本当は興味津々なのに、決して踏み出せない――芸人 紺野ぶるまさんの自分観察。【連載「奥歯に女が詰まってる」】
「そんなことないですよ」で上に立つ女
いつからか少しのことでものすごくイライラするようになった。
例えば、コンビニでレジがあいてるのに待たされるとき、久しぶりに会った父がつまようじをシーシーしてるのを見るだけで、すぐに沸点に達する。
その度に「ああ、良くないなあ」と疲れを自覚するが、その時はまたすぐに訪れ、一体いまの疲れがなんの疲れなのか、いつからわからなくなったのかももうわからない。
人から言われる言葉にも過敏になった。
決して心ないことを言われてるわけではないのに、言葉の端々に引っかかるようになった。
それは、「こんなことにイラっとするわたしが小さいの?」と思わず自分を責めてしまいたくなるほど些細なことだが、でも確実にこちらの逆鱗に触れている。
例えば、年下に言われる「そんなことないですよ」だ。
「めちゃくちゃ太ったわ…」
「なんか今日わたしくすんでる…」
「これ着てきたはいいけど似合わなかった」
こんな会話のあと、諭すように言われる「そんなことないですよ」ほどやるせないものはない。
「お前がそんなことないですよ、待ちなんだろ」という意見もあるのはわかる。しかし実際はそうではない。そんなことなくないのだから。もう客観視だってお手のものなお年頃なのだから。
見過ごせないほど自分のコンディションが悪く、思わず鏡を見た時に漏れてしまう悲しみの「(食べてないのに)太ったわ…」
そんな回数が年々増えている。それを「そんなことないですよ」で片付けるのはさすがに舐め過ぎている。
数年後自身も同じ経験をするなんて夢にも思わない余裕に、ズイッと踏み込みたくなる。なによりそのあと「悩める年増にいいことをした感」を出されるのが本当に辛い。
とはいえ「たしかに太った」と言われるのも違う。いやまだそう言われた方がマシな気もする。こちらにその答えを許容する力があると判断されたことが嬉しい。
自分自身がこれだけめんどくさいのだがら、逆の立場になった時には結構な緊張が走る。同世代または年上の人から出る「シミ増えたわ…」になんと返そうか、「そんなことないですよ」だけはだめだといい聞かせる。
そして最近とある美容師さんから大正解を教えてもらった。(きっとこういう場面に誰よりも遭遇してるのだろう)
それが、
「え?!(驚)ど、どのへんですか?!」
である。
「え!?(驚)」のあとは「そ、そうですか?」でも「ど、どこがですか?!」でもどちらでもいい。
本人はシミが増えたのは重々承知なのだが、他人からしたらそんなことを考えていることが驚きになるほど気にならないというそぶりがなんとも相手を癒す効果がある。
これのポイントはちゃんと驚くこと、だけど驚きすぎないこと。間違えると一気に胡散臭くなるから。
「ホワイトチョコってカカオ入ってないらしいよ」
と初めて聞いた時の「え?!」
「かき氷のシロップって色が違うだけで全部同じ味らしいよ」
を聞いた時の「え?!」
「叶姉妹ってあれ本当の姉妹じゃないらしいよ」
の「え?!」
初耳感、知らなかった感が大事なのである。
そんな思いやりの「え?!」は「わたしまだまだ大丈夫なんだ! 諦めずに頑張ってみようかな」と数万円の美容液を買った時くらいモチベーションがあがる。
布教するべくまず自分が日々極上の「え?!」を特訓中なのだった。
最後に
上手にいう「え?!」とかけまして
専門学校と解きます。
その心はどちらも、効果(校歌)があることに驚くでしょう。
今日も女たちに幸せが訪れますように。