ただひたむきに役を生きる俳優として、28歳になったひとりの女性としても恋によって彩られてきた日々がある。酸いも甘いも噛み分けたうえで、「恋は不可欠なもの」とまっすぐ言い切った川口春奈さん。恋と仕事についてインタビュー。
「恋のはじまり」について
私はわりと惚れっぽいし、すぐにキュンとするほうだと思います。もちろん一時的なものではあるんですが、荷物をサッと持ってくれたり、さり気なくエスコートされたりすると、もうそれだけでときめいてしまう。例えば、エレベーターの乗り降りやドアの出入りで、お互いに譲り合ってしまうことってありますよね。「どうぞ、どうぞ」「いやいや、お先にどうぞ」と、“お先に”合戦みたいなことが起こりがち(笑)。そんなとき背中に手を添えて、そっと誘導されたら間違いなくキュンです。
どちらかというとプライベートよりも、仕事現場でときめきを感じることが多くて、フォトグラファーさんのように裏側で仕事をするクリエイターさんの、無意識に纏っている独特の空気感が好きです。自己主張が強くなくて、作業に徹している職人っぽいムードに惹かれるんだと思います。被写体が心地よい距離感や温度感を作ってくださると、いい表情が生まれて、結果いい作品になる。
たぶん私はグイグイ来られるのが得意ではなくて、ある程度自分のペースみたいなものを守りたいタイプだから、そう感じるのかな。たまにその領域を無視して踏み込んでくる人もいて(笑)、それはそれで面白さを感じることもあるけれど、友達止まりでLOVEにはならない。私にとってはひとつの境目なのかもって思います。
恋愛は「依存から自立へ」
仕事においても、役を生きて、表現するうえで、恋は切り離せないもの。いくらフィクションといえども、演じる私がまったく恋を知らないままでお芝居するのは難しいと思うし、やっぱり恋を含めていろんなことを経験しているほうが、表現が豊かになると思ってます。
恋を知って、初めて自分のことを知るという経験もしました。3人姉妹の末っ子で生まれて、常に人に囲まれて育ってきたので、私にとって誰かがそばにいる環境は当たり前のもの。家族はもちろん、友人でもパートナーでも好きな人とはとにかく一緒に過ごしたいタイプで、「私って思った以上に寂しがり屋だったんだ」なんて気付かされたり。
それに当時は、加藤ミリヤさんの音楽が大好きで、彼女が歌う重ための恋愛が普通の恋愛だと勘違いしていました。「私を見て」「あなたがいないと息ができない」、それが恋なんだなぁって(笑)。だから、たとえ作品に入っている忙しい時期でも、毎日会いたい。でも、「作品に100%集中しなきゃいけないのに…」と、好きな人に会えるうれしさと罪悪感のような感情が入り交じり、いつも葛藤していました。
年齢を重ねたことも大きいと思いますが、いつからかその依存が少しずつ解消されていって、ひとりでいる心地よさがわかってきたところ。以前は毎日会えるのが喜びだったけど、今は仕事に集中する日々があったうえで会うことのほうがうれしいし、理想のカタチでもあります。好きな人がいる生活は楽しい、でも私はきっとひとりでも楽しめるだろうなという確信もある。誰かがいてもいなくても大丈夫と思える、健やかな状態でありたいです。
「ラブストーリーの難しさ」とは
最近でいえばドラマ「silent」もそうだったけど、ラブストーリーを演じるヒロインって、視聴者の方に嫌われるかどうかの紙一重なんですよね。「silent」だと目黒くん演じる想と、鈴鹿くん演じる湊斗、ふたりの男性の間で揺れ動いたりするので、嫌われるかもしれないというギリギリのラインを、ヒロインはどうしても演じなきゃいけない。役柄が嫌われてしまうという怖さを、常に抱えながら挑戦しています。もちろんあくまで役柄であって、私自身ではないんですけど、役=川口春奈だと捉える人もきっといて。
「川口春奈が演じるとすごいイヤだ」と言われるのは全然かまわないんですけど、その役が嫌われてしまうと、作品自体に迷惑をかけてしまいかねない。嫌いな役がいるせいでストーリーに集中できなかったり、作品の世界観を邪魔してしまうのは、チームとして一緒に作品に携わっている方々に申し訳ないって思います。それに、画面を通して受け取る人たちは、恋愛観も価値観も何もかもそれぞれに違うから、届けたいものがそのまま届くかどうかもわからない。何年やっていてもちょっと怖いですよ。
「どう思われるんだろう?」そういった不安と緊張感を伴いながら、恋を演じています。