LGBTQ+やSOGIについて知りたい人におすすめ。「性のあり方」と向き合って自分らしく生きられるヒントを得られる一冊。(ライター/雪代すみれ)
「LGBTについて今更聞きにくい」と感じている人こそ手に取ってみて
「LGBT」という言葉の浸透率が8割を超えている(※)ように、「LGBT」という言葉自体は広く知られてきているだろう。※電通「LGBTQ+調査2020」より
最近では「LGBTQ+」という言葉が見られる場面も増えているが、上記の調査によると「Q+」に該当する多様なセクシュアリティについては、約8割が言葉自体聞いたことがないと回答している。
QはQueer(クィアー)とQuestioning(クエスチョニング)を意味する。Queerは元々は差別的な意味で使われていたものの、当事者たちが使うことによって、現在では性的マイノリティを包括する言葉となった。Questioningはセクシュアリティがわからない・決めていないという意味。
+はLGBT以外にもさまざまなセクシュアリティがあることを示しており、具体的にはアセクシャル(他者に対して恋愛感情も性的欲求も抱かない)・アロマンティック(他者に性的欲求は持つが、恋愛感情は持たない)・パンセクシャル(全性愛。さまざまな性別の人が恋愛対象になる)・ノンバイナリー(性自認と性表現が男性・女性どちらにも当てはまらない)などがある。
今回紹介したい本は『マンガでわかるLGBTQ+』(講談社)。本書を制作したパレットークはセクシュアリティやジェンダーに関するテーマを、体験談をベースにマンガを用いてSNS等で発信しているメディアである。
LGBTQ+に関して「言葉は聞いたことがあるけれども詳しくは知らない」「どんな言動が当事者を傷つけるのかわからずコミュニケーションを取るのが怖い」と感じている人もいるのではないか。
本書はLGBTQ+の言葉の意味という初歩的な情報から、「アウティング(同意なくある人のセクシュアリティを第三者に伝えること)はなぜ問題なのか」「バイセクシャルは男女どちらを好きになるか選べると思われること」「同性愛者だと初対面でどうセックスするか聞かれやすい」など、世間にある思い込みや偏見がなぜ当事者を傷つけるかまでわかりやすく描かれているため、入門書としておすすめしたい。
「LGBTQ+かそうではない人」という線引きをしない「SOGI」という考え方
「LGBTQ+は知ってるけれども、自分は該当しないから他人事」だと思っている人に伝えたいのが、p.18より解説されている「SOGI(ソジ)」という概念である。
SOGIとはSexual Orientation(性的指向・誰を好きになるか)とGender Identity(性自認・自分の性をどう認識しているか)を意味している。「自分はLGBTQ+ではない」と思っている人もSOGIを持っており、たとえば、出生時の戸籍の性別が女性で、自分のことを女性と認識し、男性を好きになる人は、SO=男性、GI=女性となる。
SOGIについて、
「性のあり方は誰もが持っているものだから、『LGBTQ+』と『それ以外』にわけずに考えよう!」という言葉(p.21)
とも解説されており、“自分ごと”として捉えやすくなる考え方だ。
本書には自分の「性のあり方」について向き合うワークシートもついている。「まわりからはどんな性別として扱われたい?」「どんな格好が自分らしいと感じる?」などの問いがあり、たとえば今まで二択で考えていたことでも、グラデーションがあることが見えやすくなるだろう。
私の場合、したい性表現はどちらかというと男性寄りなのだと思う。所有している服のうち、ユニセックスとメンズが占める割合が大きく、最近はスーツのように男女の線引きが濃く感じるものは女性用を使うことに違和感を抱くようになった。今年中にメンズスーツをオーダーする予定である。
私自身、今までLGBTQ+当事者だと自覚して生きてきたわけではないものの、性のあり方と向き合うことで、無意識レベルで感じていたモヤモヤや、もっと生きやすくなるだろう選択肢に気がつくことができた。「性のあり方」と向き合うことは、世間にある「こうあるべき」という抑圧から解放され、自分の軸を大切にする方法なのかもしれない。
なぜカテゴライズが必要なのか
p.34からは様々なセクシュアリティが紹介されている。私は少し前に自分のセクシュアリティと向き合うきっかけがあって、デミロマンティックとリスロマンティックに当てはまる部分があると気づいて、少し心が楽になった。
本書での定義は、デミロマンティックとは「友情や親しみ、強い絆などを感じた相手にのみ恋愛感情を抱く人」で、リスロマンティックとは「恋愛感情は抱くけれど、誰かに恋愛感情を持たれたいとは思わない人」と記されている。
「わざわざ名前をつける必要がある?」と思う人もいるかもしれない。LGBTに加え、Q+のことが知られるようになったときも、同じような声が世間で見られた。
名前やカテゴライズが必要な理由は「こうあるべき」という空気が世間にあって、そこから外れる人は“変わった人”扱いをされやすいから。
たとえば私の場合、社会に「恋愛はした方が良い」といった風潮が存在する中で、「このままの自分でいいのかな」と不安になったことはあるし、「異性と恋愛・結婚することを前提に作られている社会の仕組み」があるとも感じ、疎外感のようなものを覚えたこともある。
また、前職はジェンダーに関する研修が十分に行われていたとは言えないような環境で、私は今30代の独身で、もし働き続けていたら、ただ結婚したくないだけなのに「“売れ残りのババア”イジり」をされていたかもしれない。そんな状況下だったらラベルやカテゴリーを知ることで非常に救われただろう。
とはいえ私は最近までデミロマンティックやリスロマンティックについて深く考えたことがなく、現時点で自称することがピッタリと当てはまる感じでもない(「○○でなければ自称してはいけない」と遠慮しているわけでもない)。
繰り返しになるが、そういうセクシュアリティがあることを知って、心が軽くなる感覚があったのだ。自分がそのカテゴリーに当てはまるのかは明確でなくても、自分を受け入れられるような感覚を得た。
カテゴリーがあることで自分のセクシュアリティを説明しやすくなったり、同じような感覚を持つ人と繋がりやすくなったり、共感して気持ちが楽になったりするかもしれない。人の話を聞いたときにも「自分とは違う考え方だけれど、そういう考え方や捉え方もあるんだな」と吸収しやすくなる効果も期待できるのでは。
「○○でなければおかしい」と排除されなければ、自分の軸を大事にして生きることを否定されない世の中なら、誰もがもっと生きやすくなるかもしれない。そんな希望を持ってこの一冊を勧めたい。
『マンガでわかるLGBTQ+』(パレットーク 著/ケイカ 画/講談社)
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