日ごろから“言葉”についてあれこれと思いを巡らせている壇蜜さんの連載『今更言葉で、イマをサラッと』第20回目。言葉選びと言葉遣いが、深く、楽しくなる。そして役に立つお話。どうぞお楽しみください!
その20『おかまいなく』
小さい頃から「よその家に行ったら行儀よくね」と言われて育った。ほとんどの家庭で親や保護者が子供に言うことだろう。子供の行動の先に躾をした本人たちの姿が投影されるのだから、行儀悪くは振る舞ってほしくない。私も親のそんな言葉に極力従おうとして、どうすれば行儀よき子供と思われるか幼いなりに考えた。
その結果、挨拶をして、出されたモノをがっついて食べず、丁寧な言葉が使えるといいのではないかという結論に達した。挨拶とがっつかないはできそうだった。しかし、丁寧な言葉遣いがどうにもピンとこない。当時小学校低学年。学校でもそこまで詳しく習うような年ではなかったし、漫画やアニメでは教えてくれない。結局何となく耳にした丁寧語でチャレンジしようと思い立つ。無謀甚だしい。
近所の友の家に呼ばれて遊びに行くことがあった。友の母はあれこれとお菓子やジュースを出して世話をしてくれたが、私は挨拶をしてお辞儀をしながら、「おかまいなく」と言った。友の母は笑って「難しい言葉知ってるのねぇ」と答えてくれてそこで会話が終わったが、どうにもモヤモヤした。「おもてなしをされているのに、かまわないで、というのは変なんじゃないか・・・」と。これが私と「おかまいなく」の出合いだった。
それからというものあちこちで「おかまいなく」を使ったり、時に使われたりするが、モヤモヤは消えない。詳しく調べてみて、目上の人にはあまり向かない言い方であり、「~するのをおかまいなく」の「~するのを」が省略されているため、省略形式でおまけにどこか突き放した印象を与えるからだということが分かってようやくホッとした。モヤモヤはそこまで歪んだ見方ではなかったことが判明した瞬間だった。
「おかまいなく」の丁寧形態は「どうぞお気遣いなくおねがいします」や「くれぐれもお気遣いなくおねがいします」。これで失礼にはあたらないようだが、距離はどうにも遠い。目上の方から言われたらどこか安心はするが、自分が目上でないうちは出されたモノやされたことに素直に感謝したい。恐れ入ります、ありがとうございます、遠慮なくいただきます・・・ちょっとくらい図々しいと思われたほうが、遠慮ばっかりのへりくだり生活よりも少しは愉快に過ごせそうだ。