知っておきたいファッション用語やテクニック、今どきの常識を、スタイリスト青木貴子さんが独自の視点を交えながら解説する連載「大人のおしゃれワード集」。今回は、新常識のファッション用語をおさらい。
2030年達成を目指すSDGsがいよいよ世に広まってきて、ここのところグッと活発になってきたエシカル消費の流れ。ファッションの世界でもいよいよその傾向が強くなってきました。
もう知らないでは済まされないくらい“当たり前”になりつつあるエシカルファッションの特徴とも言える、いくつかのキーワードについて解説します!
人と地球に優しい“エシカルファッション”
最近よく耳にする「エシカル」という言葉は、「倫理的な」という意味を持つ形容詞。倫理的な社会模範にのっとって、人や社会に配慮している状態を指す言葉として使われています。
地球環境や人、地域、社会に考慮して作られたものを購入・消費することは「エシカル消費」と呼ばれ、SDGsの達成につながる身近なアクションの一つと言われています。
そしてエシカルファッションとは文字どおり、良心的な社会的規範を満たしているファッションのこと。ん、これじゃカタくてなんのこっちゃですよね! 簡単に言うと、地球環境や生産者をちゃんと思いやったうえで作られた、「人と地球に優しいファッション」のことです。
エシカルの基準や特徴は?
エシカルであると言えるものについては、素材の栽培方法や加工方法、生産背景、販売の仕方に至るまで、基準となる項目や手法がいくつかあります。これらについての言葉も頻繁に使われるようになってきたので、覚えておくと、エシカルについて理解が深まります!
●オーガニック
化学農薬や化学肥料を使わず、有機栽培で生産された素材を使用しているものを指します。一般的なコットンは、大量の化学肥料と農薬を使用するので、環境被害や栽培従事者の健康被害が甚大、深刻な問題に…! そこで最近はオーガニックコットンへの移行の動きが高まっているのです。
オーガニックコットンとして認定されるには、数年間オーガニックで綿花を生産したうえで、農薬や肥料の基準値を守るなど厳しい基準があります。
出始めの頃は、オーガニックコットンは単に肌や体に優しいという謳われ方をしていた記憶があるのですが、そこが最重要ポイントではなかったのです。コットンを作るにあたって、そんなにも環境を汚染したり、栽培従事者の方々に危険を強いていたのか…当たり前のように着ていたコットン、何事も背景を知ることってほんと大事だなって思います。
●クルエルティフリー/アニマルフレンドリー
クルエルティフリーは「残虐性を持たない」、つまり動物実験をしていないことを意味します。化粧品や日用品を作る際に行われている動物実験! これを廃止しようとする気運が高まっているのです。生産過程でいかなる場合においても動物実験をしていないと認定を受けているのが、クルエルティフリー製品。
この認証マークにはうさぎのモチーフが使われています(大きく2つの認証機関がありますが、いずれもうさぎマーク)、その理由は、うさぎが最も動物実験の被害を受けているからだそう。それを聞くと、すべての化粧品が早くクルエルティフリー製品になってほしいな、と思います。
また大量消費で犠牲になる動物はファッションにおいても存在します。その一例が毛皮やウールの搾取。ステラ マッカートニーはブランド設立当初からクルエルティフリーを提唱、ファーフリー(毛皮を使用しない)であるほか、サステナブル素材の開発なども実践。行動が早い!
●サステナブル・マテリアル
持続可能な天然素材やリサイクル繊維、エコな化学繊維のこと。ペットボトルなどを再生利用したリサイクル繊維については、洗濯時にマイクロファイバーが流出し海洋汚染につながるといった指摘もあり、課題が残るというのが現状だそう。なかなか難しい問題ですね。
●フェアトレード
公平で公正な貿易。対等なパートナーシップによる取引のこと。正当な価格で取引をすることによって、開発途上国の生産者の過重労働や、生産性を高めるための大量の農薬使用、それによる従事者の健康被害などを防ぎ、生産者や労働者の保護・自立支援をするという目的があります。
悪徳業者が得をする、なんていう世の中はイヤですよね。これまでは目の前にある商品しか見ることができなかったけれど、フェアトレードも認証機構があり、可視化されるようになりました(まだまだ一部でしょうが)。認証の対象は主に食品が多く、ファッションに関連するところだとコットンと金。フェアトレードがスタンダードになってほしいと心から祈ります。
●アップサイクル
「アップサイクル」は廃棄されるはずだったものに手を加え、新しい製品として生まれ変わらせること。「リサイクル」が元の形をなくし原料に変えてしまうのに対して、「アップサイクル」は元の素材にアイデアやデザインをプラスアルファしリメイクするだけなので、工程的にも環境的にも負担が少なく、リサイクルよりエコな行為とという位置付けに。
自分の服もアップサイクルすることで蘇らせ、サステナブルに着ることが可能ってことです。もう着ないというタンスの肥やしがあったら、どうせなら惜しげなく大胆に! エシカルファッションを自分で作ってみるのも楽しそうです。
ファッションについて考えることも、世界を救う大きな一歩に
エシカルファッションにまつわる用語について、いくつかお話ししてきました。気がつけばこれらのワードをうたう商品が増えていますよね。でもそれっぽくって違うといった、フェイクエシカルなものが出回ってきているのも事実。そのようにエシカルっぽさや、さもSDGsに取り組んでいるように装っている偽りのものたちを、グリーンウォッシュ、SDGsウォッシュと呼ぶそうです。これこそ悲しいかな劣悪な反エシカル行為ですよね。
さて、このエシカルな考え方やサステナブル推奨は、近年の環境破壊に対する危機意識が大きく起因しています。「アース・オーバーシュート・デー」という言葉を知っていますか? これは、一年間のなかで、その年に地球が再生する自然物資を人類が使い果たす日のこと。今年はすでに7月29日に到来したと発表されました。7月30日からは、地球が本来持つ資源の再生産量とCO2吸収量をオーバーシュート、超過して使っているということです。人類は今、生態系が自然に再生できる量より74%多くの資源を使っていて(地球1.7個分、つまり大赤字の資源消費です!)、これが気候変動や生態系の存続危機を招いているのです。現に異常気象による被害も世界各地から報告されています。日本も大雨、尋常ではない状況です。
便利になりすぎた、ものを作りすぎる、消費しすぎる世界を本気で見直さなくてはならない事実を、地球から叩きつけられています。サステナブルでエシカルな行動を一人ひとりが実践していく必要があります。小さなことでもみんなが意識を変えていけば、大きな改善、進歩になります。
今ある服を大切に着る、アップサイクルしてみる、フリマに出す、新しく買うときは長く着られるものを熟考して買う、生産背景に配慮するなどといったおしゃれに関する行動も、地球と生態系を守ることにつながります。世の中は何かの、誰かの「おかげ」で成り立っているから、ファッションも責任を持って楽しみましょう!
●参考資料
EARTH OVERSHOOT DAY
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