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MYSELFウェルネス

2026.08.23

「人生なんて一瞬だ」気づいた人ほど焦らなくなる理由

“わたしの心地よさ”を基準に行動することが、ウェルビーイングに生きるカギになる。そのために、もっと自分自身を知る=自分のトリセツを手に入れませんか? 保健学博士の島田恭子さんがナビゲート。【連載「自分学 わたしのトリセツ」vol.43】

一瞬なのに、私たちは何をしているの

前回、半世紀ぶりに屋久島へ行った話をしました。

大川の滝の前、水しぶきを浴びながら、「ああ、人間って、なんて小さいんだろう」と思って、なぜか涙が出た、というお話。その感情にはAwe(畏敬の念)という名前がついていて、人を小さくし、そのぶんやさしくする——というところまででした。

でもあの滝の前でもうひとつ、思ったことがあったんです。

滝を見上げながら思ったこと。

この滝は、私が生まれる前、何万年も前からここでこうして流れていて、この先私がいなくなったあとも、ずっとずーっとここにいる。想像もできないほどものすごく長い、タイムスパン。

それにくらべて私たちの一生なんて…長くて100年。滝にとって”まばたき”にもならない一瞬でしかない。

そんな”まばたき”なのに、私、なんか、ちっちゃいこと、気にしてない?
人の評価を気にして誰かと自分を見比べて。あれがない、これが足りない、と言って焦って。買って、また欲しくなって、また買っちゃって。

えっ……なんか、もったいなくない??

時間はたっぷりある

ちょっと長い遠いスパンを感じた結果、「自分の人生なんてほんの一瞬」という気づき。ふつうに考えたら、これって焦る話ですよね。時間がない! 急がなきゃ!…って。

ところが研究の結果は、まるっきり逆でした。

スタンフォード大学などの実験。参加者に畏敬(Awe)を感じてもらった後、いくつか質問をします。すると、畏敬を感じた人たちは——

「自分には時間がたっぷりある」と感じるようになった
せっかちでなくなった
人のために自分の時間を差し出すようになった
モノより、経験を選ぶようになった
人生の満足度が上がった

と答えたのです。

なぬ? 時間のところ…不思議じゃないですか? 「自分の人生は一瞬だ」と思い知らされた人が「時間、けっこうあるな」と感じはじめるとは。

研究チームの説明はこう。畏敬は、人を強制的に”今、ここ”に連れ戻す。過去の後悔でも未来の心配でもなくこの瞬間に。そして”今、ここ”だけを見ている人は、「時間はたっぷりある」と感じるのだと。

たしかに。考えてみると、私たちが「時間がない」と言うとき、「今ここ」を見ていないんですよね。まだ来ていない締切のことを考えているとか、終わったこと・しなかったこと・できなかったことを悔やんでいるとか。

私の解釈はこう。雄大で悠久な畏敬を感じると、自分の視点が上がり、ちょっと高い全体からモノゴトを見られる(メタ認知)。全体の高い位置から自分の時間や人生をみてみると、悩んでいたあんなこともこんなことも、実は大したことない、と。そんなに大げさにおおごとにモノゴトを捉えなくていいし、今までみたいに切羽詰まってあくせく焦って慌てなくたっていいのでは、と思えてくる。メタ認知を手に入れることで、もっと時間をゆったりと過ごせるようにになるんじゃないかなと。

いずれにせよ、時間を奪っているのは時計じゃなくて、私たちの頭のなかなのかもしれませんね。

空港で、私はお土産を買わなかった

そして、畏敬を感じた人はモノより経験を選ぶ。という結果。なるほど…。
たしかに、モノなんて棺桶に持って入れない。悠久の宇宙を感じた後は、急に眼の前のモノがちっぽけに見える…。

帰る日。屋久島空港の待合には、たくさんのお土産が並んでいました。トビウオのさつま揚げ(美味しい)。屋久杉のお箸。たんかんのジュース。焼酎などなど。

私はふだん、買うほうです。旅先ではだいたい荷物が増えて困ってます。
でも、屋久島ではフシギとお土産、買いませんでした。
それはたしかに、たくさんのものを大地からいただいたからかもしれませんね。
濡れた葉の美しい光。スポンジみたいに沈んだ苔。こちらをじっと見ていたヤクシカ・ヤクザル…。手のひらに乗るものは増えてないけど、たくさんのお土産をいただきましたよ。
(……ちなみに、この効果はどうやら永久ではないようで、東京に帰った翌週、私はふつうにネットで買い物をしてました、人間だもの)

体のほうにも、届いているらしい

畏敬と体の関係を調べた研究もあります。
いろいろな感情と炎症について調べたところ、畏敬を感じやすい人ほど、炎症の指標(IL-6)が低かったとか。喜びでも誇りでもなく、畏敬がいちばん強い関連を示したのだとか。あくまでも関連がある、というレベルですが、それでも畏敬という感情が、体のほうにまで届いているらしいのは、なんだかすごいことですよね。

日々のストレスが軽くなって、その結果として人生の満足度が上がる、という報告もあります。大きなものを見ると、悩みのサイズが正しく見えるようになる、ということかもしれません。

で、屋久島まで行かなきゃダメですか?

……という声が聞こえてきそう。行けたら最高ですが、そう簡単じゃない。

でも、ここが希望のあるところ。

畏敬研究の第一人者ケルトナーは、26ヵ国の人たちに「畏敬を感じた体験」を書いてもらいました。集まった物語は2,600。その結果を、彼は著書のなかで報告しています。

1位は、大自然でも、宇宙でもなく…?

「だれかの、道徳的な美しさ」

誰かの勇気、やさしさ、粘り強さ、困難を乗り越える姿。しかもその95%以上は、誰かのためにした行動だったといいます。

そして人は週に2〜3回も、畏敬を感じているのだそう。屋久島に行かなくても、です。

今日からできる、2つのこと

  1. 「畏敬の散歩」をしてみよう
    これは実際に効果が確かめられた方法です。研究チームは、60代から90代の60人に、週1回15分、こう言って散歩してもらいました。「今日は何かひとつ、はじめて見るものを見つけるつもりで歩いてください」。

8週間後。散歩中に撮った自撮り写真を分析したら、驚くことが起きていました。写真の中の自分がだんだん小さくなり、笑顔がだんだん大きくなっていた。日々の思いやりの気持ちが増え、つらい気持ちが減っていたこともわかりました。
いつもの通勤路でいいんです。「はじめて見るつもりで」がコツ。
(実はこれ、シニア世代を対象にした研究で、私たちにも同じことが起きるかはまだ確かめられていません。ただ、お金も道具もいらないので、試して損はないはず)

  1. 人の"美しさ"に、立ち止まる
    ホームで人にそっと道をゆずる人。愚痴ひとつ言わずに雑務を引き受ける同僚。何度転んでもまた立ち上がっている友人。

私たちの身近には、そこかしこに、たくさんの畏敬がありますね。

最後に

大川の滝は、これからもあの形で流れ続けるんでしょう。
私たちがいなくなったあとも同じ音を立てて、同じように私たち人間を圧倒させながら。

私たちの人生は、ほんのまばたき。

だからこそ思い悩まなくていいんだ。焦っても一緒だし、比べなくていい。誰かの評価は、大自然の前では、なんの意味も持ちませんから。

とはいえ今日も私はつい、「あれが足りない」「これがない」と言っては、あくせく忙しく過ごしてます、人間だもの。

参考文献
・Bai, Y., Ocampo, J., Jin, G., Chen, S., Benet-Martinez, V., Monroy, M., Anderson, C. L., & Keltner, D. (2021). Awe, daily stress, and elevated life satisfaction. Journal of Personality and Social Psychology, 120(4), 837–860. https://doi.org/10.1037/pspa0000267
・Keltner, D. (2023). Awe: The new science of everyday wonder and how it can transform your life. Penguin Press.
・Rudd, M., Vohs, K. D., & Aaker, J. (2012). Awe expands people's perception of time, alters decision making, and enhances well-being. Psychological Science, 23(10), 1130–1136. https://doi.org/10.1177/0956797612438731
・Stellar, J. E., John-Henderson, N., Anderson, C. L., Gordon, A. M., McNeil, G. D., & Keltner, D. (2015). Positive affect and markers of inflammation: Discrete positive emotions predict lower levels of inflammatory cytokines. Emotion, 15(2), 129–133. https://doi.org/10.1037/emo0000033
・Sturm, V. E., Datta, S., Roy, A. R. K., Sible, I. J., Kosik, E. L., Veziris, C. R., Chow, T. E., Morris, N. A., Neuhaus, J., Kramer, J. H., Miller, B. L., Holley, S. R., & Keltner, D. (2022). Big smile, small self: Awe walks promote prosocial positive emotions in older adults. Emotion, 22(5), 1044–1058. https://doi.org/10.1037/emo0000876

島田恭子(しまだきょうこ)
予防医学者・保健学博士。医学や心理学の知見を、女性のウェルビーイングに役立てたいと活動中。(社)ココロバランス研究所代表。著書『心が疲れたらセルフケア』が好評発売中。ストレスなく心の疲れを取り、元気を取り戻すための50の方法を紹介。
https://kokorobalance.jp/mn/kyoko

TEXT=島田恭子

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