伝えたい想いがあるとき、人は手紙を書きたくなる。女優の山口乃々華さんが、“あのひと”に向けて今の気持ちをしたためる連載。今回は、なんと“裸の付き合い”をしているというお相手に向けたサンクスレターです。【連載「〒ののポスト」】
裸の空間で自身を見つめる時間、それを見守っているのは…
うちのお風呂っちへ
"お風呂っち"なんて呼んだことありませんが、親しみを込めてそう呼ばせてください。私たちの仲はかなり親密なものですね。なんたって裸の付き合いですものね! そんな仲良しのお風呂っちへ、今回は手紙を書かせてもらいます(笑)。
お風呂っち、いつもキレイさっぱりと洗い流させてくれてありがとう。
ついさっき、いつかの私がお風呂っちの壁に貼ったであろう“黄色の線で囲まれた星形シール”を見ていたら思い出したことがありました。
この部屋に住みたての、それは数年前のことだけれど、確かこの季節特有のじめっとした空気が漂っていたころーー。私は、夏に控えた仕事を絶対に成功させたいという思いから、心を熱く燃やしていました。
一日の終わりには、お風呂っちとゆっくり時間を過ごしていましたよね。浴槽に浸かりながら、反省を聞いてもらい、台詞や歌の練習も繰り返しました。練習に付き合ってくれて、本当にありがとう。
褒められたりなんかして帰ってきた日には、前日とは別人かのようにご機嫌で歌ったりもして。調子がいいよね。でも、そんなこともいい思い出です。
不安でいっぱいの気持ちだったときは、熱いシャワーのお湯をきゅっと止めるたび、お風呂っちはスッと黙って、ただただ見守ってくれていた。もくもくと熱い湯気を自分の体から立ちのぼらせながら、私の気持ちも熱さが増していくような感覚を味わっていたんだと思う。
上手く換気されない窓なしお風呂っち、熱気と静寂も作れるなんて、本当にナイスだよ。
そしてバスルームを出る直前、なぜかいつもあの星形シールに目が吸い寄せられてしまう私。
無意識に、でもまるでお決まりの儀式みたいに。あ、また(シールと)目が合ってしまったと、怖くなってしまうほど(笑)。そんな不思議な見つめ合いから、私はお風呂の最後に自分に喝を入れて出るのがお決まりだった。
「私の人生なーんにも心配ない! 楽しみで仕方ない!」と。
不安8割、期待2割が入り混じる自分に暗示をかけてから、脱衣所へ上がれば、なんとかなる気がしていました。ーー実際、なんとかなってはいます。
そんなこんなで、なんだかんだいつも長風呂しているけれど、お風呂っち、もしかして嫌ですか? でもすぐに上がっちゃうよりはいいでしょ? どうですか。
お風呂っちには、いろんな思いをぶつけさせてもらって、本当に大助かり。いつもありがとうございます。
実はそろそろ引っ越そうかな、なんて考えてたんだけど。やっぱりやめようかな。これからも、キレイに掃除するので、まだまだこのお風呂に入らせてください。
山口乃々華より
山口乃々華(やまぐちののか)
3月8日生まれ、埼玉県出身。2020年末まで E-girlsとしての活動を経て、2021年から女優として本格的に活動を開始。 映画『イタズラなKiss THE MOVIE』シリーズ、ドラマ・映画「HiGH & LOW」シリーズやHulu版「崖っぷちホテル!」などに出演、『私がモテてどうすんだ』ではヒロイン役を務めた。近年ではミュージカルにも活動の幅を広げ、『INTERVIEW~お願い、誰か僕を助けて~』『ジェイミー』『あなたの初恋探します』にヒロインとして出演。2022年には「SERI〜ひとつのいのち」でミュージカル初主演を務め、2023年3月〜5月に上演されたミュージカル「SPY×FAMILY」ではフィオナ・フロスト役を好演。8月より上演されるa new musical「ヴァグラント」ではヒロイン(W)を務める。
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