NHK紅白歌合戦での衣装早変わり、ロックやポップも華麗に歌い、近年その鮮やかな進化に私たちの目を釘付けにし続けている氷川きよしさん。「演歌界のプリンス」から「個性派アーティスト」へ、確実なキャリアを土台に、“自分らしい表現”にたどり着くまでを語ってもらいました。
自分は自分を生きなければ、誰かにはなれない
穏やかな笑顔と、よく通る美声。撮影現場に氷川きよしさんが入ってきた瞬間にぱっとスタジオが明るくなった。歌手生活22年目を迎え、活動の幅を広げた今が、とても楽しいのだそう。
「自分の見せ方、衣装一つにしても、ここ最近が一番好きです。昨年の紅白歌合戦ではきわどい衣装を着たい!と思って、でもみんなが引かないようなデザインにしてみたり。本番ギリギリまでこだわりました。そうすることで洗練されていきますから」
演歌一本のスタイルから変化したのは、歌手生活も20年目にさしかかったころ。
「40歳になったし、自分は自分を生きなければと。まわりが思う私を生きることも大事ですが、自分にしっくりくることを選ぶべき年齢になったと思ったのです。そうしなければ次の20年を歌い続けられない。だって、自分以外の誰かにはなれないから。演歌歌手だからって、ほかのジャンルを歌ってはいけないわけではない。その時代に合わせ臨機応変に表現していったっていい。ルールはないですからね。楽しまなければと」
あくまでも歌は言葉を運ばせるためのもの
その氷川さんがこの春新たに発表するのは『南風』という穏やかな楽曲です。
「この苦しい時代に、ずっと北風ばかりではつらい。暖かい南風がすべての人に吹くように歌いました。あくまでも歌は言葉を運ばせるためのもの。口頭では照れくさくて言えないことも、歌になると表現できる。そこが、この曲に限らず、歌の一番の魅力。ときには詩を書いてくださった作詞家の方とやりとりをして、より伝わるように歌詞を変えていただいたりすることもある。それくらい、私にとっては言葉が大事なんです。納得できないと歌えない、覚えられない。この曲の言葉も皆さんに届けられればと体に染み込ませて歌っています」
これまでのキャリアで培ってきたものを大切にしながらも変化を恐れず、自分らしい表現を続ける氷川さん。時に“自分らしさ”に悩むGINGER読者に向けて、先輩として伝えたいことが。
「自分らしく生きることは、ただ好きなことをやるだけではありません。長く同じ場所で、頑張ることも大事だと思うんです。だって、どこに行っても同じだから。場所が変わったからといって、何かから逃れられることはない。長く同じ場所にいることで、信頼も得られ、人間関係も作れる。自分が上に行かないと、変えられないこともある。頑張り続けるなかで、自分らしさを見つけ楽しんでもらいたい。そして常に自分で選び、自分で決めること。知識を得て、経験を積んで、今いる場所で自分を磨いていってください。生意気言いましたけど、本当にそう思うんです」
氷川きよし(ひかわきよし)
9月6日生まれ。福岡県出身。2000年『箱根八里の半次郎』でデビュー。以降多くのヒット曲を生み出し、21年連続NHK紅白歌合戦に出演するなど国民的歌手に。3月30日にニューシングル『南風』が発売。