私たちをエンパワーしてくれる本を、ライターの雪代すみれさんがナビゲート。
身近なジェンダーのモヤモヤを解消できる一冊
2009年、ユーキャン新語・流行語大賞に「女子力」という言葉がノミネートされた。当時、私は大学で心理学を専攻し、ジェンダー関連のテーマにも触れつつあった。しかし流行に乗り「女子力」という言葉を疑問を抱かずに使っていた、という穴があったら入りたくなるような過去がある。
一方で、当時から女性らしさを求められることには違和感を覚えており、飲み会でサラダを取り分けただけで「女子力!」「男子へのアピールw」と言われることは「やかましいな」と思っていた。大抵はお腹が空いていて早く食べたかっただけであったのだ。
同年には「歴女」「草食男子」「弁当男子」「オトメン」もノミネートしており、性別と何かしらの要素を結びつける言い回しが流行っていたことがうかがえる。
世間のジェンダーへの関心が高まったここ数年では「女子力」「○○男子」「○○女子」という言葉が問題視されることも珍しくなくなった。だが「ダメと言われるから使わないようにしているけれども、なぜ良くないのかわかってない」「なぜダメなのかはなんとなくわかるけれども、他人に説明するのは難しい」と思っている人も少なくないのではないか。
そんなときに勧めたい本が『ジェンダーについて大学生が真剣に考えてみた――あなたがあなたらしくいられるための29問』(佐藤文香 監修、一橋大学社会学部佐藤文香ゼミ生一同 著/明石書店)である。本書は一橋大学社会学部佐藤文香ゼミ生の学生が、友人や家族等から様々な質問をされたものの上手く伝えられずもどかしい思いをしたり、議論するなかで理解不足に気がついたりしたことをきっかけに作られた本である。
実際に質問されたジェンダーに関連する29の項目への回答が、初心者向けの「ホップ」、ある程度ジェンダーの知識のある中級者向けの「ステップ」、上級者向けの「ジャンプ」の三段階で構成されている。大学生の視点を意識した本であるため、ジェンダーに関する専門知識があまりなくても読みやすく、かつどの項目からでも読み始められるため、読書が苦手な人にも勧めやすい。
悪気がなくても、その一言がステレオタイプを助長する
ここでは「○○男子/○○女子」の言い方がなぜダメか、という問いについて取り上げる。
ホップでは、これらの言葉が直接性差別を意図しているものではないとしつつ
言葉の意味や背景を考えてみると、こうした呼称の問題点がみえてきます(p.16)
と問題提起をしている。
ステップでは、ジェンダー・ステレオタイプの視点から解説しており「弁当男子」という言葉がある一方で、「弁当女子」という言葉がないことを例に
弁当づくりを含む料理を女性の役割とするような性別役割分業にかかわる規範が働いている(p.18)
「○○男子/女子」という言い方には、ジェンダー・ステレオタイプを反復し、既存の「男/女らしさ」を強化する可能性がある(p.18)
と言及している。
この点は深掘りされておりジャンプでは、プロの料理人など、公的な場面で料理をする男性は珍しくなく「料理男子」という言葉が使われないことも解説されている。本書のとおり、プロの男性料理人が「女子力高い」「料理男子」と言われているのを見聞きしたことがない。
このような表現を用いている人の多くは褒めるつもりであったり、会話を盛り上げるためのスパイスとして使用していたりと、性差別をしようと思っている人は少数派であろう。しかし、悪気がなくともジェンダー・ステレオタイプを再生産してしまう可能性があることには気をつけていきたい。
なお、ジェンダーに関するさまざまなテーマについて、本書で解説されているとおりに考えなくてはいけないものではなく、冒頭で下記のように記されている。
ここでわたしたちが示した回答は、もちろん、唯一の正解ではありえず、ジェンダーをめぐるさまざまな問題についてみなさんとともに考えることをめざしています(p.3)
本書を片手に、次に「女子力高いね」と言われることがあったらどう返すか、考えてみるのも面白いかもしれない。
『ジェンダーについて大学生が真剣に考えてみた――あなたがあなたらしくいられるための29問』(佐藤文香 監修、一橋大学社会学部佐藤文香ゼミ生一同 著/明石書店)
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