「男性の生きづらさ」や「男性のジェンダー問題」について理解を深められる本。一緒に会議に参加して、考えてみない?(ライター/雪代すみれ)
男性の言動をジェンダーの視点から考える本
今回紹介したい本は『どうして男はそうなんだろうか会議 ─いろいろ語り合って見えてきた「これからの男」のこと』(澁谷知美、清田隆之 編/筑摩書房)。ジェンダーや男性セクシュアリティの歴史の研究者である澁谷知美さんと、恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表で文筆家の清田隆之さんが聞き手となって、ゲストと男性のジェンダー問題に関して語り合う鼎談(ていだん)集である。
タイトルから想像できるかもしれないが、本書は冒頭に
「さいきん、「男であること」が問われている気がする」
「ジェンダーという言葉が気になる」
「自分も男だが、「どうして男はこうなんだろうか」と思うことがある」
そんな男性に読んでほしくて、作りました(p.7)
とあるように、主に男性読者を想定している(男性以外が排除されているわけではない)。
では、なぜメイン読者層が女性であるGINGERにてこの本を紹介したいかというと、本書を読むことで、昨今社会で取りあげられている男性ジェンダーの問題を深く考えたり理解したりするきっかけになるだろうし、周囲の男性とコミュニケーションを取るときや、男性性について周囲の人と語るときに助けになると思ったためである。
「女性は○○が嫌い」——それは目の前にいる女性の意見?
本書を読んでいて自分の経験が思い起こされたのが「フィクションとしての女性の目」の話だ。これは社会学者の須長史生さんの著書『ハゲを生きる―外見と男らしさの社会学』(勁草書房)の中で出てくる概念で、本書で澁谷さんは次のように説明している。
「女性はこう思うだろう」という、男性たちが持つ信念のことです。「女性はハゲが嫌いだろう」とか「女性は包茎が嫌いだろう」とか。あくまで男性たちが勝手に思っていることだから、現実の女性の考えとは違いがあります(p.27)
「女性はみんな髪の毛の薄い男性が嫌いか」と問われたら、好みはあるだろうが、性格や人柄が好きな人に対して髪が薄いだけで嫌いになることはほぼないと思うし、包茎についてはそもそも何かを知らない女性も少なくないだろう。私自身、20歳を過ぎてから、バラエティ番組でお笑い芸人が「包茎イジり」をされているのを見て、包茎とは何か、なぜイジりの対象になるのかわからず、検索したことを覚えている。
第4章では社会学者で『介護する息子たち: 男性性の死角とケアのジェンダー分析』(勁草書房)著者である平山亮さんをゲストに迎えて対談を行っているが、その中でも「フィクションとしての女性の目」の話が出ている。
平山さんは次のように指摘している。
男の人は外で働き、女の人は家のことをするという性別分業を内面化して、しっかり仕事をしないと女の人に好意を持ってもらえないとか、嫌われると思い込んでいる男性が今も意外といるという問題ですが、そこに登場する女の人って、本当にリアルな女性なのかなって疑問を覚えるところがあります(p.144)
その根拠として「第6回全国家庭動向調査」(2018年)の結果を示している。同調査結果を確認すると、「結婚後は、夫は外で働き、妻は主婦業に専念すべきだ」の賛成割合は38.1%であり、従来の性別分業を支持している女性は少数派である。
本書を読みながら思い浮かんだのが「奢り・奢られ問題」も「フィクションとしての女性の目」問題を含んでいるのではないかということ。いくつかの民間調査を見たことがあるが、割り勘派の女性も結構な割合を占めているにもかかわらず、「女性は奢ってほしい(もしくは多めに出してほしい)に決まってる」と考えている男性が多いように感じる。
もしかしたら本当は平等な関係を築きたいけれども、「奢らない男性はダサい」という呪いにかかっているのかもしれないし、男友達にバカにされるのが怖いから奢ろうとするのかもしれない。
後者については実体験があり、男らしさに囚われてないところが好きになった過去のパートナーが、付き合い始めてから共通の友人(男性)に冷やかされて男性役割を演じ始めてしまったのである。
当時は私自身も“女性”を演じてしまっていたし、パートナーが“男性”を演じることについて上手く言語化できなかったが、今なら「“男性”を演じなくていい。そのままでいい」と話すと思うし、友人にも「私は彼の男らしさに囚われてないところが好きだから『男ならこうすべき』って呪いをかけないで」って言うだろう。
男性はなぜ性別分業から降りないのか
今まで男性と接してきて「なんだか噛み合わない……」と感じてきたモヤモヤは「フィクションとしての女性の目」という概念が一つの解な気がする。
また平山さんは「男らしさから降りたくても周りの男性がそうさせてくれない」という主張も疑問視しており、内閣府の「男女共同参画社会に関する世論調査」(2019年)で男性の過半数が性別分業に反対していることを指摘する。
では男性はなぜ性別分業から降りないのだろうか。本書ではそこまで踏み込んで語られており、とても痺れる内容であった。ぜひ手に取って確かめてほしい。
本書は「どうして男はそうなんだろうか」が語られる過程で、今まで自分のせいだと思っていたことでも「自分は悪くない」と気づかされる部分や、男性のジェンダーの話だけれども、自分にも身に覚えがあって読みながら反省することもあった。
最後に「はじめに」にて、澁谷さんが本を作るにあたって心がけたと言及していることのうちの一つを紹介したい。
第一に、男性が傷ついたり、いやだと思ったり、「これを言ったら「男らしくない」と思われるのではないか」と恐れて口に出せないことを言語化することです。そして、口に出してよいことであり、社会問題として解決すべきことであると、この本を読んでいるみなさんに伝えたいです(p8)
『どうして男はそうなんだろうか会議 ─いろいろ語り合って見えてきた「これからの男」のこと』(澁谷知美、清田隆之 編/筑摩書房)
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