コロナ禍が収束したら、まずしたいことは?と問われたならば、「旅行!」と答える人が多いことでしょう。そして「温泉に行きたい!」という声もたくさん聞こえてきそうです。旅の再開が叶ったら、さてどこに行きましょう? 日本各地の温泉を巡り、その魅力をリスト化している“温泉王子”こと小倉康宏さんに、大人の女性におすすめの温泉をピックアップしていただきました。
湯に浸かりながら、目の前に広がる絶景を味わう
日本は豊富な水資源があり、広く分布する火山帯によって世界でも有数の温泉大国。全国各地に温泉地が点在し、土地それぞれの趣や泉質を楽しむことができ、老若男女問わず日本人はみんな温泉が大好きです。
ただ浸かるだけでも癒される温泉ですが、そこに普段目にすることのない絶景が加われば、まさに最高の気分を味わえることは間違いありません。しかし、温泉からの景色が素晴らしいだけならば、単に秘湯と呼ばれる温泉地をピックアップすればいいだけの話になってしまいます。温泉王子としてはさらに一歩踏み込み、この記事では、宿の雰囲気や料理など、滞在中のあらゆるシーンを通じて「本当に来てよかった」「誰かにこの感動を味わってほしい」と感動した宿だけを厳選しました。
温泉大国日本に生まれたからには、ぜひ一度は訪れたい! 大切な人と過ごしたい! 私が体験し、“絶景温泉”と太鼓判を押す、4つの宿をご紹介します。
1. 里山十帖(新潟県)
こちらの宿は古い旅館をリノベーションして、大きな梁や柱など古民家の面影を残しながら、現代の快適な環境も取り入れたアートな造りになっています。
宿泊した部屋はメゾネットスイート。シンプルながらぬくもりを感じる内装で、ほどよいサイズの露天風呂もついていました。テラスに出ると、眼前には日本百名山にも選ばれた巻機山が広がっています。その圧倒的な迫力に、言葉もなくただただ感動。
大浴場は男女ともに内湯と露天に分かれていて、夕食後からは入れ替え制に。
夕方は沈みゆく夕日に照らされる巻機山の幻想的な色合いを眺めながら、夜は月光で輝く雪渓の青白い世界に包まれて満点の星空を見上げながら露天風呂に浸かる...これぞ、極楽。
里山ならではの心地よい静けさ、そして雄大な自然に抱かれる感覚。まさにずっと記憶に焼き付けられるような、格別の時間を味わうことができます。
泉質はトロトロで加温していますが温度がちょうどよく、外気の冷たさと相まって、いつまでも湯の中に居続けて絶景を楽しんでしまいます。
【食事は...】
専用フロアへ移動していただくお食事は、山菜や野菜が中心。素材のうま味を最大限引き立てる創意工夫溢れるコース料理で、ガストロノミーと呼ぶにふさわしいクオリティです。また、これぞ魚沼産ともいうべきお米の香りと味の素晴らしさも特筆すべき点でした。
里山十帖(さとやまじゅうじょう)
http://www.satoyama-jujo.com/
2. 能登 九十九湾 百楽荘(石川県)
能登半島の先端に位置するこちらの宿は、JR金沢駅から車で2時間ほど走った先にある日本百景の1つ、九十九湾を臨む旅館です。
宿泊したのはベイスイート翡翠。100㎡はある室内にはメインの洋室と和室があり、デッキテラスにはソファとハンモック。それに加えて絶景露天風呂も! まさにザ・スイートといった造りの部屋です。
内風呂は、地下からくみ上げた海洋深層水でミネラルが豊富。長湯をしていると温泉以上に体の芯からポカポカになります。浴槽は3人くらい余裕で入れる広さがあり、可動式の窓を開け放つとそこには複雑に入り組んだ九十九湾が目いっぱいに広がります。
この宿は能登半島の東側に位置しているので、朝焼けに彩られた九十九湾を眺めながらの朝風呂は格別。
大浴場は専用のエレベーターでフロント階から30m降りた先にあり、名物の洞窟風呂のほか、露天には壺湯があり、こちらも能登の緑と海を感じながら入浴することができます。
【食事は...】
夕食は一部の部屋に宿泊すると、専用の食事フロアに案内され、ライトアップされた海上の建屋の個室で海の幸をメインとした絶品の料理を楽しむことができます。ズワイガニやブリの美味しい季節に、ぜひ訪れたい宿です。
能登 九十九湾 百楽荘(のと つくもわん ひゃくらくそう)
http://www.100raku.com/
3. 箱根 時の雫(神奈川県)
箱根温泉の小高いエリアにひっそりと佇む、全8室の隠れ宿です。
私がおすすめしたいのはデラックススイートルーム。最上階の奥の扉を開けるとさらに階段があり、部屋のエントランスとなっています。ベッドとソファ、暖炉を備えた奥行のある洋室に加え、食事をする和室があり、そして何より広大なデッキテラスとかけ流しの大きな展望露天風呂が特長です。
箱根の山々に囲まれた露天風呂からは、渓谷をはさみ彫刻の森美術館や箱根登山鉄道なども望むことができ、まるで箱根の雄大な自然を独り占めしたかのような気分に浸れます。夕映えの箱根山や満点の星空を眺めながら、開放的な入浴のひと時をぜひ堪能してください。
都心からのアクセスも良く、周辺には美術館や観光名所が多いため、ドライブを兼ねて訪れるのもピッタリなお宿です。
【食事は...】
夕食は部屋食でしたが、別階にも食事処がありました。メインディッシュのローストビーフは名物とのことで、和洋折衷を楽しめる献立となっています。御食事は白米ではなく、こちらも名物の手打ちそばが出てくるあたり、さすが箱根といった感じでした。希望すれば朝食はウッドデッキのテラスまで運んでもらえるので、新鮮な空気のなかで誰にも邪魔されずに、非日常感を味わいながらモーニングを楽しむこともできます。
箱根 時の雫(はこね ときのしずく)
http://www.tokinoshizuku.net/
4. 黒川温泉御処 月洸樹(熊本県)
阿蘇の雄大な自然に包まれた4,000坪の敷地に建つ8棟の宿「月洸樹」。月の光を浴びる...まさにその名のとおり、遮るものもなく、遥か彼方まで見渡せる山々とどこまでも突き抜ける空に圧倒されることでしょう。
フロント棟からカートで坂道をのぼっていき案内された部屋は「十六夜」。木造建築まるまる1棟がゲスト一組の部屋となっている贅沢さ。建屋の中央には大きく開け放たれた、大浴場と見まごうほどのダイナミックな露天風呂があり、驚かされます。
大人10人は入れそうな広い浴槽からの眺めは、見渡す限りの山と空。黄昏どきには山々がオレンジ色のグラデーションに染まり、この地に残されている数々の神話の世界に迷い込んだような錯覚に陥るほど神秘的。
そして、こちらの宿の敷地内のもっとも高い場所にある貸切露天風呂「天空」も、忘れずに体験を。脱衣所からさらに続く階段を上がった先にある、古里の野山を見渡す名物の絶景露天風呂があります。
目に映るのは、ありのままの大自然。夜には360度のパノラマビューで、視界いっぱいに広がる星空を飽きることなく眺める至福の時間が楽しめます。目まぐるしい日常生活から離れ、都会では決して味わうことができないリラックスした体験ができるでしょう。
黒川温泉は湯めぐりもおすすめなのですが、最高のロケーションである月洸樹でのおこもりステイで、何もしない贅沢を味わうのもいかがでしょうか。
【食事は...】
こだわり抜かれた食材を丁寧に調理した地産の料理を部屋で楽しむことができますが、特筆すべきはダイニングテーブルです。なんと足元には温泉を流すことができ、足湯をしながら食事をいただけます。
黒川温泉御処 月洸樹(くろかわおんせんみとしろ げっこうじゅ)
https://gekkoujyu.com/
湯の素晴らしさだけでなく、湯に浸かった際のシチュエーションも、温泉宿を選ぶ際の大切なポイント。美しい景色を眺めながら、日頃の疲れを取り除き、明日への活力を取り戻す。おすすめの宿で、ぜひパワーチャージしてください。
小倉康宏(おぐらやすひろ)
湯と食と酒をこよなく愛す大阪人。承応二年(1653年)創業の老舗鮨店の16代目。家業のかたわら社会課題解決に取り組む国際NGOに参加し、インドやエストニアで開かれた国際会議にも参加している。ハイエンド温泉宿の探求をライフワークとし、年間数十ヵ所の温泉地を訪れ、“温泉王子”の名でインスタグラム(@onsen_ouji)からお気に入りの温泉をガイドしている。