今期最も話題のドラマ「silent」。この作品がデビューとなる脚本家・生方美久さんと、彼女を見出したプロデューサー・村瀬健さんに、ドラマに込めた思いや、作品の裏側について語っていただいた。
“よくある障がい者のドラマ”とは言われたくない
――今回はつらい恋を描いていますが、ラブストーリーは得意ですか?
脚本家 生方美久さん(以下、敬称略) 実はラブストーリーを書きたいと思ったこと、全然なかったんです。
プロデューサー 村瀬健さん(以下、敬称略) え〜!! それ、今初めて知りました(笑)。
生方 このドラマはラブストーリーではあるんですが、恋愛以外の心の動きについての描写も多いのでとても楽しいです。とはいえ、登場人物みんなにつらい状況を描く必要もあったので、そういうところは私も書いてて苦しい。しょっちゅう泣きながら書いてました、「苦しめてごめんね…」と思いながら。
――例えば、第7話で紬が想に手を抑えられ、手話を封じたなかで、自分の思いを声で伝えるシーンがあります。号泣必至の名シーンですが、そういうシーンを泣きながら書くんですか?
村瀬 僕はあのシーン、脚本を読んだ時点で、すでに号泣でした。
生方 あのシーンはサラッと書きました…。1mmも泣いてないです(笑)。
――なるほど(笑)。その、視聴者側の感動ポイントと、書き手としての感動ポイントにいい意味でズレがあるからこそ、この物語が大勢の心を掴んだのではないか…と今思いました。
生方 “よくある障がい者のドラマ”とは言われたくない、という気持ちが大きいからかもしれません。例えばこういうテーマのドラマは、普段しゃべらない人がしゃべるのが感動的なシーンになると思われやすい。でも当たり前に想像できるもので感動を誘うのは、自分としては気持ちがいいものではない。3話で、想が声を出して妹に呼びかける場面があるのですが、中途失聴者のなかには発声する方はたくさんいるので、そのリアリティを見せたかったこともあり、なんてことないシーンで想を最初にしゃべらせたんです。
村瀬 それは僕も同意見で、そういうわかりやすい方向で泣かせるドラマを作ろうとはまったく思わなかったです。それはこのテーマでドラマを作ろうと思った時点で決めていました。
――では最後に、「silent」の熱狂的なファンの方へメッセージをお願いします。
生方 皆さんいろいろと考察をしてくれていますが、それ以上にドラマを観てどう思ったか、自分の感想や思いを大事にしてほしいな、と思います。
村瀬 僕を含め、スタッフやキャスト全員、生方さんが書く本が好きで、「silent」という作品を愛してくれているから、熱量がある作品が作れたと思いますし、それをこんなにも多くの方に受け入れてもらえて本当に幸せです。この雑誌(インタビューが掲載されているGINGER2023年2月号)の発売日の翌日が最終回だそうなので、多分今みなさんは、「どうなっちゃうの〜!?」と大混乱なはずです(笑)。最終回、最後の最後、ラストシーンのラストカットまで含めて「silent」の世界を楽しんで、感じて頂けたらうれしいです。
「silent」(サイレント)
出演/川口春奈、目黒蓮(Snow Man)、鈴鹿央士、夏帆、風間俊介、篠原涼子ほか
主人公の青羽紬(川口)は8年前に最愛の恋人・佐倉想(目黒)と別離。新たな人生を歩もうとしていたとき、偶然町中で想を目撃。実は彼は8年の間に病気で聴覚をほとんど失っていた。音のない世界で出会い直すふたりと、彼らを取り巻く人々の物語。
生方美久(うぶかたみく)
1993年5月10日生まれ、群馬県出身。看護師や映画館でアルバイトをしながら脚本を学び、第33回フジテレビヤングシナリオ大賞の大賞受賞。
村瀬健(むらせけん)
フジテレビドラマ・映画プロデューサー。日本テレビで「14才の母」などを手がけた後、フジテレビに移籍。代表作にドラマ「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」、ドラマ・映画「信長協奏曲」、映画「キャラクター」など。