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TIMELESSPERSON

2023.06.16

生方美久によるショートストーリー「そのこ」

連載3回目にして、早くも「自分事ばかり話してもみんな興味ないのでは……」と不安にかられてしまったので、今回はちっちゃなお話を書きます。どうぞ。【脚本家・生方美久のぽかぽかひとりごと】

写真協力/小林久井

第3回 「そのこ」

朝、目覚ましが鳴る前に目が覚めた。もうちょっと寝れたのになぁという後悔と、アラームを聞かずに済むという安堵感を天秤にかけつつ、まぁプラマイゼロかな、なんて思って呑気にぬくぬくしていたら、あの耳障りな警報音が鳴って、ただただマイナスになった。そんな朝に、その子はやってきた。

玄関を通らず、気付いた時には横にいたその子は、一般的に『思い出』と呼ばれているらしく、「急になに? は? なんで?」と威嚇すると、「いやいや呼ばれたから来ただけなんで」と横柄な態度で床に座り込んだ。敬語なのが逆に鼻に付く。嫌いなタイプだった。見た目がタイプだったので一瞬ドキッとした自分を悔やんだ。容姿端麗。面食いの自分の元にやってくるなんてタチが悪い。髪型やメイク、服装もドンピシャだった。長い黒髪がきれい。声もかわいかった。ただそのかわいい声で発する言葉がよろしくない。

園子ちゃんと最後に会ったのは、ぼくが大学4年目の3年生、園子ちゃんが2年生の初夏の朝だった。前の晩、園子ちゃんはぼくのアパートに泊まった。翌日の講義は、ぼくは1限から、園子ちゃんは3限からで、「じゃあ午前中は寝てられるね」と言ってスマホを放り投げてベッドに横になると、園子ちゃんは「また3年生だったら別れますよ」とぼくのスマホのロックを2発目であっさり解除し、1限に間に合う時間にアラームをかけた。「死んでても起きれるやつ教えたげますね」と警報のような特別耳障りな音に設定してくれた。

園子ちゃんは、その子ほどの美人ではないし、ぼくはもうちょっと清楚な服装が好きなのに、いつもスケボーで滑ってそうな恰好ばかりする子だった。美容院でのオーダーを悩んでいたとき「ロングも見てみたいなぁ」と言ったら「色で悩んでるだけなんで」と言われた。美容院から戻るとキラキラ光るショートカットを見せてキラキラと笑っていた。怒ると感覚的に2オクターブくらい声が低くなった。口うるさくて口が悪い。それなのに先輩後輩として知り合った手前、ずっと敬語が抜けないのが時々イラッとさせるし、かわいい。

好きな女の子のタイプを聞かれたら、園子ちゃんとは程遠い女の子をイメージしてしまうのに、好きな女の子は園子ちゃんでしかなかった。

朝、目が覚めた。静かだった。静かだったから、横で寝てる園子ちゃんの寝息もしっかり聞こえた。スマホを見ようと体を動かしたら園子ちゃんも目を覚まして「おはようです」と言った。中途半端な敬語ならやめていいのに。「え、鳴りました?」「鳴ってない。今16分」「えー、4分無駄起きじゃないですかー」「無駄起きってなに」「無駄に起きることです」「あー、でもアラーム聞かなくて済むのよくない?」「でも睡眠時間削ったんですよ、4分も」「削ったっていうかな」「削られました。貴重な朝の4分。無駄起きの4分」と、やすりで何か削るみたいにぼくの髭を勝手にこすって、勝手に痛がった。人間は4分あったら何ができるかについて話していたら、いつの間にか4分たっていて、7時20分にセットされていたアラームが鳴った。たしかにこれは死んでても起きるわ、と思うような警報音だった。「これは無駄アラームです」とのことだった。

1限に間に合う時間に一緒に家を出た。「一旦帰ってもうちょっとだけ寝ます」と言って、園子ちゃんはアパートに向かうため最寄り駅の改札をくぐった。見えなくなるまでボケッと後ろ姿を見ていたら、突然振り返って、目が合って、ちょっと笑って、口パクで「イチゲン」と言われた。口パクで「ヤダ」と返したら、「別れますよー!」と叫ばれて死ぬほど恥ずかしかったので雑に手を振ってその場を離れた。あの距離でもクスクスとした笑い声はちゃんと聞こえた。それからチャリで大学に行って、ちゃんと1限に出て、スマホでSNSを徘徊していたら、電車の脱線事故のニュースにたどり着いた。「ちょっとだけ寝ます」と言った園子ちゃんの言葉は嘘だったけど、「別れますよー!」はほんとだった。起きるんじゃないかと思って、お葬式であのアラームをかけた。起きなかった。事故の原因解明がどうのと騒ぐワイドショーで、「乗客たちを無駄死ににするな」と、騒ぐおじさんを見て、無駄じゃない死って……と考えていたら、5年目の3年生になっていた。園子ちゃんに怒られる。怒られるから、その先もとりあえず生きた。

よく思い出は美化されるっていうけど、美化ってそういうことなのね。別にビジュアルを好みに寄せてくれなくてもいんだけど。あんまり好みじゃないところが好きだったんだけど。まぁ本人に「あんまり好みじゃない」は死んでも言えなかったし、向こうが死んじゃったし、なんならぼくも死にたかったけど。

けど、こうやって時々、「思い出です。どうもどうも」って何食わぬ顔してやってくる。もうちょっとなんか、頑張れ的なメッセージとか、幸せになっていいのよオーラとか、そういうのを醸し出してくれてもいんだけど。そういうわけでもなく、たまにやってきて、ちょこんと横にいて、口うるさくなんか言って、またどっか行く。今日は警報が鳴る前に目が覚めた、それだけのことでやってきた。まだやめとけってことか、もう大丈夫だよってことか、うーん、わかんない。わかんないけど、今日は会社まで久しぶりに電車に乗ってみよう。改札の前でダメだと思ったらチャリで行こう。その子はきっと、電車に乗れたら上から目線で褒めてくれる。乗れなかったらバカにしてくれる。園子ちゃんも、きっとそう。

TEXT=生方美久

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