日ごろから“言葉”についてあれこれと思いを巡らせている壇蜜さんの連載『今更言葉で、イマをサラッと』第38回目。言葉選びと言葉遣いが、深く、楽しくなる。そして役に立つお話。どうぞお楽しみください!
その38『いつもは~なんですけどね』
例えば仕事で何らかの景色や現象を見に行くとする。自然のゴキゲンだったり生き物のコンディションだったりで予定していたモノが拝めなかったとする。無論しょんぼりはするが巡り合わせの部分もあるだろうから仕方ないと切り替えて、何とか落としどころを探ろうとする…が、大抵案内役や引率の方にコレを言われてへこむのだった。「いつもは~なんですけどね」と。
励ましてくれているだけだし、悪意などないのは分かっているが、「いつも起きること」はその日の自分に顔を向けてくれなかったと考えると淋しさというか、疎外感がわき上がる。昔ある漫画で「神はいる、しかし君の方を見ていない…」と言い放たれるシーンがあったのだが、言われた方はガーンとしか表現できないような絶望的な顔をしていたのをつい思い出してしまった。平たく言えば数年前の冬、絶景と言われていた早朝の山間の景色を九州のとある地域まで見に行って、曇り空で山が見えず案内人殿から「この季節はいつもは晴れているんですが…、昨日は、晴れていたんですよ。ああ残念だ」と言われた、という話なのだが。私がツイテナイ奴みたいで余計に気持ちは沈んだが、「仕方ないですね。大勢でカメラ持って行ったから恥ずかしがったのかもしれません」などと取って付けたようなコメントでお茶を濁した。
弁明やフォローの流れとしてこの台詞を言うのはおすすめしない。相手が余計に「自分って持ってないなぁ」と悲しみに暮れる危険がある。しかし、いつもは~なのに、今日は特別…という言い方は相手を気持ちよくさせる。いつもは雨が降りやすいのに、今日は特別晴れていますとか、いつもはあまり人に懐かない猫なのに、あなたには特別甘えているように見えます、とか。これは疎外感とは真逆の受け入れられた感、特別感を相手に植え付けられる。とどめの締めくくり言葉は「珍しいこともあるものですねぇ」。偶然に出合えなかったら次の話題、出合えたら喜びを引っ張るような会話で相手をその気にさせるのも、たまには使ってみるとイイコトがあるかもしれない。
壇蜜の【今更言葉で、イマをサラッと】をもっと読む。