伝えたい想いがあるとき、人は手紙を書きたくなる。女優の山口乃々華さんが、“あのひと”に向けて今の気持ちをしたためる連載。今回は、偶然出会ってとても印象に残ったひとへの手紙。【連載「〒ののポスト」】
キラリさんへ

キラリ。誰もが目を奪われるような、輝く瞬間がある人を「キラリさん」と呼びたい。
私はこの前キラリさんを見つけた。
ただ目が合っただけなのだけれど、すーっと吸い込まれるようで、なんならじっくりと覗き込みたくなる瞳を持っている人だった。
キラリさんと出逢ったのは、とある日の昼頃。中華街を歩きながら、劇場へ向かっているときのことだった。その日は雨予報だったから私は傘を持っていた。外に出たら別に傘を差さなくてもいいかな?くらいの小雨だったので、腕に傘をぶら下げながら歩いていた。お菓子を買うためにコンビニに入り、屈んで商品を手に取ろうとしたら傘がコツンと床に落ちたので、拾おうとしたときだった。
キラリさんは私の横にいた。ぱっと目があって、でもそんなことキラリさんは全く気にしていなくて、私の存在はまるで透明になってしまったみたいで、ただただキラリさんが輝いていた。なんだかわからないけれど楽しそうで、「ここにいる」それだけのことがものすごい幸福かのようなそんな雰囲気だった。
そのときのことを思い返している今、「湖の畔を歩く~」という歌詞の曲…昨年ミュージカルで歌わせていただいたのだが、その歌のそのフレーズが私の脳内でリフレインしている。
この曲は、孤独な人同士が惹かれあっている瞬間の歌。すなわちラブソングなのだけれど、私がその人に恋心が芽生えたとか、そういうわけではなくて。私にとってその瞬間のあまりの美しさは、あのとき舞台上で想像していた湖にいるような気分にさせられているから、なのかもしれない。
キラリさんは、いつも輝いてる人ってわけではなさそうだった。なんていうと、ちょっと失礼というか、何を知ってそんなことを言ってるの?と思われてしまうかもしれないけれど、私が言いたいのは、キラリさんがキラリさんになるには、孤独感みたいな空気を纏っている必要があるなと思った(さっきの歌リフレインは、キラリさんの孤独感と役の気持ちがリンクしていたのかも…)。
物事は、常に反対の意味と背中合わせになっている。例えば、始まったから終わるし、楽しかったから悲しみが分かる、みたいな。キラリさんは、もっともっと繊細に抱きかかえている感情があるだろうけれど、簡単にいうと「寂しかった」から「嬉しい」が際立っている、そんなように見えた。それがとっても綺麗だった。目が合った、それだけのことに、こんなに心打たれるとは。
キラリさんを見て思ったのは、人間関係やお仕事や環境などに対して思う、自分だけでは抱えきれない気持ちや、消化しきれない感情のモヤモヤなどの解決しきっていないことがあっても、それをそのまま背負いながら生きているということ。そのしんどさが裏側にあるだろうに、いやあるからこそ、幸せを感じる瞬間を大切にしている様子は、人から見ると、心に訴えかけてくるものに見えたりするんだなということ。しんどいけど、しんどいことが、ある瞬間に輝く。今にも消えそうな希望みたいなものが見え隠れする人間くささは、人を惹きつけるものがあるのだなと。
キラリさん、素敵な瞬間をありがとう。
しんどいこともちょっと抱えてみようかな。私が私なりのキラリさんになれるのはどんな瞬間だろう、なんて思いながら。
山口乃々華より
山口乃々華(やまぐちののか)
3月8日生まれ、埼玉県出身。2020年末まで E-girlsとしての活動を経て、2021年から女優として本格的に活動を開始。 映画『イタズラなKiss THE MOVIE』シリーズ、ドラマ・映画『HiGH & LOW』シリーズやHulu版『崖っぷちホテル!』などに出演、『私がモテてどうすんだ』ではヒロイン役を務めた。2022年には『SERI〜ひとつのいのち』でミュージカル初主演を務め、以降「SPY×FAMILY」、a new musical『ヴァグラント』、『ラフへスト~残されたもの』などミュージカルを中心に出演。また、舞台『「呪術廻戦」-京都姉妹校交流会・起首雷同-』では、釘崎野薔薇役を務めるなど活動の幅を広げており、今後の出演作として、4月には音楽劇『NINETEEEEN GRRRLZ’ 99』、7月にはミュージカル『ピーター・パン』、そして9月からはミュージカル『SPY×FAMILY』再演など、今後も舞台での活躍が期待される。
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