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MYSELFウェルネス

2025.10.23

欲しい!が止まらない…。だまされやすい脳に冷静な判断をさせるテク

“わたしの心地よさ”を基準に行動することが、ウェルビーイングに生きるカギになる。そのために、もっと自分自身を知る=自分のトリセツを手に入れませんか? 保健学博士の島田恭子さんがナビゲート。【連載「自分学 わたしのトリセツ」vol.33】

「限定3個!」に踊らされる私たちのトリセツ

「この限定セット、あと3つで販売終了で~す」
店員さんにそう言われたとたん、思わずカートに入れてしまう。レジに向かいながら「これ本当に必要なんだっけ?」ってかすかに思ったりするんだけど、もう遅い。

ショッピングサイトを開けば「本日限定!」「ラスト1点!」の文字。気づけば「今しかない」というワードに抗えず、いらないものを買ってしまう。

なんで私たち、こんなに「急かされる」のに弱いんだろう、って思いますよね。

恋も似ているかもしれません。
「もう会えないかもしれない…」と思った瞬間、途端にその人が輝き出す。冷静に考えたら、別に相性がいいわけでもないのに。忙しくてなかなか連絡をくれない彼、週末しか会えない彼、既読スルーしがちな彼……。なぜか、手の届かない彼ほど魅力的に見える現象、ありませんか?

私の友人は言います。
「マメにLINEくれる優しい人より、3日に1回しか返信してこない人のほうが、なんか気になっちゃうんだよねーーー」
わかる。わかりすぎる。

「期間限定の恋」ほどドラマチックに感じるのは、私たちの脳が「希少=価値」と勘違いしてしまうから。これが、社会心理学者ロバート・チャルディーニが提唱した「希少性の原則」というものなんです。

マンモスを追いかけていた頃の名残り

この心理、実は人類がまだマンモスを追いかけていた頃からのプログラムなんです。つまり

「少ないもの=貴重=今すぐ手に入れないと生き残れない」

この生存本能が、今も私たちの脳にしっかりインストールされている。だから、「残りわずか」とか「限定」とか「あの人しかいない」となった瞬間、理性がどっか行っちゃうんですね。

情報過多と選択肢の洪水の中で生きる私たち。無限にある選択肢の中で「これはもう手に入らないかも!」と言われると脳がフリーズ。「判断をミスしたら損だ!」という警報が頭のなかで鳴り響き、「とりあえず確保しなきゃ!」という衝動に駆られてしまうんですね。

これは本能の賜物であり、わたしたちが生きる力に満ちている証拠。この衝動、「意志が弱いから」じゃないんですね。

スイーツで考えてみる

じゃあ「コンビニでいつでも買える定番シュークリーム」と「1日10個限定のパティスリーの宝石みたいなタルト」はどうでしょう。シュークリームだってじゅうぶん美味しいのに、わたしたちの脳は「タルトのほうが美味しいにきまってる!」と勝手にジャッジしちゃう。だって、手に入らないかもしれない希少なものなんだもの。

恋愛も同じ。「人気な彼」、「仕事が忙しくてなかなか会えない彼」がより魅力的に見えるのは、彼が物理的に「手に入りにくい(希少)」状態にあるため、勝手に脳が「価値がある存在」と判断しているからなんです。

失う痛みは、得る喜びの2倍!?

さらに厄介なのが、「損失回避」という心理です。

人は「得をする喜び」よりも「失う痛み」のほうに敏感。つまり「お金をもらえる嬉しさ」より、「お金を失う悲しさ」のほうが、心によりインパクトを与えるんです。

たとえばセールで迷っている商品。
「買ったら◯◯円得する!」という喜びより、「今買わないと、このお安い値段で買うチャンスを永遠に失う!」という損失の痛みに、敏感に反応してしまうんですね。

実際、行動経済学では、在庫数を「残り3つ!」と表示するだけで、購買率が20%以上もアップした!なんて研究もあります。しかも期限がつくと、さらに加速。「あと1時間で終了!」なーんて出された日には、もう勝ち目がありません。

恋愛も、同じですね。
「もう二度と会えないかも」と思った瞬間、脳は危険信号を出して、相手を手放せなくする。
「彼が他の子と仲良くしているかも」という思いが、誰かと恋に落ちる喜びよりも強い動機になったり。つまり「この人、逃したらもったいない」、「彼を失うのは耐えられない」という「損失への恐怖」が、行動のエンジンになってしまうんですね。

チョコレートとおんなじで、「このチョコ美味しい」という幸福感より、「最後に残しておいたのを、弟に食べられたーーー(怒り)」のほうが、はるかに大きい。一度自分のものになった(と脳が錯覚した)ものを失う…、この痛みがつらいんですよね。

脳のスイッチは、理性より先に入る

私たちの脳には、冷静に判断を下す「前頭前野」と、感情をつかさどる「扁桃体」があります。問題は、「今すぐ欲しい!」と叫ぶ扁桃体のほうが、理性的な前頭前野よりも先にスイッチが入ってしまう構造になっているということ。

だからどんなに賢い人でも、「限定」と「損失」を同時にちらつかされると、勝てないんです。脳が勝手に”恋するモード”に切り替わってしまう。

つまり、あなたが悪いんじゃない。脳の構造の問題。冷静な判断なんて無理。だってそれが、人間の脳の仕組みだから。

つぎに「限定」の文字を見たら?

「本能が元気」な証拠とはいえ、冷静な判断がしたい! そんなあなたは、これらの原理を逆手にとって、日常生活を少し賢く生きてみましょう。つぎに「限定」とか「ラスト1点」っていう文字を見た瞬間、ちょっと心が躍ったら、それは脳が騙されている証拠。一度立ち止まって、こう自問してみましょう。

「もし今、これを買わなかったら、私は何を失う?」

あれ?  失うものなんて、あんまりなくない? 逆に節約できて、クローゼットのスペースも増えるかも。――希少性と損失回避の原則を知った今、だまされまくっていた脳が少しずつ、冷静さを取り戻していくかもしれません。

人間関係を「今ある限定品」として扱う

私たちが出会う人々も、その人との時間も、実はとびきり「希少なもの」。近しい友達や家族に対して「いつもいてくれる」(希少性少)という安心感から、つい雑な扱いをしてしまうこと、ありますよね? そんなときは

「この人がもし明日、遠い国へ引っ越してしまったら?」

って考えてみてください。日常の他愛ないLINEや、一緒に過ごす時間が、貴重に思えてくるでしょう。今ある関係を「当たり前」ではなく「目の前にある希少な宝物」として大切にあつかうこと。人間関係の鮮度を保ち、あなた自身を優しくする秘訣です。

世界で一番の限定品は?

科学を知ると、人間って案外かわいいな、と思えてきませんか。
私たちは、「今だけ」という魔法の言葉にいともカンタンに踊らされ、「失うかもしれない」という影に怯えてしまう…、なんて愛らしい生き物なんでしょう。

科学的に見れば、誰かを求める焦りも、衝動買いの誘惑も、すべては生きるための本能。「限定」に踊らされる私たちも、「損したくない」と焦る心も、全部生きる力のひとつ。

だから今日も、限定品を喜んで買ってしまった自分を笑って許して、彼からの返信を待ってそわそわする指先をそっと包んであげてくださいね。なんてったって私たちは、自分にとって世界で一番、価値ある限定品なのですから。

参考文献
『影響力の武器』 ロバート・B・チャルディーニ著 2014 誠信書房 

島田恭子(しまだきょうこ)
予防医学者・保健学博士。医学や心理学の知見を、女性のウェルビーイングに役立てたいと活動中。(社)ココロバランス研究所代表。最新著書『心が疲れたらセルフケア』が好評発売中。ストレスなく心の疲れを取り、元気を取り戻すための50の方法を紹介。
https://customer-harassment.org/kyokoshimada/

TEXT=島田恭子

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