映画『サイド バイ サイド 隣にいる人』で、周囲の人を癒やす主人公に挑戦した坂口健太郎さん。彼が恋と聞いて真っ先に思い浮かべたのは芝居のこと。今回のインタビューでは、役を愛しぬく覚悟と他者を受容する心について、朗らかで等身大な言葉で語ってくれた。
自分が携わっていくならば、ひとつでも愛が見えるものを
役者にとって、出演のオファーはある種ラブレターのようなものかもしれない。映画『サイド バイ サイド 隣にいる人』は、伊藤ちひろ監督が坂口さんを主人公に物語を描きたいという想いから生まれた作品。
「役者としては光栄なことですが、同時に難しさも感じていました。僕が演じた未山という役と僕自身の共鳴率が監督のなかで高かったんだろうなと想像して、でも僕自身としては自分が未山と似ているかどうかは、あまりよくわかってなくて(笑)。ただ、誰かから見た僕の印象や雰囲気にいろんなものを脚色して出来上がったキャラクターだと思うと、新しい自分の発見にもなりましたし、なるほどなと思う瞬間もありました。
とはいえ未山はとても難解なキャラクター。アクションがあるとか何かしら技術的なテクニックが必要という類いの難易度の高さじゃなくて、彼の考え方、なぜこの選択肢を取るんだろう?というところが不明瞭で、一筋縄ではいかなかった。でも今回の役作りのうえでは、役柄の人生をひもとくような、分解作業をあまりしませんでした」
それは、“作品に余白を残すため”と、坂口さんは続ける。
「この作品はあえて説明をしすぎないことをすごく大事にしている。挑戦的ではありますが、説明をしすぎないからこそ、きっと見てくれた方々のなかで、それぞれの想いがもうちょっと広がっていく気がします。投げかけるというか、委ねるというか、そういった答えのない作品があってもいいと思ってます。
僕自身も、小説を読んだあとに、『よくわかんないなぁ』っていう読後感がけっこう好きなんですよ。作品を見終わっても想いを馳せられるのは、すごく豊かですよね」
たとえ難解でも、共感しづらくても、坂口さんは“好き”を見つける努力を怠らない。
「僕はどこかに愛情みたいなもの――。それは他者でもいいし、モノでもいいし、思想や取り巻く環境のなかに見出していきたいし、ちゃんと愛が見えるものに携わっていきたい。
今まで演じてきた役にしても、誰にだって何かしらいいところがあると思って演じている。嫌なヤツだなと思っても、それでもその人なりの美点は絶対にあると。生まれながらに悪い人って絶対いないと思うし、人の素敵なところを見つけていく作業って、すごく幸福度が高いと思う。たかが役かもしれないけど、自分が演じた役は、その人がどんなひどいことをしていたとしても、僕だけは愛してあげようと決めています」
また、「好きが難しくても、受け入れることはできるから」と坂口さんの朗らかさが垣間見える言葉。
「共感できなくても、理解はしたい。理解が難しいなら、そういう人もいるとせめて受け入れたい。常々、“受け皿”になれたらいいなと思ってます。そう思えるのも、いろんな人生を演じてきたからかもしれません。
それにもともと人が好きだし、僕は人と話すことで心がフラットになって、トゲトゲした心も癒やされるんですよね。ただ話すだけで心が軽くなるのは僕だけじゃないはず。きっとこれから先もいろんな人との出会いがあるでしょうし、ちゃんと受容できる人間でありたいなと思っています」
坂口健太郎に3つのQ&A
Q1. 役者という仕事に“恋している”と思う瞬間は?
A. さまざまな人生を生きられる。その醍醐味に触れたとき
武士や弁護士、はたまたヤクザ。現場に入ると、周りの人たちは僕をその役として見てくれるけど、撮影が終わると坂口健太郎として見られる。自分とは別の人生を自在に行ったり来たりできるのが役者という仕事。変だなと思いつつも抗えない魅力があります。
Q2. 今、恋焦がれているものは?
A. ピアノを弾くこと<。
今、ピアノを練習しているんです。それが楽しくて仕方なくって。保育園のときに少し習ったことや、過去の作品のなかでピアニストを演じた経験が自分のなかにちゃんと息づいていることにも気づけたし、やればやるほど上達している手応えもあります。
Q3. あなたのとってズバリ「恋」とは?
A.充電。
恋をするという感情は素晴らしいもの。人でもモノでも大事にしたり、愛情を持つことは重要だと思います。
映画『サイド バイ サイド 隣にいる人』
“誰かの想いが見える”という不思議な能力で人々を癒やしていく青年(坂口健太郎)が、自分自身の過去と向き合う姿を切なくも美しく描いた物語。行定勲が企画・プロデュースを手がけ、伊藤ちひろがオリジナル脚本と監督を務める。
監督・脚本・原案/伊藤ちひろ
出演/坂口健太郎、齋藤飛鳥、浅香航大、磯村アメリ、茅島成美、不破万作、津田寛治、井口理(King Gnu)/市川実日子
4月14日(金)全国公開
坂口健太郎(さかぐちけんたろう)
1991年7月11日生まれ。東京都出身。直近の出演作に、映画『余命10年』 『ヘルドッグス』、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」、ドラマ「競争の番人」など。今後、日本テレビ系にて、4月期土曜ドラマ・7月期日曜ドラマと2クール連続主演を務めることが決定している。