チケットはすでに全席がソールドアウト、沢尻エリカさんが活動再開して臨む舞台『欲望という名の電車』の初日が10日後に迫っている。GINGERのインタビューで語ってくれた、初舞台に対する想いを公開。
もう一度、芝居のフィールドで何ができるのかを突き詰めたい
発売中の『GINGER』3月特別増刊号の表紙を飾っている沢尻エリカさん。カメラの前に立った際の圧倒的なオーラ、堂々たる佇まい、一挙手一投足から目が離せなくなる美しさーーその姿を目の当たりにして、私たちは彼女の完全復活を確信した。第2章の幕開けとして彼女が選んだもの。それこそがまさに、初めてとなる“舞台”だ。
「不安半分、楽しみ半分、というのが正直なところ。昔から憧れてはいたけれど、足を踏み入れることがなかった分野です。今は入念に本を読み込んでいる最中。稽古に入って役づくりを深めるのが、すごく楽しみです」
今回の作品は、テネシー・ウィリアムズによる不朽の名作『欲望という名の電車』。心に癒えない傷を抱え、身を持ち崩してしまったヒロイン、ブランチ役に挑む。
「何不自由なく生きてきたけれど、つらい経験により人生が変わってしまった、そんな女性です。過去に日本でも諸先輩の方々が演じてこられた役で、私が演っていいのだろうかという思いもあります。ただ、女性特有の揺らぎ、特に若さに執着するさまは、ものすごく共感できる。もう決して若くはない、でも大人としての魅力などまだ確立できていない。そんな狭間でもがく今の私だからこそ、醸し出せるものがきっとあるはず。そう考えると、体の中から沸々とエネルギーが湧いてくるのを感じるのです」
やはり、彼女は根っからの役者なのだ。そして負けず嫌い。内に秘めた思いを演技という表現に昇華して、余すところなく伝えたいという渇望があるのだろう。そんな沢尻さんが憧れ、目標に据える役者とは、どんな人物なのか。
「ドラマ『1リットルの涙』で共演させていただいた、薬師丸ひろ子さんです。当時19歳だった私は、役や台詞へのこだわり方、俳優としての矜持、そして品格。演技の素晴しさはもちろんですが、それらすべてを備えた彼女の姿に感銘を受けたことを覚えています」
10代でデビュー、数々の作品に携わり、演技の何たるかを目の前で示してくれる多くの俳優陣からの影響を得ながら、彼女は“この役は、沢尻エリカでないと”と熱狂的に求められる存在へと駆け上がっていく。そんな彼女が不在だったこの4年間。でも、私たちの記憶から“沢尻エリカでないと”という思いはずっと消えなかった。
今は、この舞台に向けて一点集中
今回の活動再開にあたり、戸惑う彼女の背中を押したものは何だったのだろう。そのことを問うと「いろいろですね。本当にいろいろ」そう呟いて、そっと目を伏せた。さらに間を置いたのち、ゆっくりと語り始める。
「光栄にも、私のファンでいてくださる方々に、偶然にもお会いする機会があったんですよね。『やめないで』と涙まで浮かべてくださったり、応援していると真っすぐに伝えてくださったりして。実はこれまで、ファンの方の存在はなぜかすごく遠いものでした。でもその思いに直に触れることができたとき、『申し訳なかった』『恩返しがしたい』その両方の思いが素直にあふれ出てきたんです」
身近な人だけでなく、目に見えない多くの人々がどれだけ自分を支えてくれているのか。そのことを体感した彼女は、新しい自分を健やかに育み始めている。
「今は、この舞台に向けて一点集中。というのも、演技の世界に戻ると決めた今、私のなかに初めて“夢”ができたんです。どんな夢か? …それはまだ、自分の心のなかだけに留めさせてください。今はとにかく、芝居を通して喜びや感動を伝えらえる存在になれるよう、学ぶ日々。一歩一歩、覚悟を持って進んでいきます」
沢尻エリカは、型破りのヒロイン。今の時代に古い肖像画は必要ない。過去を糧に、これからに挑む。ありきたりでない人生だからこそ、その人だけが放つ特別な輝きが生まれることを、彼女の生き方が魅せてくれる。
沢尻エリカ(さわじりえりか)
1986年4月8日生まれ。東京都出身。2024年2月10〜18日まで新国立劇場 中劇場にて、舞台『欲望という名の電車』に出演。1947年に初演され、ピューリッツァー賞を受賞した近代演劇の名作。
舞台『欲望という名の電車』
出演/沢尻エリカ、伊藤英明、清水葉月、高橋努ほか
演出/鄭義信
https://streetcarnameddesire.jp/