まるで憑依したかのように個性的な役柄を巧みに演じ、その一方で飄々とした素顔で私たちを魅了する野村周平さん。1月26日(金)より公開される映画『サイレントラブ』で、キーパーソンとなる北村悠真を演じた。この作品で出会った発見、そして、俳優を続ける原動力についてお話を伺った。
心震わせる、世界でいちばん静かなラブストーリー
第44回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した『ミッドナイトスワン』を手がけた内田英治監督が原案・監督を務めた最新作『サイレントラブ』。音楽を久石譲が手がけたこともあいまって、多くの人が楽しみにしている本作がいよいよ公開される。この映像と音楽が奇跡的に融合した作品には、極限までセリフを削ぎ落とした出演者の繊細で緻密な演技が光っている。
物語は、声を捨てた青年・沢田蒼(山田涼介)と光を失った音大生・甚内美夏(浜辺美波)が出会うシーンから始まる。夢を持てない青年が彼女の夢にすべてかけることで、ふたりの情熱が交錯するという真っすぐでピュアなラブストーリーだ。不協和音のような言葉が日々氾濫する今の時代にこそ必要な、相手の気持ちを“感じる”ことの美しさを描く。
役を通して、ピアノの素晴らしさを再確認した
蒼と美夏の物語の成り立ちに欠かせない人物、それが野村周平さん演じる北村悠真。北村は著名な音楽家の子息で、美夏の通う音楽大学で非常勤講師を務める傍ら、裏カジノで借金するような乱れた生活を送っている。ひょんなことから北村は蒼から「金を払うからピアノを弾いてほしい」と頼まれ、蒼のフリをして美夏にピアノを弾いて聴かせることになる。
「北村は金持ちのろくでなし野郎ですよね(笑)。音楽の才能はあるんでしょうけど、上には上がいる…音楽一家に生まれたからこその葛藤を抱えています。彼はただ上手いピアニストで、まだまだ未熟でホンモノのピアニストではないですよね。だから彼は心が寂しい人だと思い演じていました。全部持っているけど心が裕福じゃない北村と、制約があるけど心が裕福な蒼と美夏。どっちが幸せなんだろうね」
名門家庭に生まれながらも、思いどおりにいかない現実に焦燥感を抱いているからなのか、ずっと何かにイライラしている冷血漢なピアニスト、それが北村だ。物語の起点ともなる人気のない旧講堂で、古いピアノを演奏するシーンが何度もあるが、野村さんは作品を通してピアノの素晴らしさを改めて感じたという。
「ピアノって世界一カッコいい楽器ですよね。元々弾けるようになりたくて、撮影前からめちゃくちゃ練習しました! 現場で浜辺さんと一緒に練習したり、家に帰ってからもひたすら弾きました。クラシックが好きでよく聴くこともあって、“好きこそ物の上手なれ”って感じで練習していたら結構弾けるようになったんですよ。撮影は終わったけど、今後も続けたいと思っています。古くさいっていう人もいるけど、絶対そんなことない。最高! クラシックピアノ!」
甘酸っぱいラブロマンスからシリアスなサスペンス、抱腹絶倒のコメディまで幅広い作品に出演し、そして個性的なキャラクターを演じ、強い存在感を放つ野村さん。数多もの役柄を経験した彼は「作品に入っている間は、現場でその場の空気を読むだけ。だから役を引きずったことがない」と話す。
「北村を演じるにあたって監督から『棒読みでいいよ』って言われたんです。だから、できるだけ感情を殺すために淡々と喋ることを意識しました。自分でも完成した映画を観ながら『俺、棒読みだな』って思ったけど、あれでいいって言われたので、俺を責めないでくださいね?(笑)。
蒼を演じた山ちゃんに関しては…本当に最低な意見ですよ?(と、おどけて)毎日セリフなくていいなぁって(笑)。極端な話、前日にカラオケに行ってお酒を飲んで酔っ払って声を枯らしても、影響ないんですもん。でも、表情だけの演技が一番難しいし、格闘技をやっている設定だったので熱心に体づくりをしていたみたいなんですけどね。
浜辺さんが演じた美夏ちゃんは、ほぼ浜辺さんなんじゃないかって思うくらいピッタリな役柄。視線の動かし方などすごく研究されていて、浜辺さんが演じたことでより良い作品になったんじゃないかな。普段はお喋りですっごい気さくな女の子! 好感度が高いのも納得!
僕自身は、役に引っ張られることは全くないです。だって僕の方がキャラが強いんで。僕を超えてくるキャラを演じることがあったら、引きずるかもしれないですね(笑)」
共演した山田涼介さんを「山ちゃん」と呼ぶ間柄。実は高校時代の同級生で、席が前後だったこともあるそう。
「今思うと夢みたいな話ですよね。周りにいる同級生が全員テレビに出ているなんて、普通の高校生活じゃ考えられない。当時は僕がバカやって、後ろの席の山ちゃんが一緒に連帯責任で怒られるみたいなこともよくありました(笑)。昔から知っているので共演できたことが嬉しかったですね。撮影中は、高校時代を振り返ってあれこれ話をしました」
純粋な恋愛描写と映像美が見事に調和
ある出来事をきっかけに声を捨てた蒼と不運な事故により目が不自由になった美夏。ふたりが心を寄せあい、やっと想いが届き始めたとき、過酷な運命に飲み込まれる――。野村さんはこの映画の見どころのひとつでもある映像美を絶賛する。
「世界的アーティストの久石譲さんが手がける音楽はもちろん、映像がものすごくきれいですよね。柔らかい光だったり景色の移ろいだったり、リアルに自分の目で見たような映像の質感がすごいんですよ。ストーリーは、主演のおふたりは体に不自由がある役だったので、難しい恋愛描写だなと。でも、人が恋をするのに体の不自由さは関係ないなって、分からせてくれる映画でもあります」
映画の公開を楽しみにしている方に一言、とお願いすると、野村さんはいたずらっ子のような表情で愛のあるメッセージをくれた。
「山田さんと浜辺さんの魅力がつまっていて、もうすっごい楽しめる映画になっていると思います。今回はふたりのラブストーリーだからね。例えると…ふたりはご飯とすっごい美味しいおかずで、横にちょっと乗ってるパセリが僕。たまに食べたいっていう物好きいるでしょ? パセリを食べたい皆さんはぜひ!」
また、バイクや車を愛してやまないという野村さん。彼のインスタグラムには何枚もの写真がポストされている。好きな理由は「楽しいから」。同じく俳優も本当に楽しいから続けていると語る。
「本当に芝居が好きなんですよね。作品や役について考えている時間も楽しいし。スクリーンに映っている自分が良い芝居やカッコいい芝居をしていて、『あ〜!』って嬉しくなる瞬間が素晴らしく好きなんです。
僕が一番大事にしているのは、カッコよくリアルにその世界を生きること。カッコいいっていうのは、顔や身なりがきれいという意味じゃなくて。作品の中で髪や歯が汚くてもカッコいい人っているじゃないですか。役を演じてはいるんだけど、作品の世界でリアルに生きることを常に意識しています。監督の思い描く世界観と僕が演じた役、それがベストマッチしたときが一番気持ちいいんです」
「ただ、頑張れる理由は…お金だけどね♡」と最後に茶目っけたっぷりに教えてくれたが、それが彼特有のジョークであることを私たちはもう知っている。自由奔放で、型にハマらない。飾らなくてチャーミング。この先もずっと、まだ見たことない俳優・野村周平に翻弄されそうでワクワクする。
映画『サイレントラブ』
原案・脚本・監督/内田英治
共同脚本/まなべゆきこ
音楽/久石譲
出演/山田涼介 浜辺美波/野村周平 ほか
配給/ギャガ
※2024年1月26日全国公開
gaga.ne.jp/silentlove/
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野村周平(のむらしゅうへい)
1993年11月14日生まれ、兵庫県出身。2010年に俳優デビュー。2012年、連続テレビ小説「梅ちゃん先生」(NHK)で注目を浴びる。主な出演作品に『日々ロック』、『ちはやふる』シリーズ、『帝一の國』、『隣人X -疑惑の彼女-』などがある。2024年1月から放送中のテレビドラマ「婚活1000本ノックにも出演している。
Instagram @qs86_shuhei