伝えたい想いがあるとき、人は手紙を書きたくなる。女優の山口乃々華さんが、“あのひと”に向けて今の気持ちをしたためる連載。今回は、自身の実家にて時を刻んでいる時計たちに宛てたメッセージです。【連載「〒ののポスト」】
私の実家の時計たちへ
お手洗いにいる胡桃色のあなた。きっと自分では気がついていないでしょうから、私から伝えます。 30分ほどずれています。 30分ほど、未来を刻んでいます。
実家のリビングにいたあなた。最近見えてる景色が違うでしょう？ それは、寝室へ移されたからです。でも、あなたがいけないのですよ。違う時間に愉快な音楽を鳴らすのがいけなかったのです。直しても直しても時刻が狂ってしまうと母が言っていました。
私の部屋にいるあなた。チックタックチックタックと時間が過ぎていくことを大袈裟に伝えてくれますね。狭い私の部屋にはもしかしたら合わないかもしれません。だらだら過ごしている私がすごく罪なことをしているように感じます。今度居場所を相談しましょうね。
私はこれまで、時計たちの役割は正確な時刻を示すことだけだと思っていました。これまで、というか今もそれこそが時計の役割だとは思っているけれど。
しかし、お手洗いのあなたのおかげで時間に余裕を持って行動することができたし、なんなら焦ったおかげでちょっと得した気分にもなりました。
それから、リビングのあなたがいないことに、しんみりとした気持ちになってしまいました。私が生まれたころからリビングのあの壁にありましたものね。気が付けばあなたはリビングの一部であり、大事な大事な存在だったのです。
そして、私の部屋にいるあなた。あなたのおかげで実家の部屋でこのお手紙を書き進めることができています。時は金なり。だね。忘れてはいけない。
あまりにも実家の時計たちは不正確であるけれど、山口家らしいなと思うのです。そんな家族のことを細かく書こうものならひとりひとりから怒られてしまうので書きませんが、時計たちにはわかるでしょう？ みんなそこにいることに安心したり、大事だと思ったり、笑えたり、言い合いがあったりして、会話が生まれているのです。
時計たちのおかげで帰省中そんなことを思いました。これからも、不正確でもいいからどうぞそこにいてください。
山口乃々華より
山口乃々華（やまぐちののか）
3月8日生まれ、埼玉県出身。2020年末まで E-girlsとしての活動を経て、2021年から女優として本格的に活動を開始。 映画『イタズラなKiss THE MOVIE』シリーズ、ドラマ・映画「HiGH ＆ LOW」シリーズやHulu版「崖っぷちホテル！」などに出演、『私がモテてどうすんだ』ではヒロイン役を務めた。近年ではミュージカルにも活動の幅を広げ、2022年には「SERI〜ひとつのいのち」でミュージカル初主演を務め、2023年は「SPY×FAMILY」ではフィオナ・フロスト役、a new musical「ヴァグラント」ではヒロイン（W）役を好演。12月15日～上演する舞台「呪術廻戦」-京都姉妹校交流会・起首雷同-では、釘崎野薔薇役を務める。
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