7月クールのドラマのなかで特に注目されている、7月1日月曜夜9時からスタートする「海のはじまり」。その脚本家・生方美久さんには、令和の清少納言を目指すべくGINGERで独り言のような連載エッセイ「ぽかぽかひとりごと」を2022年4月から執筆いただいています。そんなご縁があって特別に本作品への想い、ドラマの見どころなどをじっくりと伺いました!
‟こだわり”を諦めない脚本を最終話まで書き上げたいです
2024年7月・月曜夜9時から始まる連続ドラマ「海のはじまり」。社会現象にもなった「silent」の脚本家・生方美久さん、風間太樹監督、そして村瀬健プロデューサーらが集結して作られる完全オリジナル作品は、スタートする前から早くも話題に!
〈人は、いつどのように“父”になり、いつどのように‟母”になるのか。この時代だからこそ伝えたい‟親子の愛”を通して描かれる‟家族”の物語。〉という放送前の解説に、ドラマ好きだけでなく誰もが惹かれてしまう要素しかありません!
今回のドラマで一番大切にしていること、伝えたいことは?
視聴者のみなさんにとって、考える余白のある作品にしたいと思いました。そのために、今回は本編中でモノローグやナレーションを一切使っていません。セリフも「言わせ過ぎない」と「あえて言う」のバランスを大切にしています。普段の人間生活のなかで、他人の感情は簡単には見えるものではありません。でも、その人にはその人だけの感情があり、感情の理由から、感情の流れが生まれます。それらをそっと見守っていただけると幸いです。
明確に伝えたいことはふたつだけです。ひとつは、がん検診に行ってほしいということ。すべての人が受診できる・受診しやすい環境が整ってほしいです。もうひとつは、避妊具の避妊率は100%ではないということです。大人でも「避妊すれば妊娠しない」という認識の人が非常に多い。今回のドラマのあらすじが公開されたときも「大学生にもなって避妊も知らないカップルの話なんて書かないでくれ」というご意見をもらいました。予期せぬ妊娠をした人とそのパートナーを「避妊しなかった」「性にだらしない」と決めつける風潮が、さらに彼らを追い込みます。コンドームは正しく使用しても90%程度、低用量ピルの内服でも99%の避妊率といわれています。人工妊娠中絶に対する否定的視線もそう。事情も知らずに非難される傾向にあります。いつか身近に彼らと同じ悩みを持った人が現れたとき、悩み苦しみながら自らの選択をしたドラマの登場人物たちを思い出し、少しだけ優しくなってください。
伝えたいわけじゃないことは、「家族は素晴らしいもの」ということです。家族を嫌いだっていいと思っています。家族ではない‟つながり”を持った登場人物たちの感情や選択が何より重要な作品だと思っています。
1回目でおすすめのシーン、セリフなどを教えてください。
センスがあるうえに努力してくれる撮影チームなので、映像美は裏切らないと思います。タイトルに「海」とあるわりに、ドラマ全体を通してたくさん海が出てくるわけではありませんが(笑)、1話はしっかり出てきます。「海のはじまり」というタイトルの意味合いを1話のファーストシーンとラストシーンですでに描き始めているので、考えながら感じ取りながら観ていただけるとうれしいです。1話に限らず、「選ぶ」「選択」「選択肢」といったワードには注目していただきたいです。
主演の目黒蓮さんそして泉谷星奈さんとご一緒されるのは2回目に。以前と今回の印象、そしてお二人への想いを教えてください。
脚本執筆を依頼された時点で言われたのは、「目黒さん主演で2024年7月期の月9。オリジナルで書いていいよ」ということだけだったので、親子を軸にした話がしたいと提案をさせていただきました。アイドルでもある俳優さんなので、一部で難しい反応もあったようですが、結果的に企画を通していいただけました。目黒さん自身が賛同してくれたことが何より大きかったようです。まずは企画を実現させてもらえたことに感謝しています。
個人的には「silent」の佐倉想という役から大きく飛躍させなくては、という考えはありません。目黒さんの持つ魅力を別角度で表現できればと努力はしますが、それは脚本のさらに向こうにあるものだと思うので、安心して本を委ねようという気持ちです。星奈ちゃんとの初対面の場にも同席したのですが、なんともいえない距離感がとても夏と海らしく微笑ましかったです。夏は「俺が父親になる!」と奮闘するタイプではなく、周囲の人たちの想いを考えながら、迷いながら、間違えながら、少しずつ“海にとっての父”を理解しようと歩んでいく穏やかな主人公です。温かみのある夏を豊かに演じてくださると思います。
星奈ちゃんとは、「いちばんすきな花」のときは実際にお会いすることができず、今回のオーディションで初めて会いました。実は「すき花」でキャスティングの話になったとき、わたしからプロデューサーに「今田美桜さんに似てて6歳の子役さんがいるんですよ」と星奈ちゃんのインスタを見せてました。とはいえ、そのときもオーディションです。実際に監督とプロデューサーがお芝居を見て決めてくれました。最近よく出てる、顔が似てる、年齢がちょうどいい、という理由だけで選ばれていません。毎度オーディションを勝ち抜いている、お芝居のできる俳優さんです。切ない表情が上手なのが海ちゃんを演じるうえで何よりも強みだと思います。普段はニコニコしてキャッキャとおしゃべりする普通の7歳の女の子なのに、カメラの前でスッと海ちゃんの気持ちが入った顔になるのはプロだなぁと感心します。
ドラマを愛されている生方さんですが、生方さんにとって「月9」はどんな存在ですか?
正直、ドラマの「枠」というものへの意識はありません。月9というのは、おそらく「枠の名前」がいちばんポピュラーなぶん、良くも悪くも注目されてしまうんだと思います。とてもありがたいです。「ありがたいです」以上の感情に自分が引っ張られないよう、気を張っています。前2作は木曜劇場で、とても歴史があり偉大なドラマをたくさん放送してきた枠です。今回月9の脚本を書くということで「プレッシャーでしょ?」という類のことをたくさん聞かれますが、ド新人があの木曜劇場でオリジナル脚本を全話書くというあのプレッシャーに勝るものはこの先絶対にありません。一生分のプレッシャーを「silent」に置いて来たので大丈夫です。今は枠というものにとらわれず、与えられたものに感謝するだけです。過去の月9ドラマでお気に入りなのは「人にやさしく」です。撮影時の須賀健太さんは小学校一年生だったようで、無意識に影響されたのかもしれません。
ドラマ脚本3作品目になりますが、取り組んでいくうえでの“こだわり”は?
脚本のこだわりとしては、毎度のことですが各人物を多面的に描くことです。主人公が軸になるのはもちろんですが、その周辺人物を描くことで結果として主人公の人間性がより豊かに見えることもあります。夏と海が親子になっていく話というのは、あくまでひとつの軸でしかありません。そして、相変わらず回想シーンが多いです。古川琴音さん演じる水季1話の時点で亡くなっている役柄なので、回想シーンしか出てきません。未来を見据えて今を生きていく人たちにとって、過去は重荷であり希望です。回想シーンの見せ方、切り取り方、繋ぎ方にはこだわっています。
連ドラも3作目となると、諦めを覚えるようになります。クリエイティブへの裏切りを感じると瞬発的には抗っても、後に自分のなかで「だよな」「もういいや」となってしまうことが増えました。“こだわり”なんか捨てたほうがいいという気持ちになります。ただ、連ドラも3作目となると、出会いも増えます。今作は監督が3名いるのですが、全員過去に拙作を撮ってもらったことのある監督たちです。それが何よりも心強いです。脚本やキャラクターは自分の子どものような感覚なので、自分自身の否定よりも脚本を存外に扱われることのほうが強く傷つきます。信頼できる監督たちと、その元に集まったスタッフキャストのみなさんで映像を作り上げると思うと、安心して我が子を託せます。自分のわがまま(こだわり)で、撮影が大変になる柱や、長すぎるワンシーンを書いてしまうこともあるのですが、どのスタッフもドラマがより良くなることを優先に考えてくださり、すぐに「脚本を変えよう」ではなく、「この脚本のまま実現する方法を考えよう」としてくれます。残り少なくなっていますが、スタッフキャストのみなさんに実現したいと思ってもらえるような、“こだわり”を諦めない脚本を最終話まで書き上げたいです。
視聴者のみなさんには、ドラマを観て何か感じるものがあったらスタッフクレジットまで気にかけてもらえるとうれしいです。その名前がひとつでも欠けたら、このドラマは存在しませんでした。
「silent」の最終回放送前にもインタビューを行っていたGINGER。当時、ドラマの展開を考察する人たちが多かったなか、「ドラマを観てどう思ったか、自分の感想や思いを大事にしてほしいな、と思います」と語っていた生方さん。彼女が紡ぐ静かで優しく、力強い言葉とその先にあるメッセージを逃さず、観た後にちょっと考える時間。この夏は作ってみませんか。
「海のはじまり」主演・目黒蓮
2024年7月1日スタート(初回30分拡大)
毎週月曜夜9時放送
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生方美久(うぶかたみく)
1993年、群馬県出身。大学卒業後、医療機関で助産師、看護師として働きながら、2018年春ごろから独学で脚本を執筆。’23年10月期の連続ドラマ『いちばんすきな花』の全話脚本を担当。