2018年、ステージⅣの大腸がんを宣告されながらも、夫とともに前を向いて生き抜いた遠藤和さん。その実話を基にした映画『ママがもうこの世界にいなくても 私の命の日記』で、和さんを川口春奈さん、夫の将一さんを高杉真宙さんが演じる。限られた時間のなかで結婚、出産、そして家族として生きることを選んだ夫婦の物語。実在の人物を演じる重圧や責任と向き合いながら、ふたりは何を受け取り、どんな思いを作品に込めたのだろうか——。
“生きること”と“愛すること”

——実話を基にした作品です。オファーを受けたとき、率直にどんなお気持ちでしたか?
川口春奈さん(以下、敬称略) オファーをいただくずっと前、テレビ番組で取り上げられていたおふたりの映像を拝見したことがあったんです。だからお話をいただいたときは、とにかく驚きました。
ただ、実際に映画化のお話を聞いたときは、簡単に「やります」と言える題材ではありませんでした。自分にとってはすごく重みのある作品でしたし、悩みも覚悟もありました。でも原作や当時の映像を改めて見返していくなかで、本当に愛にあふれたご家族だなと思ったんです。私自身も和さんの生き方に勇気をもらったひとりでしたし、多くの方に知ってもらうべきだと感じました。
撮影に入るまでにご家族ともお会いして、お話を伺っていくなかで、少しずつ責任感や使命感のようなものが芽生えていった気がします。
高杉真宙さん(以下、敬称略) 僕も最初は迷いがありました。映像資料を見たり、脚本や原作を読ませていただいたりして、おふたりのことを知っていくなかで、「自分に何ができるんだろう」という思いがまずありました。実在するご夫婦の人生を描く作品ですし、自分がどう向き合うべきなのか、どう演じることが正解なのか分からない部分もありました。
ただ、触れれば触れるほど、そこにある愛の大きさを感じたんです。川口さんもおっしゃるように、このご夫婦が残してくれた愛や覚悟を、もっと多くの人に知ってもらいたいと思いましたし、その思いを自分なりに受け止めて、観てくださる方につなげられるのであれば、ぜひ演じさせていただきたいと思いました。

——和さん、将一さんという実在の人物を演じるなかで、それぞれどんなところに魅力を感じましたか?
川口 和さんは本当に明るくて、自分の芯がある人だなと思いました。一度こうと決めたら、自分の信念を曲げない強さがあるんですよね。だからこそ周囲とぶつかることもあるけど、その芯の強さが和さんらしさなんだろうなと感じました。
でも一方で、そんな明るくて可愛いらしい女の子が、とてつもなく大きな現実に向き合っていく姿がすごく印象的でした。「本当にたくましくてカッコいい人だな」と思いながら演じていました。
高杉 和さんの病気が分かった後の不安や葛藤という部分は、もちろん理解できるとは言えないですけど、演じたからこそ少し想像できた部分はあったと思います。そのなかで特に印象的だったのは、やっぱり家族でいることの幸せですね。ふたりでいること、そして三人でいること。その時間がどれだけ大切だったのかというのを、作品を通してすごく実感しました。
この物語はきっと将一さんにとって人生でいちばん大切な思い出のひとつだったんじゃないかなと感じました。そこは「共感」という言葉とは少し違うかもしれませんが、自分のなかで特に大切にしながら演じた部分でした。
——実在の人物を演じるにあたって、役作りはどのように進めていったのでしょうか?
川口 実際に現場に入って、撮影が進むなかで感じることをすごく大切にしていた気がします。正直、撮影前の段階では「どうしたらいいんだろう」という気持ちのほうが大きかったんです。だから毎日不安を抱えながら現場へ行って、監督と話して、撮影していく。その積み重ねだったと思います。今回は順撮りだったので、その時々の感情や変化を自然にたどれたことも大きかったですし、すごく感謝しています。
——山戸監督とのやり取りで印象に残っていることはありますか?
川口 監督とは本当にたくさんコミュニケーションを取りました。その場の空気感や景色をすごく大事にされる方で、感情が途切れないように長回しをしてくださることも多かったですし、分からないことがあれば一度止めて話し合うこともありました。
撮影中はずっと頭の中がモヤモヤしていた感覚があったんですけど、今思えば、その迷いや不安も含めて和さんと向き合うために必要な時間だったのかなと思います。
——高杉さんはいかがでしょう。
高杉 もちろん脚本には感情の流れも書かれていますし、僕自身も「こう演じたい」という考えは持って現場に入っていました。でも実際に撮影が始まると、それ以上に現場で生まれるもののほうが大きかったんです。川口さんとお芝居をしているなかで生まれてくる感情もたくさんありましたし、頭で考えていたことより、その瞬間に感じたもののほうが大事だった気がします。
——現場の力が大きかったのですね。
高杉 本当にそうだと思います。現場にあるものをちゃんと拾えるような環境を作ってくださったのが監督で、毎カットごとに何かを受け取っていた感覚があります。文字だったものが感情になって、その感情が芝居になっていく。その過程を大切にしながら向き合っていました。

——青森でのロケーションも印象的でした。撮影中の思い出や、現地で感じたことを教えてください。
川口 青森はほぼ初めてだったんですけど、すごくいい場所でしたね。空気が澄んでいて、景色も本当に広大で。都会ではなかなか感じられない空気感がありました。私自身、地方出身なので、都会にはない安心感というか、肩の力が抜ける瞬間もありました。
何より、実際におふたりが暮らしていた場所で撮影できたことが大きかったです。そこでしか生まれない空気感が絶対にあったと思いますし、この作品には欠かせないものだったと思います。
高杉 僕も気持ちのいい場所だと思いました。視界がすごくクリアになる感覚があったんです。景色も空気も、過ごしていてすごく心地良かったですね。
そういえば、撮影中に弟から「今、青森にいるの?」って連絡が来たんです。どうやら友人が青森にいて、僕の目撃情報が届いたみたいで(笑)。そんな身近さを感じながら、ひとつひとつの景色や場所に愛着が湧くというか、気付いたら青森そのものが好きになっていましたね。
——和さんが亡くなる直前まで日記を書き続けていたことも、この物語の大きな軸になっています。おふたりは「忘れたくない出来事」をどんな形で残していますか?
高杉 僕は、たとえば祖母からの留守番電話とか、母親から送られてきたボイスメッセージとか、そういうものは携帯のファイルに保存しています。あと、手紙も全部取ってあります。これも祖母や母からもらったものが多いんですけど、「大事なものボックス」があるくらい(笑)。
それは、そこにその人が確かにいてくれた証みたいなものを感じるから。写真は撮る機会も多いですけど、手書きの文字ってなかなか残らないじゃないですか。だからこそ、すごく大切だなと思っています。
川口 私も手紙は書きます。いただいた手紙やメッセージももちろん取ってありますし、自分も節目節目で誰かにプレゼントするときは、一言でも手書きで添えるようにしています。最近はスマホでメッセージを送ることが当たり前になっていますけど、手書きってやっぱり温度が違うんですよね。もらうとうれしいですし、自分も書く機会は割と多いほうかもしれません。

——おふたりは今回が初共演となりましたが、お互いにどんな印象を持ちましたか?
川口 優しそうな方という印象がありましたが、実際にお会いしても、それは全然変わらなかったです。すごく穏やかな方なんですけど、一方で周りへの気配りが本当に細やかで。私が何か悩んでいたり、考え込んでいたりすると、自然と気付いて声をかけてくれるんです。そういう誠実さは、将一さんの人柄とも重なる部分があったと思います。
今回の撮影は精神的にも体力的にも大変なことが多かったんですけど、そばにいてくれたことが本当にありがたかったですね。
高杉 こちらこそです。僕は、この作品の和さんの愛情深さって、きっと川口さん自身の人柄から来ている部分も大きいんだろうなと思いました。
今回、いちばん大変だったのは間違いなく川口さんだったと思うんです。身体的にも精神的にも負担の大きい役でしたし、撮影も決して簡単ではなかった。それでも常に周りのことを気にかけていて、その姿勢がすごく印象的でした。その愛情深さや懐の深さ、芯の強さみたいなものが、自然と和さんにも表れていたんじゃないかなと思います。
それに、どんなことでも相談しやすい空気を作ってくださって本当にありがたかったですし、この作品でご一緒できてよかったなと思っています。
——撮影中はお互いに相談することもあったのでしょうか?
川口 「ここどうなんだろうね」とか「ちょっと引っかかるよね」とか、疑問に感じるポイントが似ていたんです。だから、「じゃあ監督に聞いてみようか」とか、「こういう考え方もあるかもね」とか話せたのは大きかったです。ひとりで悶々とするのではなく、一緒に考えてくださる人がそばにいてくれるだけで救われました。
高杉 この作品は特に一緒に“戦っている”という感覚がありました。だからこそ、お互いに話しながら作れたのは心強かったですし、また別の作品でもご一緒できたらうれしいなと思います。
【10月2日公開】『ママがもうこの世界にいなくても 私の命の日記』

出演/川口春奈 高杉真宙 ほか
原作/遠藤和「ママがもうこの世界にいなくても 私の命の日記」(小学館刊)
監督/山戸結希
配給/東映
mamaseka-movie.com
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川口春奈(かわぐちはるな)
1995年2月10日生まれ、長崎県出身。 2007年に雑誌「ニコラ」のオーディションでグランプリを獲得。その後、ドラマ「東京DOGS」(09/CX)で俳優デビュー。2022年にエランドール賞新人賞を受賞。ドラマや映画のみならずYouTubeなど活躍の場は多岐にわたる。近年では「麒麟がくる」 (21/NHK)、「silent」(22/CX)、「9ボーダー」(24/TBS)、「アンサンブル」(25/NTV)、映画『極主夫道 ザ・シネマ』(22)、『教場 Requiem』(26)など話題作への出演が絶えず続く。
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Instagram @haruna_kawaguchi_official
YouTube 川口春奈オフィシャル はーちゃんねる
高杉真宙(たかすぎまひろ)
1996年7月4日生まれ、福岡県出身。2009年に俳優デビュー。2017年、映画『散歩する侵略者』にて第72回毎日映画コンクール スポニチグランプリ新人賞を受賞。近年の出演作にはドラマ「となりのナースエイド」(24/NTV)、「光る君へ」(24)、「法廷のドラゴン」(25/TX)、「今夜、秘密のキッチンで」(26/CX)、映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-/-決戦-』(23)、『架空の犬と嘘をつく猫』(26)などがある。10⽉16日よりスタートするドラマ9「ボーダーズ 警視庁特殊事件対策班」、2027年1月29日公開の映画『カイジ 人生リベンジゲーム』の出演を控える。
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