さまざまな経験、体験をしてきた作詞家 小竹正人さんのGINGER WEB連載。豊富なキャリアを通して、今だからわかったこと、気付いたこと、そして身の回りに起きた出来事をここだけに綴っていきます。【連載/小竹正人の『泥の舟を漕いできました』】
「アンチエイジングルグル」
先週のこと。EXILE HIRO&上戸彩夫妻が共に朝から仕事で、ピンチヒッターとして私が彼らの息子・ピチャオを幼稚園に送ることになった。
私が知る限り、今まで出会った子供の中で最も性格がいいのがピチャオだ。純粋無垢でマジ天使。彼を幼稚園に送るという稀有な経験が嬉しくて仕方ない私。
仲良く手を繋いで登園し、ピチャオに案内されるがまま教室へ行き、「ぼくが支度するのを見ててね」などと言われたもんだから、彼の幼稚園でのモーニングルーティンの一部始終をまばたきするのも惜しいような気持ちで見守った。靴を履き替えたり、スモッグを着たり、コップやタオルを所定の場所に置いたり、普段見たことのないピチャオの行動にいちいち感動。
ここで言っておくが、私はやたらと子どもたちからの人気が高い(大人からはそうでもない)。子どもがたくさんいる場所に行くと、気づけばすべての子どもが私に周りに集まっていることが多々ある。ものすごく人見知りをする子どもがなぜか初対面の私にすぐ懐いて、その子の親がびっくりするという場面も何度もあった。理由はわからない。そして私は、決して子どもズキではない。
で、登園したピチャオの様子を、それこそ仏のように慈愛に満ちた顔(多分)で見守っていた私のお腹をつんつんと突く園児が1名。まったく知らない子である。その子にニコリと笑いかけると、「だーれ?」と聞かれた。仏の笑顔(多分)を貼りつけたまま「ピチャオくんを送ってきたんだよ」と答える。
いつもピチャオを送ってくるのはパパかママなのに、見たこともない私が突然ピチャオと登園してきたので疑問に思ったのだろう。しかし、その園児の不穏顔が突然晴れて笑顔になり、彼は大声で私に言った。
「あ! ピチャオくんの・・・おじいちゃん!?」
絶句。そして狼狽。
そりゃあ、寝起きで、寝ぐせも直さないままくたくたのTシャツと短パンで来ましたよ。そりゃあ、昨夜のバレーボールネーションズリーグ男子の試合に感動して泣いたから目がパンパンですよ。そりゃあ、初夏の朝の陽ざしは50代には残酷ですよ。それにしても…、おじいちゃん。
今まで、ピコ(ピチャオの姉)やピチャオと一緒にいて、見知らぬ人に「おとうさん」だと思われたことはある。何度もある。しかし、「おじいちゃん」だと言われたのは初。
ピコが生まれてから数年、続々と私の周りには友人・知人の子どもたちが増え(大量発生し)、多くの子どもたちと接しているが、その子たちは揃いも揃って私を「おだちゃん」と呼ぶ。だから子どもというのは私のことを「おだちゃん」と呼ぶ生き物だと信じて疑ってもいなかった。それが、「おじちゃん」も「おじさん」も飛び越えて、いきなりの「おじいちゃん」。年齢的には全然そうなのだが、いざ言われると、予想よりはるかにグサッ。
あまりにも強烈な初体験だったので、(小泉)今日子や(飯島)直子や(佐野)玲於にこのことを報告しまくったら、皆が皆、大爆笑してくれたのでちょっと救われたが、いやぁ、歳をとるって…怖いですね。
ちなみに、その夜から私は、お風呂上りには保湿クリームを顔に塗るようになりました(今まではなーんもしてなかった)。「焼け石に水」感が半端ないが、人生で初めて、「アンチエイジング」という言葉が頭の中をグルグル駆け回ったので。
・・・遅すぎるって。
What I saw~今月のオフショット
小竹正人(おだけまさと)
作詞家。新潟県出身。EXILE、三代目J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE、E-girls、中島美嘉、小泉今日子など、多数のメジャーアーティストに詞を提供している。著書に『空に住む』『三角のオーロラ』(ともに講談社)、『あの日、あの曲、あの人は』(幻冬舎)、『ラウンドトリップ 往復書簡(共著・片寄涼太)』(新潮社)がある。