわけではないですが、人生が変わる一歩を感じました。あのときの感覚や瞬間は絶対に忘れずにこれからも頑張っていきたいです。
――芳根さんは現在28歳で年下の共演者も増えてきたかと思いますが、現場での過ごし方は変わってきましたか?
そうですね。30歳という新たなフェーズが見えてきて、どう20代を締めるか、どう30代を始めるかというのをすごく考えているタイミングです。これまでだったら「同い年だね!」と言っていたことが多かったのですが、最近は年齢が下の方が増えてきたなと感じています。そういうときに「自分は先輩にどうしてもらったらうれしかったかな」と考えるようになり、そのきっかけを現場でいただけることもあるので、今、すごくいろいろなものと戦っているところです。視野を広げてもっと考えなければと思いますし、「自分!」だけではいられないなと思うことが増えました。
――そんななかで、作品を重ねるとうれしい再会もありますよね。
そうなんです! キャスト表を見たときに、共演させていただいたことがある方がいらっしゃるとうれしいと思うのと同時に、「ここまでやってきたんだ」と感慨深くなることもあって。たとえば、本作でもご一緒している大塚寧々さんとは今回で3回目の共演なんです。その3度ともお母さん役を演じてくださって、デビュー当時は中学生だったのに、今回は私が出産を経験してお母さんになる役だから、すごく感慨深いです。「こんな大人になりました!」とお話しさせてもらえるのがすごくうれしいですね。
――新たなフェーズを目の前に、ここまでの俳優人生を振り返るといかがですか?
今まで精一杯向き合ってきたことが間違っていなかったと思えることが増てきているなと感じます。そのときは分からなくても「あのときの経験はこれを得るための出来事だったんだ」と時間と経て分かることもたくさんあります。経験を積むことで怖さがなくなる瞬間もあったりするんですが。とにかく私はお芝居が好きで、いろいろなことを受け止めながら進んでいくことができれば、ずっとお芝居できるのかな、できたらいいなと思っています。
【11月14日(金)公開!】『君の顔では泣けない』

出演/芳根京子 髙橋海人 ほか
原作/君嶋彼方「君の顔では泣けない」(角川文庫/KADOKAWA 刊)
監督・脚本/坂下雄一郎
製作幹事・配給/ハピネットファントム・スタジオ
※TOHOシネマズ 日比谷 ほか 全国ロードショー
happinet-phantom.com/kiminake
X @kiminake_movie
Instagram @kiminake_movie
TikTok @kiminake_movie
芳根京子(よしねきょうこ)
1997年2月28日生まれ、東京都出身。2013年、ドラマ「ラスト♡シンデレラ」で女優デビュー。2016年NHK連続テレビ小説「べっぴんさん」にヒロインの坂東すみれ役で出演。2019年映画『累ーかさねー』、『散り椿』(共に18)で第42回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。主な出演作に、映画『記憶屋あなたを忘れない』(20)、『Arc アーク』(21)、『峠最後のサムライ』(22)、『カラオケ行こ!』(24)、『雪の花-ともに在りて-』(25)、ドラマ「まどか26歳、研修医やってます!」(25)など。今年は、ドラマ「波うららかに、めおと日和」(CX)で主演を務め大きな話題となり、舞台「先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~」(PARCO劇場)へも出演するなど多岐に渡り活躍する。
X @YoshineKyoko
Instagram @yoshinekyoko

