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TIMELESSPERSON

2025.11.01

「みんなは痛くないの?」片頭痛・生理痛・肩こり…“誰にも伝わらない”痛みを抱えて生きていく|

本を片手に予測不可能な時代をサバイブ! 都内で会社員として働くかたわら、ライター・コラムニストとして活動する梅津奏さんのエッセイ。【連載「コンサバ会社員、本を片手に越境する」】

15歳で気づいた自分だけの痛み

ほぼ常に、痛みと共に生きている。

なんて書くと大げさなようだが、事実である。毎月決まってやってくるPMS(生理前症候群)、きっちり4日続く生理痛、低気圧になると襲ってくる頭痛と吐き気、急に頭を殴られるような痛みが走る片頭痛、慢性的な腰痛・肩こり、乗り物酔い……。

一つ一つ挙げると、我ながら大したこと無さそう。でも、365日の内、仮に300日は何らかの痛みが(しかも時には複数重なって)あるとすればそれは存外辛いものだ。しかしその一つ一つのささやかさゆえ、他人にはほぼその辛さは伝わらない。

職場の後輩に教えてもらった笑顔のパナップ。癒される……ような気がしなくもない。

痛みというのは個人的なものだ。

 

同じ頭痛でも、人によってその痛みの種類も強さも違うだろうし、その違いをはっきりさせることはできない。痛みのプロである医師であっても、その人がどんな痛みを感じているかを100%理解するのは不可能なのだ。

自分の痛みに自覚的になったのは15歳のときのことだ。

母と喋っていたとき、片頭痛がやってきた。私の片頭痛は頭を後ろから鈍器で殴られ、血管が切れるような感覚に襲われる。顔をしかめて黙り込む私を見て怪訝な顔をする母に「いつもの頭痛がきた」と説明すると、母の顔色が変わった。

「なんでもっと早く言わないの!」

焦った母に連れてこられたのは脳神経外科。MRIを撮影し、診断の詳細は忘れたが、ここで初めて「片頭痛」という名前を知った。私はこの時まで、この鈍痛は世間の人みんなが感じているものだと勘違いしていたのだ。

PMS・生理痛が重いタイプだと知ったのはもう少し後のことだ。これもまた、自分が感じている痛みを母に説明してみた際、「お母さんは一切ないわ、そういうの」と断言されて愕然とした。試しに周囲の女子たちにヒアリングしてみると(私は女子高に通っていたのでサンプル数はそこそこあった)、私より症状が重い人・軽い人それぞれ複数存在し、かつ「言いたくない」と言葉を濁す人も一定数いた。

社会人になると、痛みとの共存はますます困難かつ複雑化する。なぜなら私が飛び込んだのが、圧倒的男性社会兼体育会系社会だったから。

もちろん、屈強なスポーツ男子(“元”も現役も含む)には痛みがないだろうなんて乱暴なことは言うまい。しかし少なくとも、「私が抱える痛みを想像できそうか・共感してくれそうか」と言われれば大いに疑問。自然、働いている間は「痛みなど無いように振る舞う」が基本姿勢になっていく。

だがしかし痛い。痛いのだ。

「ちょっと今いいですか」「これ至急で頼める?」「え、やばい!聞いてください!」と次々に席にやってくる上司たち・後輩たちよ、私は今とっても痛いのだ。伝わらないと思うけどさ!

痛みに襲われているときは、余裕がなくなる。仕事を依頼してくる人には「雑に投げてくるな」「そっちでやれよ」と思うし、「今いい?」と聞いてくる人には「いいように見えるのか?」「あなたより忙しいが?」と内心毒づいてしまう。周囲の人たちが自分よりのんきで、楽で、ヒマに見える。痛みがもたらす、恐ろしき色眼鏡。

そんな私が新刊棚で見かけ、認識から1秒かからず手に取った本がある。

『痛いところから見えるもの』(頭木弘樹/文藝春秋)は、文学紹介者・頭木さんによる「痛い人と痛くない人のあいだにある本」。

「世の中には二種類の人間がいる。痛い人と、痛くない人だ」――『痛いところから見えるもの』より

20歳の時に潰瘍性大腸炎という難病にかかり、13年もの闘病生活を送った頭木さん。健康な人には想像できないほどの「痛み」を経験しても、他人の痛みのことは理解できない。自分の痛みを他人に正確に伝えることができないという辛さ・切なさを痛感して生きてきた頭木さんが挑む、「痛い人と痛くない人の間をとりもとうとする試み」。

ソクラテスの「無知の知」ではないが、「いくら想像しても、経験していない自分にはわからないことがある」という前提に立つことが、まず理解のスタートラインだと思う。――『痛いところから見えるもの』より

頭木さんが紹介する「痛みの事例」や「痛みに関する文学からの引用」に共感したりびっくりしたりしながら読み進めているうちに、いつの間にか自分のポジションが攻守交替していることに気づいた。「他人に分かってもらえない痛みを抱えた自分」から、「他人の痛みを想像したり理解しようとしたりする努力の足りない自分」へ。

気づいたのは、「私の痛みは、誰にも理解できない」という砦の中に座り込み、外の世界に目をやる余裕を失っている自分。「かわいそうな自分」というセルフイメージを脱ぎ捨てられない自分。相手が自分より元気そうに見えたとしても、彼には彼の痛みや苦しみがあるのかもしれないということに思いを馳せることができていただろうか。さらに言えば、痛みには肉体的なものだけではなく精神的なものだってあるだろう。

……とはいえ、痛いものは痛い。一晩寝かせたこの原稿を翌朝(頭痛アプリは「警戒」と表示中)に読み直してみると、「他人のことなど知るか!」と思う。

それでも仕方ない。「痛い」と「痛くない」、「本音」と「理想」をいったりきたりするのが生活なのだ。とりあえずイブ飲んで寝る。

この記事は幻冬舎plusからの転載です。
連載:コンサバ会社員、本を片手に越境する
梅津奏

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