日ごろから“言葉”についてあれこれと思いを巡らせている壇蜜さんの連載『今更言葉で、イマをサラッと』第33回目。言葉選びと言葉遣いが、深く、楽しくなる。そして役に立つお話。どうぞお楽しみください!
その33『 困ります 』
好ましくない事態が発生して、対処や反応の最善策が見当たらず悩む・・・これを一言でまとめると「困る」につながる。先日読んだとある漫画で、非常に印象的な「困っている」シーンがあった。
舞台は学校。先生がテストの答案用紙を採点している。設問のある部分がクローズアップされる。「~をした人物は誰か」という問題。それに対して人名で答えるのではなく、非常にそっくりなその人物の似顔絵で答えた生徒がいた。名前は度忘れしたけど、顔は覚えているんです・・・!という生徒の声が聞こえるような回答にどうしても評価をしてあげたい先生。
しかし「人名を答えよ」のルールも無視できないし、学校のシステムのもと教えを諭す立場として丸をあげることもできない・・・。「先生として困った」という描写に不謹慎ながらもくすりとしてしまった。その生徒が絵画や工作に高い才能を発揮しており、純朴で温厚だったため余計に可愛いながらも困った子だと思っていたという背景もある意味微笑ましい。
「困ります」という言い方は現代の弱い立場になりがちな者たちにとって大事な武装言葉でもある。
「困りますお客様」「それは部長、困ります」・・・本当は「やめてくれ」と言いたいがなかなか言えない場合に出す言葉「困ります」。これを言われたら、遠慮しながら相手に気を使いながらも、やめてほしいと伝えているんだなと真意を汲みたい。
なかには「知らないよ困ったって」と要求や願望を突き通す者もいるかもしれないが、そうはなりたくない。
上記の先生だって、生徒を傷つけたくない一心でおもんばかりながらイラストの回答は「困る」という旨を伝えているのだ。「困ります」と言わなくてはいけない場合、>その後に「~していただけたら幸いです」「~と助かります」と気持ちを追加してもいい。
「ここでのご飲食は困ります。休憩スペースにご案内しますのでそちらにご移動いただけたら幸いです」とまで言われて、その場でハンバーガーの紙包みを開ける者はまずいないと思いたい。「ここだめ。あっちで食べてよ」をここまで丁寧に言っているのだから、無視できない。