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TIMELESSPERSON

2025.02.20

脚本家・生方美久の友人関係に悩む子供でした。でも今、子供たちに言いたい!「ほんと安心してほしい。大人はたのしいぞ」と

令和の清少納言を目指すべく、独り言のようなエッセイを脚本家・生方美久さんがお届け。生方さんが紡ぐ文章のあたたかさに酔いしれて。【脚本家・生方美久のぽかぽかひとりごと】

男メル友

子供の頃、【友達】はいちばんの悩みのタネだった。友達と上手くやれなかったら人生が終わると本気で思っていた。教室という空間にいたらそんな気持ちにもなる。ここにいる人と共存しないといけないと、勝手に思い込んでいた。

大人になると、【友達】はいちばん心地良い相手になった。人との関係性を表す言葉で【友達】はいちばんフワッとしている。条件が曖昧。家族は血や戸籍で証明できたり、恋人には口約束や性的関係があったり、上司や後輩には職場での明確な基準がある。でも友達って「それらのどの関係性にも当てはまらないけど仲良い人」なんですよね。これってすごいと思う。

2020年、第46回城戸賞で佳作をいただいた。城戸賞の授賞式は、最終選考まで進んだ方全員をお招きするので、受賞者含めて計10人の脚本家の卵と知り合うこととなった。とてもありがたい。シナリオ学校で学んだわけではないので、仲間がいないことがずっと心細かった。授賞式が終わり、じゃあ飲みにでも行きますか、という空気になる。毎年のことらしい。コロナ禍なのでさくっと手短に、という感じのお誘い。悩んだが、「人見知り爆発でしんどい帰りたい」より「仲間欲しい」がギリ勝って、参加した。

最終選考に残った10人(全員ではなかった気がするけど割とみんな参加していた)で、食事へ。コンクールに応募している面々なので、各々別の仕事をしていたり、主婦だったり、デビューはしてないものの脚本にまつわるお仕事をしていたり。ほんとにいろんな人がいておもしろかった。自然とドラマや映画の話にもなる。

何かの話の流れで、坂元裕二さんの話題になったとき、食いついたのがわたしと目の前に座っていた伊吹一さんだった。

生方「おっ、坂元さんすきなんですか?」
伊吹「すきです! 白い本持ってますか?」
生方「白い本?????」

この会話だけめちゃくちゃ覚えている。伊吹さんの言う「白い本」とは坂元裕二さん著『脚本家 坂元裕二』のことだった。たしかに表紙がとても白い。

そこから作品の話をいろいろして、好みが合うことがわかった。ちなみにその時点では他のみなさんの応募作を読めていない。後々全員分の作品データが渡され、それを読んだうえで合評会が開催される。タイトルしかわからない状態なので、「一体この人はどんな脚本を書くのだろうか……」と会話も探り探りになる。後々読んだ伊吹さんの応募作はお話しした印象通りで、坂元裕二さんのことがすきなのも、自分と気が合うのも、とても納得できて気持ちのいい読後感だった。

その日の夜、名刺に記載していたGメールのアドレスに伊吹さんから連絡があった。受賞おめでとうございますー、お話しできてよかったですー、みたいなやりとりをした。それからというもの、そのGメールでのやりとりが今でも続いている。

今でも続いている!!!!!!!!!!!!(自分で書いててびっくりした)

コロナ禍だったこともあり、気軽に会う感じにはならず、ずーっとGメールでやり取りしていた。なぜかどちらからもLINEの交換を提案することなく、ずっとGメール。

ちゃんと、
伊吹さん
(改行)
こんにちは。
(本文)
では、お体ご自愛下さい。
(改行)
生方

という、とてもメールらしい体裁のメールをずっとGメールで送り合っている。メールにゲシュタルト崩壊しそう。

さすがに毎日ではないけど、ポンポンとやり取りが進むときもあれば、どちらかが1か月くらい返事が遅れることもある。でもなぜか忘れた頃にポロンとメールが届いたり、忘れた頃に伊吹さんに話したいことがあってメールしたり。そんなこんなで2025年現在も連絡ツールはGメール。

城戸賞の授賞式で初めてお会いして、その後のメールでは「このコンクールに出します!」「あのコンクール2次通過しました!」などの報告がメインとなった。ふたりとも強く目標にしていたのが、フジテレビヤングシナリオ大賞(通称:ヤンシナ)。お互いスクールに通っていなかったこともあり、応募作を送り合い、読み合い、励まし合った。「次お会いするのはヤンシナの授賞式だといいですね」という青春ドラマみたいなことを言い合った。Gメールで。

ほんとに次に再会したのが、ヤンシナの授賞式。

青春ドラマかよ! かっこいー! わたしと伊吹さんの馴れ初めかっこいー! 第33回フジテレビヤングシナリオ大賞で、わたしは大賞を、伊吹さんは佳作を受賞。2021年、フジテレビ本社で行われた授賞式で再会。かっこいー! ドラマみたーい!

久しぶりにあった伊吹さん、激痩せしてて普通に心配になった。でもクリクリの髪をいじりながら「このためにおしゃれな美容院行ったんです」って言ってたからたぶんとても元気だった。

で、授賞式終わって、帰って、気ままなペースで、またGメール。

その後、お互い都内に住んでるのに会うのは年に2回くらい。場所は絶対ファミレス。なので「そろそろご飯でも」が「そろそろファミレス会でも」という誘い方になっている。気付いたらそうなっていた。で、なぜかランチでもディナーでもなく15時とかに集合して閉店までしゃべり倒す。改めて文章に起こすと何とも不思議な関係である。

ヤンシナ受賞を機に、お互いほんとに脚本家になった。くすぶっていた頃、伊吹さんは「生方さんは脚本家になれる人ですよ」と言ってくれた。Gメールで。

脚本家になったふたりは、今ではコンクールの報告や相談ではなく、仕事の報告や相談をしている。Gメールで。

実は去年のファミレス会で「一応交換しときます?」と、LINE交換したんですよ。でもなんかムズかゆくて全然使っていません。いつまでもGメール。伊吹さんはGメール友達。メル友。

それでですね。今回のエッセイでお話ししたいのは脚本家・伊吹一の紹介ではなくてですね。【友達】ってなんだと思います? というスーパー深い話なんです。

脚本を担当した『いちばんすきな花』というドラマは、売り文句的なテーマが「男女の友情は成立するか?」でした。どう思いますか、これ。この作品をつくるにあたって、身近で「男女の友情あり派? なし派? 条件派?」などの会話がたくさん展開されました。それがどうも、「んんあぁ~!」って感じだったんです。ムズかゆかった。伊吹さんとLINEで連絡取るくらいのムズかゆさ。自分は「あり」というより「いる」だった。「派閥」というより「事実」だった。伊吹さんにしろ(ここまで説明してなかったけど伊吹さんは男性です。久しぶりのファミレス会のとき、伊「彼女と別れた話しましたっけ?」 生「彼女ができた話を聞いてないんだが」というたのしい会話が繰り広げられました。)、男性の友達がいるので、男女の友情は自分とその友人の間には成立している。他者がどうこう言うことじゃない。……ですよね? それでしかなくないか? と脚本を書いておきながら、ずっとモヤッていた。いまだにモヤッている。男性は女性の友人を「女友達」と言い、女性は男性の友人を「男友達」と言う。わざわざ言っとかないといけないあの感じ、なんなんだ。

伊吹さんのことを知っている人に「わたし伊吹さんと仲良くてー」と上記の馴れ初めをさらっと説明したら、「付き合ってるの?」と聞かれた。付き合ってないので「付き合ってないです」と言ったら、「でも向こうはどうせ生方さんのことすきなんだよ~」と茶化された。大人なので「いやいや普通に友達ですよー」と流したが、ぶん殴ろうかと思うほど腹が立った。ぶん殴ればよかった。だってこれ、わたしが女で、伊吹さんが男で、それだけの理由で【恋愛】を強要されてるわけで。殴っても正当防衛に………

わたしは伊吹さんのことがすきだし、伊吹さんもわたしのことをすきだと思う。そもそもこの「すき」=「恋愛感情を抱いている」という拡大解釈? これがいやですね。仮にわたしが女性の友人を「すき」と言ったところで「生方さんってレズビアンなんだ」と解釈する人はきっといなくて、「友人としてのすき」だと解釈される。男性の友人にうかつに「すき」なんて言えないわけです。「すき」。それだけで恋愛感情だと思われてしまう。

男とか女とかの話題、幼い頃からずっとどっかに引っかかる。だからこそ『いちばんすきな花』のテーマへのモヤッとした感じは、むしろ受け入れて書けた。「どっちでもいい」という、ドラマのテーマが辿りつく先として普通ではあり得ないふんわりした答えを堂々と書けたから。だってどっちでもいいでしかない……。自分が異性愛者でも同性愛を認めることができるなら、友情に関しても同じでいいじゃないか。自分には異性の友人はいないけど、男女の友情が成立することもあるだろうなぁ、って、思ってくれれば、それでいいのに、なのになぁ。モヤるなぁ。

【友達】には、なんの証明も約束も責任もない。でも仲良しな相手。イヤになったら離れればいいだけ。離婚届も離縁届も別れ話も退職願もなんもいらない。Gメール送るのをやめれば友達も終わり。心地良い。楽。あんなに友人関係に悩む子供だったのに、今はとても気楽。選べるようになったからだと思う。人を“選ぶ”なんて言うのはちょっとあれだけども。でも大人になってからの友達って選べる。教室にいる30人からじゃなく、そのまた半分の同性からじゃなく、全世界にいる全性別から選べる。

いちばん頻繁に連絡をとる親しい友人(女性)とは、なぜか「お互いに相手だけをフォロワー認証しているSNSの投稿」で連絡を取り合っている。急ぎの連絡はLINEするけど、そうじゃない「仕事でこんなつらいことがあった」「推しが尊い」「税金なくなれ」「チョコがうまい」「眠い」などのどうでもいいことをそのSNSに投稿しておく。SNSを開いたときに初めて相手の投稿に気付き、気ままに「いいね」したり、リプで話したりする。ちなみにお互い鍵をかけているので、誰からも我々のやり取りは見られない。ほんとにLINEすればいいだけ。でもこの連絡の取り方がいつの間に馴染んでいて、心地良い。

また別の親しい友人(女性)とは、連絡は頻繁には取らないもののたまーに手紙やプレゼントのやり取りをする。誕生日だったりクリスマスだったり、なんでもない日だったりする。前になんとなく手紙を書いてポストに投函し、「手紙出したよーん」とLINEしたら、「えっ、わたしも!」と返事がきてゾッとした。この友人とはそういうことがよくある。わたしのスマホケースが『真珠の耳飾りの少女』だったとき、彼女のスマホのロック画面が『真珠の耳飾りの少女』だった。ゾッとした。なんか似たようなコート着てて意図せずリンクコーデしちゃうとかもよくある。単純に考えることやセンスが近い。わたしは元看護師で、お父さんが薬剤師。彼女は薬剤師で、お母さんが保健師(つまり看護師資格保有)。気が合う(?)

こうやって、こいつおもろ~! こいつといると楽ぅ~! と思える人とだけ仲良くできるから、大人の友達は最高。席替えもクラス替えもないから安心。少数精鋭でも気にすることない。友達は多ければ多いほどいいなんて子供だまし。友達100人できるかな♪ 1人もできなくたって全然大丈夫♪ 友人関係に悩む子供たち、ほんと安心してほしい。大人はたのしいぞ。

そんなわたしの(少数精鋭な)友達のひとり、伊吹一さん。彼のオリジナル脚本のドラマがNHKで放送されます! タイトルは『どうせ死ぬなら、パリで死のう。』! 伊吹さんすぎるタイトルで最高です。ちなみにわたしはこの脚本をいち早く読んでいる。その後打ち合わせを経て改稿されているはずなので、ガチオリジナル版とドラマとを比較して楽しめるのです。脚本家の友達がいるの最高すぎる。3月16日放送。男メル友が脚本を書いたドラマ、観てね!

生方美久(うぶかたみく)
1993年、群馬県出身。大学卒業後、医療機関で助産師、看護師として働きながら、2018年春ごろから独学で脚本を執筆。’23年10月期の連続ドラマ「いちばんすきな花」、’24年7月期の連続ドラマ「海のはじまり」全話脚本を担当。

TEXT=生方美玖

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