日ごろから“言葉”についてあれこれと思いを巡らせている壇蜜さんの連載『今更言葉で、イマをサラッと』第12回目。言葉選びと言葉遣いが、深く、楽しくなる。そして役に立つお話。どうぞお楽しみください!
その12『そんなことない』
この記事を読まれている賢者の方々にも、見る前に跳ぶタイプがいらっしゃるかもしれない。向こう見ずとか猪突猛進と言われるかもしれないが、決して悪いことではない。慎重になることが必ずしも善とは言えないのだから。案ずるより産むが易し、という良き言葉もある。・・・当方産んだことないけど。
しかし、「そんなことない」を使うときはしっかり準備をしてから「そんなことない」と言って欲しい。言われたことを謙虚に受け入れたり、卑下している相手を慰めたり、意にそぐわない意見を跳ね返したり・・・「そんなことない」は様々な表現の導入のように使われる。よく使う言葉だと思うのだが、よく使うからこそ「より効果的に使うための心構え」を把握しておいてほしい。
そんなことない、の後に必ず「相手が言ったことへ逆説もしくは話題を転換させる言葉」を用意しておいて欲しいのだ。例えば、「~ちゃんって、かわいい服いっぱい持ってるよね」・・・と言われ、「ありがとう」とスパッと言うのもちょっと気が引ける・・・しかし誉められるのも照れ臭くて話題を変えたくなり「そんなことないよ」を発動させたとする。発動後はそれで終わるのではなく、しっかりと次の一手、二手を控えさせていなくてはいけない。「そんなことないよ。結構姉のお下がりが多いよ。そうそうお姉ちゃんがね・・・」とか「そんなことないよ。でもバーゲンとかセールには敏感かもね。あ、バーゲンっていったらさぁ・・・」などなど、謙虚に受け止めつつ、次の話題に舵を切る準備をしておいた方がいい。相手の自虐にも効果的だ。「そんなことないよ、次がんばればいいじゃない。気晴らししよ、ね」と返せば相手の心も救われよう。自虐や愚痴は聞く方も体力と精神力を持っていかれる。自分が参ってしまっては相手にも失礼だと考えると、話題の主導権を握ることも時には必要なのだ。
誰しも照れるとき、面倒で話題を変えたいとき、フォローしたいときがある。そして、とことん付き合えないときもある。「そんなことない+次の一手」で相手の自尊心を守りながら自己の消耗も控えたいところだ。