美術を面白おかしく、わかりやすく解説する“アートテラー”として活躍するとに~さんによる連載。読者の皆さまからの質問も随時受け付けています!
こんばんは。アートテラーのとに~です。
春は別れの季節とはよく言いますが、個人的には今年ほどそれを感じた年はありません。長年お世話になった美術館の方が定年退職されたり、新天地に旅立たれたり。さらには、両親が故郷に引っ越すことになったり。それにより、僕自身の実家が無くなることに。もうこの先、生まれた街に帰ることはないと思うと、なんとも切なくなってきました。
と、それはさておきまして。今回は今開催中の展覧会のなかから、クリエイティブ界隈、業界関係者のなかで話題のものをご紹介いたしましょう。当たり前ですが、展覧会には会期があります。のんびりしていると、気づいたら終わっていたなんてこともざら。そんな悲しい別れをしないためにも、行きたいと思ったときに行きましょう!
日常で必ずお世話になっているあの方の展覧会
現在、国立新美術館で開催されているのは『佐藤可士和展』。日本を代表するクリエイティブディレクター・佐藤可士和さんの約30年の仕事を振り返る大規模な展覧会です。
万が一、佐藤可士和さんの名前にピンと来なくとも、彼が手掛けた広告やアートワークは必ず目にしたことがあるはず。ユニクロもセブン-イレブンもTSUTAYAも楽天も、佐藤可士和さんがそのブランディングに深く関わっています(ほかにも多くの企業を手がけていらっしゃいます)。また、僕と同じ世代の人はきっと懐かしく感じるでしょうが、あの「Smap」のポスターやキャンペーンを手掛けたのも佐藤可士和さんです。
さて、こちらの展覧会、一部を除いて写真撮影が可能となっています。視覚に強く訴えかける彼のデザインは、写真映えすることもあり、展覧会開始と同時にネットで大きな話題に! 特に、佐藤さんがこれまでに手掛けたロゴの数々を巨大化し展示した「THE LOGO」コーナーは、屈指の撮影スポットとして人気を博しています。
また、展覧会そのものもさることながら、オリジナルグッズも充実。
特に圧巻なのが、国立新美術館ver.の「UT STORE」です。この展覧会のためにデザインされた27種類のUTが、それぞれ特別パッケージUT BOXに入って販売されています。1枚あたり、¥1,650也。1枚といわず2枚3枚とお土産に買いたくなること請け合いです。
『佐藤可士和展』
会期/2021年2月3日(水)〜5月10日(月)
会場/国立新美術館 企画展示室1E(東京都港区六本木7-22-2)
https://kashiwasato2020.com/
史上初、あれに注目した展覧会
今、美術関係者のなかで「この発想はなかった!」と話題になっているのが、練馬区立美術館で開催中の『電線絵画展-小林清親から山口晃まで-』という展覧会。日本初、いや、おそらく世界でも初となる、電線や電柱が描かれた絵画にスポットを当てた展覧会です。
普段、僕らが街中にある電線や電柱を意識していないように、絵画に描かれた電線や電柱なんて誰も意識していなかったはずですが。今展を担当された美術館の学芸員さんは、かねてよりひそかに意識していたのだそう。そして、約10年(!)の準備期間を経て、電線だらけの今回の展覧会を開催するにいたったのです!
展覧会では、日本に電柱が普及し始めた明治時代以降の絵画が、人気日本画家である山口晃さんをはじめ現代の作家の作品まで、実に150点近く紹介されています。
小林清親のようにあからさまに電線と電柱を描き込むタイプの画家もいれば、岸田劉生のように電柱は描くものの電線は意図的に描かないタイプの画家も。画家によって、そのスタンスが違うのが興味深かったです。
ちなみに、今回の展覧会でもっとも強烈な電線愛を放っているのは、担当学芸員さんに『ミスター電線絵画』と命名されていた朝井閑右衛門(かんえもん)です。武士みたいな名前ですが、本名は浅井實(みのる)。昭和に活躍した洋画家です。そのネーミングセンスのクセもすごいですが、作品は輪をかけてクセがすごい。彼が電線のある風景を描くと、こうなります。
もはや電線の面影はなし。まるで、スカイウェイのよう。もはや近未来の景色です。
電線や電柱といえば「エヴァンゲリオン」でも象徴的に何度も登場しますよね。『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』を観た足で、練馬区立美術館に足を運んでみてはいかがでしょうか。
『電線絵画展-小林清親から山口晃まで-』
会期/2021年2月28日(日)~4月18日(日)
会場/練馬区立美術館(東京都練馬区貫井1-36-16)
https://www.neribun.or.jp/museum.html
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