誰もが知る名品バッグ「バーキン」。今は入手困難のアイテムのひとつであり、他のバッグとは一線を画す存在。しかし、美容ジャーナリスト齋藤薫さんは、そんな状況に一石を投じたいと考えているそう。【連載「齋藤薫の美脳格言」】
むしろバーキンを持つべきは、絶対持たないと思ってるこんな人
バーキンなんて欲しくないという人も聞いてほしい。バーキンを、自分のためのバッグだとは到底思えない人も…。例えば、毎日忙しすぎて、ハイブランドのバッグなど大切にする暇はないという人。持ち歩く荷物が多すぎて、高級バッグなどありえないという人。子供ができて、バッグなどにかまけていられないという人…。しかし、これらの人はむしろバーキンにふさわしい。こういう人たちのためにこそバーキンはあるのだという事実を、知っておきたいのだ。
改めて知っておきたい。バーキンは、誰のバッグなのか?
今や、入手困難であるばかりか、宝石級の別格感を持ってしまっているバーキンだが、本来はそういうふうに崇め奉るようなバッグではなかった。むしろ、ラフにカジュアルに使い倒してしまうバッグだったはずなのだ。
実際、今のような異様なブームになる前は、それを上手に持ちこなす人のバーキンは、既に使い倒されていた。なぜならば、日常的に使い古したバーキンを持っている方が、ピカピカの新品を持っているよりもずっとオシャレだったから。「もうずっと使ってます」というスタンスが、バーキンの愛用者のこだわりだったから。
そもそもが「バーキン」のネーミングの由来は、ご存知の通り“ジェーン・バーキン”が飛行機でたまたま隣り合わせになったエルメスの5代目社長に、自分のライフスタイルに合うデザイナーズバッグがないことを訴えたのが始まりだったとされる。
洗練されて見えるのは、日々忙しい人のバーキン?
1960年代に、「フレンチ・ロリータ」として一世を風靡したジェーン・バーキンは、独特のスタイルを持ち、いつでもどこでも、どんなファッションでも、大振りのカゴバッグを持ち歩き、その中に雑多な持ち物を無造作に詰め込んでいた。ファーストクラスの座席の上のコンパートメントにも、カゴバッグを収納しようとして中身を全部座席にぶちまけてしまう。それを見たエルメスのチェアマンが、あなたの荷物が全部入るバッグを作りましょうと言ったわけで、必然的に何でもぼんぼん放り込めるトートバッグのような仕様のバッグになる運命だったのだ。
逆に、モナコ王妃となったグレース・ケリーが、妊娠中のお腹をそのバッグで隠したことから「ケリー」と呼ばれるようになるバッグは、やっぱりあくまでお出かけ用。使い古された感じは必要ないが、バーキンはくたびれた感じこそが、粋に見える鍵だった。文字通りのこなれ感が何より大切だったのである。
実際に収納力たっぷり、持ち手が2本あるのも、フラップを内側に折り込んで、トートバッグふうに使う時に都合が良いから。生まれながらに、宝石のように後生大事に取り扱われるようなバッグではないのだ。まぁだから中古市場が盛り上がったとも言えるが、一方で今さらわざわざ使い古した印象を作るのもあざといし…。
でもこれだけは確かなのは、本当の意味で洗練されて見えるのは、忙しい日々の中で使い勝手が良いからとバーキンを選んでいる人のバーキン。バーキンを所有するために血眼になる人のバーキンではないのである。