さまざまな経験、体験をしてきた作詞家 小竹正人さんのGINGER WEB連載。豊富なキャリアを通して、今だからわかったこと、気付いたこと、そして身の回りに起きた出来事をここだけに綴っていきます。【連載/小竹正人の『泥の舟を漕いできました』】
第35回「ただ、おでんが食べたくなるの」
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きっかけは、こんにゃくだった。
先週、自然食品スーパー(ちょっと高級な)の前を通りかかった際、ふと店先のこんにゃくが目に留まり、普段ならぜったいに素通りするのに、それを見たとたん「おでんが食べたい」と強烈に思い立ち、気づけばこんにゃくと共に他のおでんの材料も買っていた。
私はその前日、某ドラマ主題歌の作詞を終えて、制作サイドから歌詞のOKをもらったばかりだった。ここ数年、作詞を終えると無性に料理がしたくなるのが常で(昔は料理ではなく飲酒や買い物だった)、しかもちょっとめんどくさい工程をふくむ料理がしたくなる。
ちょうど2日後にYOUとマツコが我が家に来ることになっていたので、「どうしてもおでんが食いたいから作る。おでんの具材、何がいい?」と聞くと、YOUは「玉子、こんにゃく、糸こんにゃく、大根、昆布」、マツコは「玉子、厚揚げ、大根、はんぺん」とのこと。意外にもふたりとも「おでん、うれしい」と喜んでいたので(長い付き合いなので、ホントに喜んでいるかどうかはすぐわかる)、作る方の私もなんか嬉しかった。
翌日、昆布と鰹節で丁寧に出汁をとり、こんにゃくと面取りした大根には隠し包丁を入れてから下茹でし、汁が濁らないよう、揚げ物や練り物はすべて念入りに油抜きをした。普段ならめんどうくさい工程はほぼ省くのだが、締切り明けの浮かれ気分だから省かない。
年に1度、出すか出さないかの特大の土鍋でそれらをじっくり煮込み始めた瞬間、マツコが「間に合ったらいいんで、ほんと間に合ったらでいいから◯◯(商品名)とさつまあげもお願い。なんか、おでん盛り上がってきちゃって…」といってきた。
20年近い付き合いになるが、マツコはワガママをいわないし、人に頼みごとをしないし、誰かに迷惑をかけることを何よりも嫌う性格だ(毒は吐くけど)。そのマツコが珍しくお願いしてきたので、「はい、よろこんで!」みたいな気持ちになり、すぐに家を出発して追加食材を買ってきた。
しつこいようだが、締切り明けの私はいつもより100倍優しくなるからである。これが、締切り前だったら、おでんなんて絶対に作らないし、追加食材なんて「めんどうだからいやだ」とバッサリ断る。
さて、2人が来訪する当日。
おでんを完全に仕上げ、これまた年に1度出すか出さないかのカセットコンロを出し、極弱火でおでんの入った土鍋をテーブルの真ん中に置いた。
ふたりがやってきて、3人で鍋を囲む。YOUがまたまた「あんた、正気か?」つーくらいのお惣菜やらなんやらを買ってきて、テーブルの上は、彦麻呂風にいうと「食のワンダーランドか?」状態。
肝心のおでんは、何がどこにあるかわからないくらい具材がみっちみちに詰まって、大根なんかは煮詰まりすぎて鍋底にくっついて焦げていたが、ふたりとも「おいしい、おいしい」とものすごくたくさん食べてくれていた。気づけば、大量に用意したおでんはあっという間になくなり、具材と出汁を追加したほど。結局、3人で7人前くらいのおでんを食べ、YOUが買ってきてくれたものも食べた。
食後の腹ごなしに3人でノンストップ弾丸トーク。YOUもマツコもテレビで見る様子と普段の様子がまったく一緒(というか、もっと面白い)なので、そりゃあもうテンポが早い早い。ときどきふたりに攻撃されながらも、負けじと言い返し、涙をじょーじょー流しながら大爆笑。
早寝早起きの私が「はい、もう眠いから帰って」と言い、半ば追い出すかのように2人を見送り、約8時間に及んだおでん会はお開きとなった。
ひとりになった部屋で思った。最近、妙に人疲れをするようになっていて、人が集まるようなところに行くのが億劫で仕方なかったが、気をつかわずに済む本当に親しい人たちが相手だと、心身ともに全然疲れないし吸われないんだなあと。逆にいろいろ満ちていく(©藤井風)。
そして、気がつけばまたまた別の締切りがやってきた。張り切っておでんを作った覇気はどこへやら、食事を作るのはもちろん、配達を頼むことすら面倒だから、そこら辺にあるお菓子を食べながらYouTubeを見て、「書かなきゃ、書かなきゃ」と思っている今の私なのである。
What I saw~今月のオフショット
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2025年は「物も心も贅肉も本気の断捨離」が私のテーマ(ふざけてません)。まずは真っ先に武知海青(THE RAMPAGE)が我が家にやって来て、トランク4個分くらいの洋服を持って行ってくれました。サイズが大きめのもの、私にはスポーティーすぎるもの、いくつも買った同じようなデザインのものなど。海青に似合いそうなものをスタイリングするのがすごく楽しかった。
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続いてやってきたのは堀夏喜(FANTASTICS)。私のクローゼットの中からハイブランドのものやレアものばかりを目ざとく見つけるなっちゃん。さすがは、ちゃっかりファッショニスタ。「いる? いらない?」と聞くと「いります」「いらないです」と即座に答えてくれるとこが楽。この後、佐野玲於(GENERATIONS)、川口蒼真(KID PHENOMENON)、砂田将宏(BALLISTIK BOYZ)がやってきた。
小竹正人(おだけまさと)
作詞家。新潟県出身。EXILE、三代目J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE、E-girls、小泉今日子、中山美穂、中島美嘉など、多数のメジャーアーティストに詞を提供している。著書に『空に住む』『三角のオーロラ』(ともに講談社)、『あの日、あの曲、あの人は』(幻冬舎)、『ラウンドトリップ 往復書簡(共著・片寄涼太)』(新潮社)がある。