“わたしの心地よさ”を基準に行動することが、ウェルビーイングに生きるカギになる。そのために、もっと自分自身を知る=自分のトリセツを手に入れませんか? 保健学博士の島田恭子さんがナビゲート。【連載「自分学 わたしのトリセツ」vol.40】
日本語は感情の宝庫。今日から使える"キモチの名づけ方"

前回は、「キモチに名前をつけると、脳レベルでココロが静まる」というお話をしました。
イェール大学のRULER(R=気づく/U=理解する/L=名づける/E=表現する/R=調整する)。そのなかでもとくに「L(名づける)」ってところが、オトナでもサビついているかも、っていうお話でしたね。
でも実際、名前をつけるのって難しい。やってみるとわかります。「名づけるってすごく大事」って言われても、そのための言葉のストック、意外にないかも!?
でも大丈夫。私たちが日ごろしゃべっている日本語は、他のどんな言語にも負けないほど、豊かな感情表現の宝庫なんですから。
英語の2,000語 vs. 日本語は!?

心理学者のバレット博士によると、キモチをより細かく区別できる人(感情の"粒度"が高い人)ほど、ストレス耐性が高く、不安やうつのリスクが低くなるそうです。
つまり、「感情の語彙力」が多いほど、ココロが安定する。
英語には2,000以上の感情を表す言葉があるとされていますが、じつは日本語、負けてません。
日本語の感情を生成AIで分析した最近の研究によると、なんと約6,900語もの感情語があることがわかりました。
…え、6,900語。
最近、若ぶって「ヤバい」を多用していた私、ごめんなさい…ですよね。
日本語にしかない、繊細で美しい感情たち

しかも日本語には、他の言語に直訳しにくい、なんともほろっとする感情表現がたくさんありますよね。
「切ない」 ——悲しいのに、どこか愛おしい。胸がきゅっとなるあの感じ。
「もどかしい」 ——思いどおりにならなくてじれったい。でもまだ諦めてない。
「やるせない」 ——どうにもできない哀しみが、胸の底に静かにたまっている。
「胸がすく」 ——モヤモヤが一気に晴れて、胸の奥がスーッとする爽快感。
「ほろ苦い」 ——うれしいのに、どこかちょっとだけ泣きたいような。
「いたたまれない」 ——恥ずかしくて、その場にいるのがつらくなる感じ。
これぜんぶ、英語にはピタッとくる1語がないらしい。先人たちが、感情の微妙なひだを、丁寧にすくい上げて言葉に残してきてくれた。日本語を母語にしているというだけで、私たちはすでに、とてつもない財産を持っている、ってことですよね。
今日からできる習慣

これまで、2回を通じて、RULERのフレームワークや感情の粒度を上げることをお話ししてきましたが、「で、結局なにすればいいの?」ですよね。
おすすめはこれ。
1日3回、「感情チェックイン」をすること。
何かキモチが動いたとき。朝起きたとき。お昼ごはんのあと。夜、ベッドに入る前でもいいです。ほんの10秒、「私いま、なんて名前のキモチかな?」と自分に尋ねてみてください。
大事なポイントは2つ。
1つ目は、「いいキモチ」にも名前をつけてあげること。
「楽しい」で終わらせず、「達成感がある」「安心している」「わくわくしている」「誇らしい」——といった感じで、できるだけ具体的にポジティブなキモチの粒度を上げるクセをつけると、しあわせ感がより深く、長く続くことがわかっています。
2つ目は、ジャッジ(判断)しないこと。
「こんなことで怒るなんて小さいな、私」とか「オトナなのにこんなこと気にして…」とか。評価しなくていい。ただ「あ、私いま悔しいんだな」と認めてあげるだけ。
ちなみに、前々回とその前の連載でお話ししたジャーナリングも、キモチの知性を高める効果があることがわかっています。感情チェックインで気づいたキモチを、手帳にひと言メモするだけで、「書く」と「名づける」のダブル効果が。いい組み合わせですね。
自分の感情辞典を、少しずつ育てていく

こんなエピソードがあります。
仕事でヘトヘトになって帰った夜、「ああ、疲れた」ってつぶやいた。そしたら横にいたパートナーが、「今日の疲れは、どんな疲れ?」って聞いてくれたそうです。
少し考えて、彼女はこう答えました。
「がんばりすぎて、自分のことを置いてきぼりにしちゃった、さみしい疲れ、かな」。
そう口にしたとたん、涙がぽろっと出て、でも同時に、ふっと肩の力が抜けました。
”疲れた”だけでは、自分でもどうしていいかわからないかもしれない。でも、"自分を置き去りにしたさみしい疲れ"には、処方箋があります。今夜はお風呂にゆっくり浸かって、自分を大事にしてあげよう。さみしさを減らすために楽しみを増やそう、みたいな。
キモチに名前をつけるというのは、そういうこと。
6,900語もの感情語を、全部覚える必要なんてありません。感情チェックインをこまめにクセづけることだけ。
私たちには日本語という財産があります。
せっかくだもの、自分だけの感情辞典のページを少しずつ増やして、大事なココロを整えてあげましょう。
参考文献
・Kashdan, T. B., Barrett, L. F., & McKnight, P. E. (2015). Unpacking emotion differentiation: Transforming unpleasant experience by perceiving distinctions in negativity. Current Directions in Psychological Science, 24(1), 10–16. https://doi.org/10.1177/0963721414550708
・安達由洋・近藤友啓・小林孝充・恵谷菜央・石井解人(2021)感情語辞書を用いた日本語文の感情分析.『可視化情報』, 41(161), 21–24
島田恭子(しまだきょうこ)
予防医学者・保健学博士。医学や心理学の知見を、女性のウェルビーイングに役立てたいと活動中。(社)ココロバランス研究所代表。著書『心が疲れたらセルフケア』が好評発売中。ストレスなく心の疲れを取り、元気を取り戻すための50の方法を紹介。
https://customer-harassment.org/kyokoshimada/

