第79回カンヌ国際映画祭・監督週間正式出品、第50回アヌシー国際アニメーション映画祭長編コンペティション部門選出。映画『我々は宇宙人』は、平成の田舎町を舞台に、30年にわたるふたりの少年の友情と喪失を描く青春ノスタルジー。翼を演じた坂東龍汰さんと、暁太郎を演じた岡山天音さんにインタビュー。カンヌで感じた反響から、役との重なり、忘れられない少年時代の記憶、そして今も心に残る“大切な誰か”について語ってもらった。
日本の田舎町の物語が世界に届いた理由

公開前から世界的な注目を集める映画『我々は宇宙人』。第79回カンヌ国際映画祭の監督週間で上映された際、坂東龍汰さんと岡山天音さんも現地でその反響を目の当たりにした。
「すごく緊張しました。カンヌって“面白くなかったら途中で出ていく人もいる”と聞いていたので(笑)。でも上映が始まってすぐに笑い声が起きたり、最後には泣いている方もいたりして。本当にいろいろなリアクションをいただけてうれしかったです」(坂東さん)
「本編が始まる前から歓声が上がるんですよね。映画祭そのものをお祭りみたいに楽しんでいる文化があって。話には聞いていましたけど、実際に体感すると新鮮でした」(岡山さん)
平成の田舎町を舞台にした物語が、なぜ国境を越えて観客に届いたのか。ふたりはその理由を、門脇康平監督が描く人間ドラマの普遍性に見出している。
「監督がすごいのは、人と人との関係の本質をしっかり捉えているところ。文化や言語は違っても、人間関係の中で生まれる感情って共通しているじゃないですか。そういう“あるある”を本質まで掘り下げて描いているからこそ伝わったんだと思います」(岡山さん)
「親子の関係だったり、友達同士のすれ違いだったり、人が成長していく過程だったり。見ている景色や国は違っても、人間同士のドラマは普遍的なんですよね。だからこそ、あれだけ大きなリアクションをいただけたんだと思います。……天音くんとほぼ同じこと言っちゃった(笑)」(坂東さん)
作品が持つ引力


本作との最初の出会いについて聞くと、脚本より先に観たという映像資料の衝撃を振り返る。
「それだけで世界観が伝わってきたんです。門脇監督が描こうとしているノスタルジーというか、どこか懐かしさを感じる空気があって。少しオレンジがかった光や景色のなかに、この物語が広がっていくんだと思ったら、それだけで引き込まれました」(坂東さん)
「僕はどこか“ほの暗さ”を感じました。でも、その暗さのなかにかすかな光が見える、そんな印象でしたね。あとはやっぱり細部の作り込みがすごかった。人を見る視点の細かさだったり、ディテールへのこだわりだったり。その覚悟みたいなものを脚本から感じました」(岡山さん)
本作の主人公はふたりの少年。何不自由ない家庭で育ちながらも、自分には好きなことも得意なこともないというコンプレックスを抱える翼。そして、貧しい家庭で育ちながらも頭が良く、クラスの人気者だった暁太郎。
坂東さんが感情移入したのは、自身が演じる翼ではなく暁太郎だったという。
「最初に読んだときは暁太郎に感情移入していました。小学校低学年から中学生ぐらいまでの自分とすごく似ていて(笑)。『ねえねえ』っていろんな人に話しかけては『うるさい』って言われたり、それでも懲りずに話しかけたり。なんだか自分の幼少期を見ているような感覚でした」(坂東さん)
もちろん同じ人生ではない。しかし監督が描く子ども同士の距離感や感情の細部が、自然と自身の記憶を呼び起こしたという。
「人と人との距離感とか、小さい頃に感じていた気持ちとか、その拾い方が本当に正確なんですよね。だから自然とリンクしてしまいました」(坂東さん)
そんな坂東さんが演じることになったのは、その暁太郎ではなく翼だった。
「正直、『僕が翼なんだ』と思いました(笑)。でも暁太郎を天音くんがやると聞いていたので、『絶対面白いじゃん!』って。どういう暁太郎をつくってくるのか全然想像できなかったですし、一緒に収録できる日が楽しみでした」(坂東さん)
岡山さんもまた、この作品ならではの魅力として映像表現を挙げる。
「やっぱり絵ですね。見たことのない絵だなと思いました」(岡山さん)
写実的でありながら、どこにも似ていない独創的なビジュアル。その第一印象は今も強く残っているという。
「最初に見せてもらった映像の時点で、その絵の持つ力を感じました。光の表現も、水の表現もすごかったですし、キャラクターの顔も印象的でした。僕はアニメが好きで、いろいろな作品を観てきましたけど、あの造形は見たことがなかった。すごくオリジナリティに富んでいて、新しいものが生まれる瞬間に立ち会っているような感覚がありました」(岡山さん)
互いの声から受けた刺激

収録では互いの芝居からも大きな刺激を受けたそうで。
「やっぱりすごいなと思いました。僕らは普段、映像作品を中心に活動しているので、声優というフィールドはある意味イレギュラー。翼って、すごく難しい役なんですよね。派手な抑揚があるわけではないけれど、常に心が揺れている人物なんです。その繊細な揺れをちゃんと声で表現していて、さすがだなと思いました」(岡山さん)
「僕は第一声を聞いた瞬間に、『暁太郎だ!』と思いました。爆発力もあるし、どこか怖さもある。翼の視点で見たときに、暁太郎が特別な存在としてそこにいた。狂気とまでは言わないけれど、何か得体の知れないものを感じました」(坂東さん)
さらに坂東さんが驚かされたのは、収録に向き合う岡山さんの姿勢だった。
「収録中、ふと横を見たら台本が真っ黒だったんですよ」(坂東さん)
岡山さんは慌てて否定する。
「いやいや、真っ黒ではないです(笑)!」
「すごく書き込まれていたんです。暁太郎というキャラクターの音や呼吸を探している感じが伝わってきて。天音くんが暁太郎という人物を少しずつ掘り下げていく姿を間近で見ていたら、自分ももっと翼の声を探さなきゃなって思わされました。収録中は本当に刺激を受けっぱなしでしたね」(坂東さん)
ふたりの少年を通して見えたもの

本作の核となるのは、翼と暁太郎というふたりの少年の関係。では、翼にとっての暁太郎、暁太郎にとっての翼はどんな存在だったのだろうか。
「すごく絶妙なんですよね。この作品って、簡単に言葉で説明しづらいものがたくさん描かれているんです。近い意味の言葉がふたつあったとして、その間にある感情みたいなものを描いているというか。でも、“いるよな”って思うんです。子どもの頃、ある時期だけものすごく仲が良かった誰かとか。そういう存在を思い出しましたね」(岡山さん)
「僕だけじゃないと思うんですけど、小学校とか中学校の頃に起きた出来事って、最近の記憶よりもずっと根強く残っていたりしませんか? 頭じゃなくて、体に残っている感覚というか。当時のすれ違いとか、わだかまりとか、感謝とか。そういうものって大人になっても影響を与え続けていると思うんです。でも多くの人は、その感情にフタをして生きている。映画を観ていると、その閉じていたものが急にパカッと開く感覚があるんです。懐かしくなったり、胸が締め付けられたり。いろんな感情を通り抜けていくんですよね」(坂東さん)
「結局、人って影響し合いながら生きているんですよね」と坂東さんは続ける。
「僕も今でも、昔の友達に素直に『ごめんね』って言えないですもん。当時のことを思い出すと、なんだか照れくさいし、うまく言葉にできない」(坂東さん)
もし今、親友とすれ違ったら……

30年にわたる友情を描く本作は、観る人それぞれの“あの頃”を呼び起こす物語でもある。そこで話題は、お互いの子ども時代へと移った。
「僕は、子どもの頃からあまり変わっていないんです。すごく気にしいでしたし、心配性でシャイでした。だから翼が抱えている気だるさみたいな感覚は、自分にもあったなと思います。何もしていないけれど、学校へ行ったらみんなが急に自分のことを嫌いになっているんじゃないかとか考えたりして」(岡山さん)
「僕はそこまで心配性じゃなかったですね。どちらかというと、『全員に好かれたい』より『別に嫌われてもいい』くらいの感覚だったかもしれない。でもシャイではありましたよ。学校で前に出たりするのも苦手だったし」(坂東さん)
では、もし今、自分たちが翼や暁太郎のように親しい相手とすれ違ってしまったらどうするのか。
「僕は基本的に、その場で解決したいタイプです。でも実際は、何が原因でこじれたのかによって全然違いますよね」(坂東さん)
「大人になると、子ども時代とはまた違う理由で関係がこじれることもあるし」(岡山さん)
「二十歳くらいの頃って、お酒も飲み始めて、ちょっと気も大きくなったりして。本当にしょうもないことで喧嘩になることもあったと思うんです。でも今は、昔ほど仲違いすること自体が少なくなりました」(坂東さん)
それだけに、大人同士の決定的なすれ違いは、むしろ一大事なのかもしれない。
「もし今そういうことが起きたら、自分の気持ちを殺してでも向き合いたいですね。ちゃんと話したいと思います」(岡山さん)
平成の片田舎を舞台にした、ふたりの少年の物語。友人とのすれ違い、言えなかった言葉、忘れたつもりでいた記憶。誰の心にも残っている“あの頃”に、ふたりが息を吹き込む。翼と暁太郎の軌跡は、観る者の心の奥に眠る感情をそっと揺り起こす。懐かしさと寂しさ、そして愛おしさ。そのどれとも言い切れない感情に、きっと心をかき乱されるはず。
【9月25日公開】映画『我々は宇宙人』

出演/坂東龍汰 岡山天音 ほか
企画・監督・脚本/門脇康平
配給/TOHO NEXT・NOTHING NEW
nothingnew.film/wearealiens
X @wearealiens0925
坂東龍汰(ばんどうりょうた)
1997年5月24日生まれ、北海道出身。2017年にTVドラマ「セトウツミ」で俳優デビュー。主な出演作品に、ドラマ「RoOT/ルート」、「ライオンの隠れ家」(ともに'24)、映画『君の忘れ方』('25)、『未来』、『黒牢城』(ともに'26)など。2026年に映画『爆弾』で「第49回日本アカデミー賞」の新人俳優賞を受賞。出演する映画『わたしの知らない子どもたち』が10月16日、『かすかな彼を抱きしめて』が1月15日に公開される。
X @bando_ryota
Instagram @ryota_bando
岡山天音(おかやまあまね)
1994年6月17日生まれ、東京都出身。2009年、TVドラマ「中学生日記」の転校生シリーズ「少年は天の音を聴く」で俳優デビュー。主な出演作品として、映画『笑いのカイブツ』('24)、映画『キングダム』シリーズ('22〜'24、'26)、ドラマ「アンメット ある脳外科医の日記」('24)、夜ドラ「ひらやすみ」、大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」、「冬のなんかさ、春のなんかね」(すべて'25)など。2025年度に第50回エランドール賞、第63回ギャラクシー賞テレビ部門個人賞、第52回放送文化基金賞を受賞。NHK連続テレビ小説「巡るスワン」('27年春放送開始)の出演が決定している。
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