本当は興味津々なのに、決して踏み出せない――芸人 紺野ぶるまさんの自分観察。【連載「奥歯に女が詰まってる」】
すぐ騙される女

齢にして38歳。
自分で言うのもなんだが人に騙されやすい人間である。10代の頃はモデルになれるよと某事務所に言われ、宣材写真代にレッスン代と、気づくと100万くらい払ってしまい、結局何も得られなかった。「力の源水」と書かれた2リットルで2,300円する水をポップアップストアで勧められ、飲んでみると本当に力が湧いた気がして、二つ抱えて帰ったこともある。
その経験から「人を見たら泥棒だと思え」を常に念頭に置いて生きている節がある。本当に悪さをする人はもちろん、なんとなく信じないほうがいい人というのはたくさんいる。38歳にして、ようやく見抜く力に自信が持ててきた。今日は三つご紹介したい。
その1 トピックスの数を提示する
「今日は三つご紹介したい」。2行前に書いたこれである。私も文字ではよく使う手法だが、会話になると爆裂に胡散臭くなる。
「今日はこの商品のおすすめポイントを三つお伝えします!」
この話し方はグッと引き込まれるものがある。が、セミナー感が否めないのだ。ハウツー本でよくみる手法だし、引き込まれた分、グッとハードルも上がるので中身でなかなか越えられない。この話し方だけが記憶に残ってしまうのである。なのに本人はどや顔だから、胡散臭さがすごいのだ。
その2 他人の名前を出す
「あの先輩も言ってたけど…」と会話のなかに入れていいのは一回までだと思う。本人の意思がみえない会話はとても退屈だし、他責すぎてずるいのだ。この類で聞いた最近一番ひどかったのは「私の友達」である。
初めて行った美容室で、髪の悩みを話すと「私の友達もこれ使ってたんですけど〜」という話を延々されたのだ。私が「明日名古屋行くんです」と言えば「私の友達も名古屋です」と満面の笑顔で言われたときのストレスは今でも時々思い出すくらいである。顔も性別も知らないその人の話を他人にするなんて、自分主体すぎてとても信用できない。
その3「久しぶり!」
数年ぶりならまったく問題ない。先日友人の結婚式に行った際、知らない男性にみんなの前で「久しぶり!」と声をかけられた。「ああ!」と返したあとにしばらく考えてみると、保育園で隣のクラスの人だった。もう30年は会ってないのにちょっと力技すぎないか? 覚えてることを強要されて気分が悪かった。
私がたまに運良くテレビに出るとSNSに「久しぶり! 最近頑張ってるね!」なんてコメントがある。覗くと、15年前派遣のバイトで一日一緒に働いた人だったり、ネット番組でめちゃくちゃ変ないじりをしてきたアイドルだったりする。なんだよ、今更。「ありがとうございます!」なんて言うと思っているのだろうか? 返信なんてするわけがない。水を売られたらめんどくさいのだ。
最後に
信用してはならない人とかけまして
味にこだわりがない人と解きます。
その心はどちらも出し抜こう(出汁抜こう)としてくるでしょう。
紺野ぶるま(こんのぶるま)
1986年9月30日生まれ。松竹芸能所属。著書に『下ネタ論』『「中退女子」の生き方 腐った蜜柑が芸人になった話』『特等席とトマトと満月と』がある。
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