令和の清少納言を目指すべく、独り言のようなエッセイを脚本家・生方美久さんがお届け。生方さんが紡ぐ文章のあたたかさに酔いしれて。【脚本家・生方美久のぽかぽかひとりごと】
嘘か虚偽か捏造か出鱈目か

あっという間に、今年最後のエッセイがやってきました。今年はほんとによく言われました。「次回作まだ?」。こんなに忙しいのに、こんなにも忙しさを理解されない一年はこの先もうないと思います。ないべきである。あってはならない。あってほしくない。あったらやばい。ただでさえ忙しさで体力の限界なのに、メンタルまでえぐらないで。こんな締切だらけの日々で絶対に体調を崩してはならない!と思ってインフルやコロナに気を付けて生活していたのに、先日発熱した。インフルでもコロナでもなかった。世界はそれを疲労と呼ぶんだぜ(by山口隆)。
そんな2025年ですが、ギリギリ滑り込みセーフで脚本を書いた映像作品が世に放たれます! よかった! ギリギリ年一本のペースを保てています! よかった! 12月24日配信スタートです。ほんとギリギリ。クリスマスイヴからFOD先行配信が始まるドラマ『嘘が嘘で嘘は嘘だ』。たのしくあかるくすこやかに脚本を書かせていただきました。30分×4話のちっちゃな連ドラです。
お馴染みの髙野舞監督と、はじめましての金城綾香P。打ち合わせが毎回たのしかった。制作過程にとにかくストレスが少なく、純粋に「わーい!どらま!つくるの!たのしい!」って感じだった。過去一スムーズに企画が決まり、本打ちもサクサク進んだ。素敵なキャストの皆さんにもお集まりいただき、幸せです。ご褒美みたいな時間だった!
昨年、知り合いの脚本家やプロデューサーとご飯に行った際、同席した金城さんと‟嘘つき”の話で盛り上がったのがこの企画の始まりでした。雑談からオリジナル脚本のテーマや構想が生まれるの、とっても理想的ですね。これドラマになりそうですね~なんて言いながら雑談ベースの打ち合わせを重ね、監督をお誘いし、あっという間に今に至ります。ほんと始まると一瞬です。
このシンプルなのに難解なタイトルは、金城さんが当初の企画書に仮タイトルとして書いていたもので、気に入ったのでそのまま本タイトルにしてもらいました。いいですよね。
噓が嘘で嘘は嘘だ。日本語の助詞という概念、おもしろくてむずかしい。ヘブン先生も苦戦中ですね。ばけばけおもしろい。これ英語に訳すとどうなるんだろ。嘘が、嘘で、嘘は、嘘だ。覚えましたか? ほんとに?
30分×4話というちょっと特殊なサイズ感がまたよかった。トータルで長編映画くらいの尺間ではあるもの、サクッと4分割にしたほうが観やすい。とはいえ、ただ時間で4つに区切るわけではなく、各話のテーマもひっそり決めている。ちょっとしたクリフハンガーもつくる。連ドラはこれがたのしい。
正味25分程度の1話、とても書きやすかった。45分とか70分とか、長いですよね。劇場ならともかくテレビやスマホで集中してこの尺を観させるってほんと難しい。25分くらいが人間の集中力、そして現代人の忙しさ的にもちょうどいい気がしてきた。
少し前にフジテレビの深夜に「火曜ACTION!」というドラマ枠があった。若手のスタッフを起用する枠で、これも30分×4話。友人の脚本家(そうです、伊吹一です)も参加していてどれもおもしろかった。この枠わたしも書きたいなー。それよりコンクールを受賞した方のデビュー枠としてとても程良いのかもなー。いきなり木曜劇場とか書くと無知とプレッシャーで生死を彷徨うしなー(経験談)。などと思っていたのだけど、枠が消滅してしまった。復活してほしい!
まだまだ脚本家として若手ですが、これから出てくる人たちの環境を勝手に心配している。脚本家って新人が続々と出てくるような職業じゃないから、道が整備されていない。自分が苦しんだことで、下の世代に苦しんでほしくない。執筆という生みの苦しみ以外の邪気は全部払ってあげたい。「若いうちにいろいろ経験したほうが!」と言うお偉いさんもいるかもしれませんが、苦しむ必要のないことで、苦しむ必要などありません。デビューしたはいいけどわからないことだらけで不安な脚本家さん、気軽に連絡ください。手を取り合いましょう。嘘つくサラリーマンにまじ注意!!!!!!!!
こういうことを言うと、極悪環境でデビュー作を書いたと誤解されそうですが(とにかくフジテレビを悪く言いたい人多すぎ!)、わたしはかなり恵まれていたと思います。そう思えるくらい、よろしくない話をたくさんたくさん聞くので言っています。みんなが幸せにおもしろいものをつくりたいですね。ほんとに。
話それすぎた。ドラマの中身の話をします!
登場人物は全員が変でダメな人。なのに(?)だから(?)打ち合わせでスタッフの誰も‟共感性”を求めてこなかった。これじゃ主人公が嫌われちゃうんで……みたいな意見がなくておもしろかった。会話劇のコメディなので、ある種の明るさはあるものの、キラキラとはかけ離れている。自分の根っこにあるネガティブや腐った感覚が滲み出た気がする。
ひたすら居酒屋でメインの4人がくっちゃべっています。今「くっちゃべる」の漢字を調べようとしたら方言だということが発覚し、衝撃を受けています。上州弁、地味だから困る。バチバチに標準語のつもりで使ってしまって恥をかく。くっちゃべるはしゃべるよりもカジュアルな感じです。しょうもない内容をだらだらと話す感じです。くっちゃべる。
ひたすら居酒屋でメインの4人がおしゃべりしています。金城さんと企画を立ち上げたときも、嘘というテーマ以外に「ワンシチュエーションの会話劇が書きたい」という話をしていて、それもいっしょに実現した次第です。感謝。あと単純に予算が少ないので場面があまり変わらないほうがいいよね~みたいなこともあったり。お金って大事。
ドラマを作るとき、どんなジャンルとして打ち出すかで意外と議論になったりします。嘘嘘の場合は(嘘嘘って略してます)、制作時にジャンルがどうこうという話はしなかったのですが、一報出しにコメントを寄せる際「ヒューマンラブサスペンスサイコホラーシチュエーションコメディ」とふざけて勝手に名付けてみたところそういうジャンルってことになりました。ゆるゆる。
「生方美久初のミステリー作品」と見出しに書かれている記事を見かけましたが、この詰め込みに詰め込んだジャンル名に「ミステリー」を入れてなかったことに後から気付いて一人でウケました。実際のところ、決して本格ミステリーではないので期待せずに観てください。名付けた新ジャンルの語尾「シチュエーションコメディ」のところを楽しんでいただければと思います。あと地味に「サイコホラー」。
そんな変なドラマ、『嘘が嘘で嘘は嘘だ』。とってもおもしろいので、是非ご覧ください!
……ここでちょっとみんなと真剣に話し合いたいことがある。↑これ↑本当でしょうか。嘘でしょうか。
わたしの↑この↑発言を信じ、「そんなに言うなら地上波放送を待たずにFODに加入してクリスマスイヴに鑑賞するぞ~!」って人がいたとします。ありがとうございます。とある人は「ほんとにおもしろかった! 深夜放送もリアタイします!」とご満悦。一方、別のとある人は「くそつまんなかった。金返せFOD」とご立腹。
この場合、↑あの↑発言は“嘘”になるんでしょうか。「とってもおもしろいので」は、わたしのついた“嘘”ということになるのか………。でも“本当”におもしろいと思った人がいることも事実であって………………。
みたいな事柄を寄せ集めてはぐるぐると思考を巡らせて書いた脚本です。途中で「なになになになになんの話してんの」ってなるくだりもあるかもしれませんが、ボケーっと観るも良し、脳みそフル回転で観るも良しなドラマです。
おもしろいかどうかは人それぞれの感性に左右される部分が大きいため一概に言い切ることは難しいのですが、一生懸命に作ったことは事実ですので、お時間に余裕のある方は是非鑑賞することを検討いただけますと幸いです! です!
生方美久(うぶかたみく)
1993年、群馬県出身。大学卒業後、医療機関で助産師、看護師として働きながら、2018年春ごろから独学で脚本を執筆。’23年10月期の連続ドラマ「いちばんすきな花」、’24年7月期の連続ドラマ「海のはじまり」全話脚本を担当。

