映画ライター渥美志保さんによる連載。ジャンル問わず、ほぼすべての映画をチェックしているという渥美さんイチオシの新作『犬も食わねどチャーリーは笑う』をご紹介。
リアルに描かれる夫婦の外面と内情
日和と裕次郎は結婚4年目の仲良し夫婦ーーに見えて、実のところ日和のほうは無神経な夫の言動にイライラしっぱなし。そのいら立ちを人気サイト「旦那デスノート」でぶちまけてうっぷんを晴らしています。そんなある日、ひょんなことから「旦那デスノート」を知り、「チャーリー」というハンドルネームで身に覚えのある投稿を見た裕次郎は、それが日和だと確信します。というのも「チャーリー」は、日和のかわいがっているペットのフクロウと同じ名前だったんですね。面白いのは(というかもしかしたらそれが一般的なのかな?)、裕次郎は「日和=チャーリー」だと気づき、日和は「裕次郎が『日和=チャーリー』だと気づいた」と分かっていて、めちゃめちゃ険悪な空気になっているのに、二人が依然として相手と直接話そうとしないこと。
本音を吐けない妻と、歩み寄らない夫…関係は悪くなるばかり?
さらに面白いのは、この二人が一度はとりあえず仲直りすること、つまり夫婦の間にある「情」が根本的な解決を先送りにしちゃうんですね。これすごくリアルなんじゃないかと思います。もちろん「やっぱり何も変わっていないんだ」という二番底、つまり決定的な決裂が訪れるわけです。
「結婚3年目は最初の踏ん張りどころ」と言う話を知人から聞いたことがあるのですが、恋愛から地続きで結婚した人は、やっぱり最初のうちは腹の底までさらけ出せない、カッコつけちゃうところがあるのかもしれません。日和に「結婚っていうシステムに乗っかってしまえば、後は楽だと思ってた」というセリフがあります。システムというのは「それぞれが決められた役割をなぞっていれば成立」というくらいの意味でしょうか。でも人間は機械じゃないんだから「夫は仕事、妻は家事と仕事半々」とか「何年か経ったら妻は子育てで退職」とか、全員が全員、そんな型どおりに上手くハマるわけじゃない。でもそのシステムにのっかっちゃったがゆえに、日和は「私はこんなのは嫌だ」と言えないし、持たなくてもいい罪悪感を感じています。一方、裕次郎のほうは、そういう日和であるのをいいことに、夫婦の問題全般から目を背けています。男性にありがちなんだけど、そういう態度を「良かれと思って」みたいに言うんだよなあ。それ逆にカチーンと来るって、誰か教えてあげたほうがいい(笑)。
ラストは爆笑!二人の結末は?
映画にはいろんなお楽しみも盛りだくさんです。喧嘩する夫婦を見守るふくろう「チャーリー」の表情がなんともユニークで可愛いし、日和の勤め先の人たちがユニークで、ラストの展開には爆笑しました。実際にあるらしい人気サイト「旦那デスノート」の、過激な笑える罵詈雑言にもびっくり。未婚の私は、夫婦って本当にご苦労様だよ…と他人事の様に思ってしまったのですが。どんな人間関係もそうかもしれませんが、続くか続かないかは「根拠はないけど、この人といたら幸せになれる。楽しく過ごせる」と信じられるかどうか、なのかもしれません。さて、この夫婦はそんな思いを取り戻せるのでしょうか。
『犬も食わねどチャーリーは笑う』
監督・脚本/市井昌秀
出演/香取慎吾、岸井ゆきの
https://inu-charlie.jp/
9月23日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
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