日ごろから“言葉”についてあれこれと思いを巡らせている壇蜜さんの連載『今更言葉で、イマをサラッと』第60回目。言葉選びと言葉遣いが、深く、楽しくなる。そして役に立つお話。どうぞお楽しみください!
その60『気持ち』
某国民的有名アニメ(オレンジの玉を7つ集めると願いが叶うストーリー…だったが、今は魅力的なキャラクターたちによる手に汗握る戦闘がメインになっている気がする)の主人公がお馴染みの「とあるセリフ」を発すると、ピンチのときやしんどいときでもちょっと前向きになれる…以前インターネット上で誰かが提言していた。そのセリフは「オラ、ワクワクしてきたぞ!」だ。強い敵に立ち向かう際やライバルが現れたときに、主人公がよく放つセリフだ。
やってやろうじゃん、ガンガン行くぜ、的なことを含んだこのセリフで勝利を掴み、ついでに地球を救う。「オラ、ワクワクしてきたぞ!」は気の持ちようで向き合う態度も変わることをバッチリ表してくれている。もうだめだ、逃げたいなどと言えばぶつかった壁を打ち破れない。
何でも気の持ちよう…古くから我が国では強く信じられていたことらしく、「病は気から」「鰯の頭も信心から」「住めば都」「心配は万病の因」等々、気持ち次第で何とかなったり、逆に悪い結果が引き寄せられたりするよと言わんばかりのことわざも多く存在する。さすがに「心頭滅却すれば火もまた涼し」は上級者向けすぎるが。気候変動が続き日本が熱帯地方になったかのようなこのご時世、熱中症になるからそんな無茶はやめてくれ、と言われそうだ。
「気持ち」というのは様々なシーンで使われるが、「気持ち塩気があったほうがいいかも」や「あの人形、右側のほうが左より気持ち大きい気がする」などの、「少し」や「ちょっと」より少ない単位的な表現をしたいときにも使われるのがユニークだと思う。しかも、言った側、言われた側も「気持ち」のフレーズにかなり同調できている場合が多い。関係性が深くなくても、世代や性別が違っても、一度上を向いて貰い「もう気持ち上向けます?」と言ったら「気持ち上に向けた姿」に両者納得する傾向がある。「そうそう、それくらい」と言われて、上を向いた側も“そうだよね、これくらいだよね”と漠然とではあるが以心伝心しているのだ。さすが「気持ち」。気の持ちようを共有した気持ちにさせてくれる。