日ごろから“言葉”についてあれこれと思いを巡らせている壇蜜さんの連載『今更言葉で、イマをサラッと』第21回目。言葉選びと言葉遣いが、深く、楽しくなる。そして役に立つお話。どうぞお楽しみください!
その21『かたじけない』
先日、新たな言葉を勝手に作ってみた。あるスタッフが「食べたり作業したり、気が狂ったように熱中する状態を『狂』といういささか乱暴な言葉を使わずに気楽に表現したい」と言っていたので、周囲にいた数人のメンバーで何かなかろうかと考えていた結果、「パレってる」という言葉が誕生した。ガツガツとカレーを食べていたら「カレーをパレった」。夢中でゲームをしていたら「ゲームでパレっちゃった」。脇目もふらず掃除をしていたら「パレったように掃除してた」などなど、狂気を隠しながらも平常心ではない感じが伝わるだろうか・・・と。イメージとしては、パレードの非日常感や逸脱感を変形させたと考えて欲しい。パレってる・・・まあ、流行らないだろうが。
このように新たな言葉が(勝手に)生まれるなか、やはり同時に古きよき言葉も忘れずに見直していくべきだと思う。「かたじけない」というちょっと武士が言いそうないにしえの言葉の意味をご存じだろうか。漢字で書くと「忝い」もしくは「辱い」。おそれ多い、もったいない、恥ずかしいという意味を持つ。有り難し、から変化して「難し気なし」となったと言われる。ありがたいと思うと同時に、私なんかがおそれ多い、恐縮です・・・というへりくだる感情があるときに使う。古めかしい言葉と思うなかれ。「かたじけなく存じます」、親しい目上の方ならば「かたじけないです」と言えば相手を敬い自分を謙遜する便利な言葉になる。もったいないくらいに良いものをいただいた、手厚い待遇を受けたなどなど、身にあまる光栄は「かたじけない」で行儀良くパリッときめたい。少々武士っぽいかもしれないが、ありがとうございますよりも印象的な返事になりそうだ。
ちなみに、かたじけないと言われたときは「お気になさらず」と返すのが一番スマートではないだろうか。相手は貴方のしてあげたことに恐縮しているのだから、距離を縮めてもらう意味でも「どうか気にとめないで」の姿勢がいいだろう。貴方自身もしんどくて「少しは恐縮したままで」いて欲しいという例外ケースは、「お気をつけて」でもいいかもしれないが。