漁業が盛んな富山県氷見市で誕生した「フィッシュレザー製品」。廃棄される魚の皮に新しい価値を生み出したもの。日本では古来アイヌの人々が加工していたという資料もあるとか。今月の「香里奈が考える今、できること」は、「皮」から「革」へと変わった、新時代のレザーをご紹介。
フィッシュレザーとは?
捨てられるはずだった魚の生の皮に、丁寧に“なめし処理”を施した「魚の革」のこと。生臭さはなく、魚ならではの美しいウロコ模様が特徴。近年、新しいエコレザーとして注目を集めている。
フィッシュレザーができるまで
魚の皮を「革」にするためには、たくさんの工程がある。日本のフィッシュレザーを研究し、世界へと広めていくtototoに、大まかな工程と加工の様子を取材した。
1. 皮をいただく
富山県氷見市を拠点に、地元の鮮魚店から、刺し身などに加工する際にとった皮を頂戴する。皮を含め、頭や内臓など魚の廃棄部分は年間66万トンにもなるとか。
2. 身を削ぐ
魚の生臭さの原因は、脂身の酸化。皮に付いた身や脂は丁寧に削ぎ落とす。とても重要で大変な工程のため、一枚一枚を手作業して、臭いのもとを徹底的に除去。
3. 塩漬け
水分が多く含まれる皮はすぐに腐ってしまうため、脂身を削ぎ落とした皮に塩をまぶし、塩漬けにして乾燥保存。こうすると余分な水分が抜けて、長期保存が利く状態に。
4. 脱脂
乾燥保存した皮にはまだ少し脂分が残っているので、脱脂漂白用の液に漬けて脂分を完全除去。同時に汚れや色を漂白していく。2週間ほど繰り返すと生臭さゼロに!
5. なめし
緑茶などに含まれている渋味成分と同じ、タンニンを使用。タンニンパウダーを溶かした液に皮を漬け、時間をかけて加工。繊維が締まり、丈夫なレザーに仕上がる。
6. 染色
出来上がったフィッシュレザーを、今度も時間をかけて丁寧に染色。こだわりの色に美しく染め上げます。最後の工程である「乾燥」もゆっくりと行い、製品へ加工。
廃棄される魚の皮を再生して新しい持続可能な世界へ
もともと廃棄されていた魚の皮を再生して、新しい魅力を発信しているtototoの代表・野口朋寿さんに、フィッシュレザーの魅力や今後の可能性についてお話を伺った。
Q. 他の革製品にはない、フィッシュレザー特有の魅力は?
A. 魚ならではのウロコ模様ですね。例えば、ブリのレザーは細かなウロコ模様が生み出す、優しく滑らかな手触りと艶、逆にマダイのレザーは生命の力強さが感じられる、大きく表情豊かなウロコ模様が特徴的。それぞれ異なる唯一無二の美しさがあります。
Q. どんな魚の皮もレザーになりますか?
A. どんな魚でも皮がとれればレザーになりますが、例えばアジやイワシなど皮が薄い魚はその分強度が低いので扱いにくく、サケやマグロなどはもともと皮が厚く丈夫なので、製品には適していると考えています。
Q. どんな色にも染めることができるのですか?
A. 淡いパステルカラーなどにも染色できますが、ネオンカラーのようなヴィヴィッドな明るい色や、ゴールドやシルバーなどは塗装して着色します。染色や塗装を組み合わせればさまざまな表現が可能です。
Q. フィッシュレザーは破れたりはしませんか?
A. 魚特有の繊維がクロスハッチ構造になっているため、力強く引っ張っても切れることはなく、魚の皮の薄さからは想像できないほどの強度があります。
Q. フィッシュレザーの今後の可能性、展望は?
A. 現在は服のパーツ、ランプシェード、靴に使用されるなど、小物以外にもこれまで革が使われてきたものに少しずつ応用されるようになってきています。また、サステナビリティの観点からも、すでに大量に廃棄されている魚の皮から生まれるフィッシュレザーが、日本を代表する新しい革素材になればうれしいですね。
魚のウロコでできたピアスも!
「実際に手にして、想像以上に素敵で美しい革だなって思いました。廃棄されるものを無駄なく使うという発想は何においても大切で、どんどん実践していきたいですよね。いつか…フィッシュレザーのバーキンとか見てみたいです(笑)」(香里奈)