美術を面白おかしく、わかりやすく解説する“アートテラー”として活躍するとに~さんによる連載。読者の皆さまからの質問も随時受け付けています! 今回は、注目の展覧会をご紹介。
こんばんは。アートテラーのとに~です。“ももクロ”こと、ももいろクローバーZの4人がMCを務めるテレ朝動画の人気アート番組『Musee du ももクロ』の最新回(2022年6月2日、9日、16日)にゲスト出演しています。実は、今から10年近く前、僕がまだ吉本興業で芸人をやっていたころ、ブレイク前だったももクロのミニライブに出くわしたことがあります。当時住んでいた家の近所のヤマダ電機で。そのときはお客さんが少なく、売れていない自分と境遇を重ねて、勝手にシンパシーを感じていました。ところが、その後すぐに、ももクロはスターダムを駆け上がり、国民的アイドルに!「話が違うじゃないか!」と、勝手に裏切られた気分になりました。そんなももクロと、美術番組でご一緒できる日が来ようとは。人生って不思議なものですね。
と、それはさておき。シャガールは97歳、ピカソは91歳、葛飾北斎は江戸時代としては長命な88歳と、美術界には長生きかつ晩年までバリバリに仕事をしていたアクティブシニアが多々存在しています。それは現代でも同様。ということで、本日はそんな芸術家たちの展覧会を紹介したいと思います。
2022年の主役はこの人
ドイツ・ドレスデン出身で「ドイツ最高峰の画家」と称されるゲルハルト・リヒター。御年90歳。その人気は絶大で、オークションに彼の作品が出品されるたびに、億単位で落札されています。まさに、アート界の生きるレジェンドです。それぞれの美術館が示し合わせたわけではないようなのですが、エスパス ルイ・ヴィトン大阪で今年5月まで開催されていた『ゲルハルト・リヒター個展「ABSTRAKT」』を皮切りに、ポーラ美術館の『開館20周年記念展 モネからリヒターへ』、国立西洋美術館の『リニューアルオープン記念 自然と人のダイアローグ フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで』と、リヒターが重要な位置を占める展覧会が日本各地で開催されています。
そのなかで満を持して開催されているのが、東京国立近代美術館で開催中の『ゲルハルト・リヒター展』。東京の美術館では初となる、リヒターの大規模展覧会です。
出展数は、なんと約110点! しかも、そのほとんどが、リヒター本人が手元に置いていた貴重な作品ばかり! 会場は「ウン億円、ウン億円、ウン億円、一つ飛ばさずウン億円」状態です。ちなみに、これまでリヒターの意向で彼のグッズが作られることはほぼ無かったそうなのですが、今回の展覧会では特別に許可され、マグカップやTシャツなどさまざまなグッズが発売されていました。もちろんウン億円もしないで買えますので、ご安心を。
『ゲルハルト・リヒター展』
https://richter.exhibit.jp/
痩せ見え効果のある展覧会?
リヒターと同じく、今年90歳を迎えたコロンビアのアートの巨匠フェルナンド・ボテロ。初期から近年までの全70点で構成される『ボテロ展 ふくよかな魔法』が渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで開催中。その作風は独特で、彼が描く人物は皆例外なく、ふくよかな体型をしています。市井の人々はもちろんのこと、ボテロが描けば、イエス・キリストやモナ・リザといった名画のモデルもぽっちゃりさんに。さらには、生き物や静物までもメタボ体型になってしまいます。
ちなみに、当のボテロ自身は、生涯を通じて中肉中背の体型です。そんな彼が、どうしてこのような画風に辿り着いたのでしょうか。それは、1956年のある晩のこと。ボテロはアトリエで、マンドリンを描いていました。その際に、何気なくマンドリンの穴を小さく描いてみたところ、マンドリンのフォルムと穴のコントラストにより、楽器がふくらんで見えたのだそう。そして、爆発したような感覚を得たのだとか。途中からちょっと何を言ってるかわかりませんが、何はともあれそれ以来、ボテロは一貫して、ボリュームを表現することに、心血を注ぐようになったようです。
右を見ても、ふくよか。左を見ても、ふくよか。そんな展覧会場だったからでしょう。不思議と、会場にいたお客さん全員がスリムに感じられました。今ダイエットをしているけど、夏までに痩せられそうにない。そんな方にもオススメの展覧会です。
『ボテロ展 ふくよかな魔法』
https://www.ntv.co.jp/botero2022/
孤高の女性芸術家の展覧会
昨年、惜しまれつつ107歳でこの世を去った美術家・篠田桃紅。その没後1年となる回顧展『篠田桃紅展』が、東京オペラシティ アートギャラリーで開催されています。
幼いころより書に親しみ、20代後半で銀座鳩居堂で初めて書の個展を開催するも、当時は完全に男性優位社会だったこともあり、「根なし草」「才気だけの基礎のない書」と酷評されたという篠田桃紅。さらに、敗戦や病からの療養生活などのいくたの困難と闘いながら、自身の書を追求し続けました。さて、戦後、欧米の美術界では抽象絵画が注目を集めていました。日本人から見れば、書は文字が書かれたものですが、漢字や仮名が読めない欧米人からすれば、抽象的な絵画のようなもの。それゆえ、そのムーブメントの中で、日本の前衛的な書にも注目が集まっていました。そこで桃紅は、本場の抽象絵画にじかに触れるべく、1956年に単身渡米。約2年にわたりニューヨークを拠点に活動し、全米各地およびパリでも個展を開催しました。そんな武者修行の日々のなかで、彼女は骨太の線や面で構成された抽象表現に辿り着きます。それが、水墨抽象絵画。略して、墨象という新しいジャンルを切り拓きました。今回の展覧会場には、墨象の作品が一堂に! 国際的に評価の高い彼女の作品をまとめて観られるまたとない機会です。
なお、エッセイストとしても知られる篠田桃紅。『一〇三歳になってわかったこと 人生は一人でも面白い』はベストセラーになりました。僕はいまだに独身ですが、何の危機感も抱いていないのは、たぶんこの本をよんだおかげ(せい?)です。
『篠田桃紅展』
https://www.operacity.jp/ag/exh249/
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