日ごろから“言葉”についてあれこれと思いを巡らせている壇蜜さんの連載『今更言葉で、イマをサラッと』第18回目。言葉選びと言葉遣いが、深く、楽しくなる。そして役に立つお話。どうぞお楽しみください!
その18『やさしい』
先日、困っていたある女性に少し介助をした。・・・といっても、彼女が男性から持ち物を批評(彼らは親しい間柄なので、険悪な感じではないのが救いだった)されているなかにフォローのコメントを入れただけなのだが。そこで彼女に言われたのは、「やさしい~!!」という直接的な言葉だった。そういえば久しぶりに「やさしい(しかも困り眉ぽっい笑顔で)」とダイレクトに伝えられたな・・・と感慨深くなった。
私よりもいくつか若い女性であったが、うっかり恋しそうになった。何とも単純な女である。しかし、誰だって「やさしいですね」と言われたら嬉しいだろう。そして、やさしいことをこれからもしたいと思うだろう。そして、やさしいの意味を更に知りたくなるだろう。
やさしい。改めて調べてみると「美しいさま」「情がこまやかなこと」「刺激が少ない」などという意味が上がる。確かに「やさしい音」「やさしい祖母」「やさしい味付け」などよく使われている馴染みの意味たちだなと思っていた。
しかし、古典のなかにある「やさしい」は少し意味が変わってくる。「引け目を感じて恥ずかしい」「控えめでつつましい」「健気」「立派」という日常ではあまり使わないような意味を含んだ「やさしい」たちも存在するようだ。かわいい、が古典だと「可哀想だ、痛ましい」という同情の意味を持つ場合もあるのと同じ傾向なのかもしれない。強いていうならば「やさしいクイズだからすぐに解けるよ」にある「やさしい」は、問題の難易度を控えめにしてある・・・という意味として受け取れなくもない。やさしい、は様々な顔を持っているのだ。
いっそのこと、何かを誉められ謙遜をするときに「そんなことないです」などとは言わずに「私の~なんてほんのやさしい~ですから」と言っても趣があるかもしれない。「素敵な服ですね。高いんでしょう」「いえいえ。この服、私にもかなりやさしいお値段でしたよ」と返すと何となく和みそうな予感がする。やさしいという表現は、ピリッとしそうな場面を乗り越える武器のひとつとなるかもしれない。