アーティストそして俳優として、活躍のフィールドを広げ続けている川島如恵留(Travis Japan)の連載『のえるの心にルビをふる』。11月22日に30歳を迎える彼が、今だからわかったこと、気付いたこと、そして様々な出来事についての自らの考察をつづります。【vol.4≪夏休みを取り戻せ≫】
夏休みを取り戻せ!
夏が来ると雑誌の二択の質問で夏休みの宿題は「直ぐ終わらせる派」か「ギリギリにやる派」かをよく聞かれる。雑誌に出る人全員への共通質問として、一目で性格が分かりやすいという事から重宝される質問案なのだろう。
私の場合事実として「直ぐ終わらせる派」だったからいつもそう答えているが、集計結果を見ると「ギリギリにやる派」も一定数いて毎度びっくりする。しかしこの二択を迫られるとそうなってしまうのも無理は無いとも思う。当たり前のことだが、直ぐに終わらせない人は「直ぐ派」を選ばないし、ギリギリとは言っても残り三日をギリギリという人もいれば残り二週間をそう呼ぶ人もいる訳だから「ギリ派」が増えるのも頷ける。
夏休みが始まる前に予定を立てて、ドリルは毎日何ページやる、日記は毎日つける、自由研究はいつまでにやる、と決めても常に進捗100%でこなすのは難しいのだから、そのツケが終盤にどうしてもまわってしまう。子どもの夏休みは忙しいのだ。だからもしそこに三番目の選択肢として「コンスタントにやる派」が追加されたとしても結局「直ぐ派」か「ギリ派」に大多数が流れる気がする。
実際にコンスタントに毎日出来る人なんているのだろうか。どこかで帳尻を合わす事なく日々完遂出来る人がいるのなら是非その方法を教授願いたい。素晴らしすぎるからちゃんと讃えたい。人類の宝だ!
夏休みの宿題で学ぶ事というのは大人で例えると締め切りを守る事だと今は思う。決められた期限を如何にして守るか、達成出来るかを学ばせる為にあるのかもしれない、と思うようになった。大人の世界に一歩踏み出すと期日を守る事が第一優先とされるようになりがちである。
いつまでに返信をするだとか、いつまでに資料を仕上げるだとか、期日が決まっている事に間に合わす事が出来ないと酷く叱責される(と思う)。どれだけ綿密な打ち合わせを重ねても、どれだけ完璧なプレゼン資料を作っても、プレゼン当日に間に合わなければその価値はゼロどころかマイナスになってしまう(と勝手に思っている)。資料が間に合っていないところを上司に見られたらとんでもない大目玉を食らう事この上ない(んだろうぁ、大人ってコワイなぁ)。なんとかして間に合わせなければ信用を失ってしまう(これは多分ガチ)。
「直ぐ派」の社会人が大事なプレゼン資料を直ぐに仕上げても「ギリ派」が発表前日に仕上げても、同じ出来具合であれば基本的にはどちらも問題はないのだろうが、その場合は「直ぐ派」の方が仕事が出来るように映ることが多い。
「うわー! せんぱーい! まだ期限まで10営業日も残ってるのにもう出来ちゃったんすかー!? 仕事早いっすね! 流石っす!」みたいな会話が繰り広げられていること間違い無いシチュエーションだ。
しかし時に「ギリ派」の方が沢山の時間を使って「直ぐ派」よりも良い資料を作る事がある。そうなると「ギリ派」の方が良い結果を期待出来る。資料作りには最新データとして現状を反映させるなど新鮮さを出すことも手だからである。
「先輩ほどは早く出来ないっすけど自分もギリギリまで粘って資料作ってみました! 色々とデータ収集して直近の情報も反映させてみたんですけどどうですかねー?」なんていう後輩がいたら「コイツ…やるな…」となるのでは無いだろうか。知らんけど。
まぁ、同じ資料を作る事なんてないか。無駄だもんな…まぁそれは一旦置いておいて、前者のように直ぐに資料を仕上げる事で他の事に着手出来る時間を生み出す事は効率的であると同時に、後者のようにプレゼン資料は如何に結果を出せるようにするかに重きを置いている事をきちんと認識している事はとても重要である。
そうなると「直ぐ派」と「ギリ派」のハイブリッドが良いのではないかと言えるのではないだろうか。
なるべく早く骨組みを作っておいて時間をかけてじっくり肉付けをする。その上に仕上げとして新鮮味を振り掛けることが出来れば、間に合うかどうかを周囲に心配させる事なく、最後までみずみずしさたっぷりの資料が出来るのでは、と考えられる。
きっとこのエッセイを読んでくださっている皆様の中には私より圧倒的に大人の世界を知っているよという方の方が多いと思うから「いやいや、そんな事ないぜ」という反論もあるかもしれない。知ったかぶってごめんなさいではありますが、同じく資料を作ってプレゼンする身としてはそんな印象があるんだよな、と思っていただけると嬉しい。
夏休みの宿題に求められていることは「全問正解している」のような結果ではなく、きちんと終わらせてきているかどうかである。だから厳密に言えば上記のプレゼン資料云々の話は的外れなのかもしれない。でもどこか繋がっている気がするのは私だけだろうか。
若いうちから与えられたノルマをこなす為の力を身につけておく事やその大切さの理解度をあげておく為に、普段より多い量の宿題を出され、期間内に終わらせる為のスケジュール組みの能力やあとどれだけ残っているかの全体を把握する能力を身につける為の訓練をしているのだろう。
一度に全部は出来ないから少しずつ学んでいく。先ずは期限を守る事を教えてくれるのが夏休みの宿題だ。(ここまで完全に主観である)
さぁ、オトナ諸君。ここで私は問いたい。
我々の夏休みはどこへ行った!
我々に夏休みというものがあるだろうか!
いや! 無い!
では、あの頃のような夏休みを取り戻したくはないだろうか!
我々は夏休みを卒業したらしい。気付いた時には夏休みの消費期限が過ぎてしまい手放さざるを得なくなっていたようなそんな気がする。
子どもの頃は五連休、十連休、四十連休なんてものまであってそれを楽しみに日々をなんとなく過ごしていたのに、今は毎週末の土日で我慢しなければならない上に四十連休なんてどう頑張ってもまず取れない。ホワイトと呼ばれる企業で働いていたとしても大型連休は年に数回あるかどうかであって、基本的には土日の二日間で満足しなければならない。
人によっては土日を自分ひとりのものに出来ない人もいるだろうし、完全週休二日制でないとそもそも週に二日休める事すら珍しいだろう。
休みの日と書いて休日。それなのに休めないのなら反平日だとか否平日、not平日というべきである。
私は怒っている。文句がある。
我々社会人が取れる休みには限界があるのに宿題の量は増え続けるのはなぜだろうか!
やるべき事は増え、正解を求められるようになったのに、休みは短くなり続ける!
ご褒美をくれ!
給料以外のご褒美を!
というか休みをくれ!
こうして今では夏が来ると縁側でぐーたらする代わりに文句を垂れる。やるべき事を後回しにして後々追い込まれるくらいなら、直ぐにやってしまって毎日少しずつ夏休みを生み出さなければやっていられない。
どのみちまとまった休みが取れないのなら、日々小さな休みを生み出してマクロで見た時に程々に休めたなと思えるようにしてやるのが私の休み方だ。
仕事大好き人間を自称していてもある程度の休みは欲しい。欲張りさんである。
ご褒美として縁側をいただけないだろうか。(強欲)
宿題はいくらでもやってやる! 直ぐに手をつけるしギリギリにまた最終チェック入れる! だからどうか! 縁側と休みとワクワクする新しい仕事をください!(強欲の権化)
【今月のTouch the Heartstrings】
我が家のお姫様ズはこんなに暑いのに毛皮を脱ぎません。私が家ですっぽんぽんでいると「なんで?」とおめめまんまるにしてこちらを凝視してきます。そっちがなんでや。写真の目の中は写り込みがないように毎度修正しております。くれぐれも拡大なさいませんように。
川島如恵留(かわしま・のえる)
1994年11月22日東京都出身。小学生1年からジャズダンスを始めた後、芸能活動をスタートし子役としても舞台にも出演。その後、2007年10月よりアイドル活動を開始。2012年7月にTravis Japanの結成メンバーに。2022年10月に全世界メジャーデビュー。2017年青山学院大学卒業。2019年に宅地建物取引士、2023年には国内旅行業務取扱管理者の資格を取得。2024年4月から個人のYouTubeチャンネル「のえるの隙間時間」、同名のXも開設。
YouTube @noelnosukimajikan