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TIMELESSPERSON

2024.12.20

脚本家・生方美久は暇がほしいくせに、いざ暇になると不安、なタイプ

令和の清少納言を目指すべく、独り言のようなエッセイを脚本家・生方美久さんがお届け。生方さんが紡ぐ文章のあたたかさに酔いしれて。【脚本家・生方美久のぽかぽかひとりごと】

今年の抱負も無事遂行

スマホを見ながら、年末だぁ、と思う。スケジュールアプリがだいすき。「ツイッターを閉じた直後にまた無意識にツイッター開く」みたいなのを‟ツイッター”時代からよく耳にしますが、わたしはスケジュールアプリを閉じた直後にまた無意識に開いてしまう。打ち合わせの予定やプライベートの約束はもちろん、「この日はこの原稿を書く!」という自分で決めた執筆スケジュールを書いたり、「この日までにこの映画を観に行く/この本を読了する!」みたいな半分仕事・半分趣味なこともアプリに入力している。休みの日に映画館をたくさん梯子するために、まず新宿周辺やら有楽町周辺やらの地域を一点に絞り、その徒歩圏内の映画館の上映スケジュールを見渡し、これとこれとこれとこれが一日で観れる!!!!!と計算してチケットを取る。スケジュールアプリに時間と作品名と映画館名を記入。その空き時間に行く喫茶店と、そこで読む本も決めておく。
はぁ……たのしい…………。これが至福。ちなみに絶対予定通りにすべて遂行します。嫌々やってるわけじゃない。すきでやってる。予定に囚われすぎててキモいなって、自分でも思う。
たぶん、「何もない」が怖いタイプだから。暇がほしいくせに、いざ暇になると不安。予定があるほうがなぜか安心できる。自分、過労死しないでね。

あの頃なにしてたっけ? と数年前のスケジュールを遡って確認するのもすき。3年前(2021年12月)のスケジュールを見たら、ドラマ『踊り場にて』の撮影をしていた。フジテレビヤングシナリオ大賞の受賞作の映像化作品。生まれて初めて自分が書いた脚本がプロのみなさまによって映像化された。主演の瀧本美織さんはじめ、中田青渚さん、青木柚さん、富田望生さん、富田靖子さんなどなど。コンクールの受賞作でこんなに豪華なことがあるのかと驚いた。しんどいことがあっても「みなさんとまたお仕事できるまではやめちゃいけない…!」と思い、必死にこの世界にしがみついている。それくらい特別な作品。

諦めることをテーマにした脚本だった。脚本家の夢を諦めるか悩んでいたときだったから。

先日、ドラマのファンだという高校生が「次のヤンシナに応募します!」と言ってくれて、すごくうれしかった。こんな茨の道を進ませてしまっている……という罪悪感もありながら、やっぱりうれしい。ただ、残酷なことに『踊り場にて』でも示した通り、夢はほとんど叶わない。努力が報われないことはめちゃめちゃにある。脚本家以外になりたかった仕事があった。なれなかった。なれた仕事のなかで目指した人物像があった。なれなかった。今だって脚本家にはなれたが「なりたかった脚本家像」には程遠い。書き続けても一生届かないかもしれない。でも、書き続けたら届くかもしれない。それはわからない。書き続けなきゃわかんない。だからしんどい!

『踊り場にて』は、年末に放送された深夜の単発ドラマ。後から配信で観てくれた方はたくさんいるようだが、リアルタイムや録画をしてまで観た人は少なかったであろうこの作品、反響ものちの連ドラに比べたらかなり少なかった。ただ、そのなかで今でも度々思い出す印象的な感想をもらった。
小学生の女の子を持つお母さんから「娘はバレリーナを目指すことを諦めるか悩んでいるようです。感じるところがあるようで、録画したドラマを繰り返し見ています」というものだった。その後、この女の子がバレエを続けているのか、もしくは諦めたのかはわからない。彼女自身が納得した道を選べていることがすべてだと思うし、そうであることを祈りたい。

『踊り場にて』を機にこの仕事を始め、いろんな人と出会い、いろんなことを学び、喜びや絶望を知った。その喜びのなかでも特に大きいのが「踊り場にてがすきです」と言ってもらえることだと、最近気が付いた。
自分はこの先なにを書いていけばいいのか。世間から、テレビ局から、映画会社から、なにを求められているのか。わからなくなってぐるぐるしてしまっていたとき、知り合いから唐突に『踊り場にて』の話をされたことがあって、すーごく救われた。「コンクールって純度100%なのがいいよね」と。原点は大切にしたい。
(ちなみに連ドラ3作だと「いちばんすきな花がいちばんすきです」とちょっとふざけた文章になっちゃうこのフレーズを言われるのがいちばんうれしい。これに関する詳しい話はまたいつか、このエッセイが続いていたら……)

そんな『踊り場にて』からもう3年。今そそくさとスケジュールアプリに入力している来週の予定も、あっという間に過去のことになるんでしょうね。
夏の連ドラを終えてからの今年ラスト3ヵ月は、ドラマも映画もその他諸々も、新しい仕事がいろいろと同時並行で進んでいる。去年と一昨年はちょうどこの時期に連ドラが放送中でいっぱいいっぱいだったけど、今年はこうしていろんなことができている。数が多くてバタバタはしてるけど、真摯に向き合ってくれる方々とお仕事できているので、どこか気持ち的には落ち着いている。やっぱり仕事で大事なのは‟人”なんだなぁと改めて思う。とはいえ、企画が通らなくて焦ったり、コンペに落ちて落ち込んだり、相変わらず書けずにPCの前で絶望したり。そんなこともよくあります。デビュー作が運良く話題になったくらいで、のちの執筆活動がすべて安泰するほど楽な世界ではない。天才になりたかった。なれなかった。

今年はめちゃくちゃ良い年でした。しっかり死にたいときもあったけど、結果的に生きてるってことは、‟死にたい”を上回る‟生きたい”があったってことです。だからむしろめちゃくちゃ良い年。

年末年始って目標を決めがちですよね。この前、仲良しの監督の家に遊びに行って(前回のエッセイで我が家にお誘いした方。今度はわたしが遊びに行った。たのしかった。)、「座右の銘とか聞かれんの嫌じゃない…?」という話になった。モットーとか、ポリシーとか、そういうの語られるのはいいけど、こっちに振らないでほしいよね……っていう。わかる。今の時期大流行する「来年の抱負は?」とかね。わたしは過去に座右の銘を聞かれ、「あー……死なない、ですね」と言ったことがある。「ハハッ」という軽い愛想笑いで話題が切り替わるのでおすすめです。

生きてるのって奇跡的にえらくて尊い。もうそれだけで十分。生きること以上にがんばりたくない。人生みたいなふわっとしたものに目標とか立てんのきつい。明確なこと以外スケジュールアプリに入れたくない。先日、友人が仕事で海外へ旅立った。日本の真裏にある国で助産師・看護師として働くんだそう。つよすぎ。かっこよすぎ。大尊敬。いつもドラマの感想を丁寧にくれる子なので、「帰国したとき、まだ脚本家やれてるようにがんばるわー」って言ったら「何しててもいいよ!生きてて!」って言われちゃった。泣いちゃった。

今年の抱負だった「死なない」、遂行できました!(実質あと半月あるので慎重に生きます!) 来年の抱負も「死なない」です! 来年のスケジュールアプリが予定でギッツギツでも、スッカスカでもいい。夢を見続けても、諦めてもいい。何してたって、何もしてなくたっていい。わたしはたぶん来年もスケジュールアプリギッツギツで、夢を追いかけちゃって、ずっと慌ただしく何かしてる一年だと思いますが、みなさんはそれぞれご自由にご自愛してもらって。来年も生きましょう。2024ばいばーい。

生方美久(うぶかたみく)
1993年、群馬県出身。大学卒業後、医療機関で助産師、看護師として働きながら、2018年春ごろから独学で脚本を執筆。’23年10月期の連続ドラマ「いちばんすきな花」、’24年7月期の連続ドラマ「海のはじまり」全話脚本を担当。

TEXT=生方美久

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