さまざまな経験、体験をしてきた作詞家 小竹正人さんのGINGER WEB連載。豊富なキャリアを通して、今だからわかったこと、気付いたこと、そして身の回りに起きた出来事をここだけに綴っていきます。【連載/小竹正人の『泥の舟を漕いできました』】
「旅の恥はかき捨て」
沖縄に行ってきました。
ほんの少し執筆の仕事は持って行ったものの、家族のような面々と共に南の島を満喫した。
主に20代、私の趣味は「ひとり旅」だった。今のようなネット社会ではなかったので、格安の往復チケットだけを買って、泊まる場所もしっかりとは決めずに、行き当たりばったり、そりゃあもういろんな国へ行った。ちなみに1番好きだった国はアイスランド。死ぬ前にもう一度オーロラを見に行きたいなあ(年齢的に切実)。
よく、「自分探しのための旅に出る」と、私には死んでも言えないようなこっ恥ずかしいことを言う人がいるが、確かにひとり旅って嫌でも自分自身と向き合う時間が多くなる。
しかし、飽き性で気分屋の私はこの「自分自身と向き合う時間」にすぐ飽きてしまい、ひとり旅に出るとなぜか全くの別人格、私ではない私、を演じる癖がついてしまった。
非日常的な場所に行って、非日常的な自分になる、いわば、「いつもとは違う私ごっこ」をやりがち。20代前半からこれに味を占めているので、今でも、誰とどこに旅行しても、このごっこがやめられない。
旅に出た場合、2パターンの別人格の私がいる。
その1 海や山や自然の多いところに行った場合。
いつも書いているが、普段の私は、許されるのなら、誰にも会わずどこにも行かず(もちろん仕事もせず)、書物やネットフリックスやYouTubeをお共に一生食っちゃ寝、食っちゃ寝していたい。で、都合のいいときだけ子どもたち(他人の)を思いきり可愛がりたい。
ところがどっこい、旅先の海や山に行くと、妙に行動的で、ウザいくらい明るい性格になり、おせっかいすぎるほど人の世話をやく。そして自然に触れ、「ああ、この世界はなんて素晴らしいのだろう」なんて本気で思ったりする。なんか、エネルギー過多でちょっと苦手だなこういう人…みたいになる。
その2 都会に行った場合。
一方で、(自分で言うが)普段めちゃくちゃ気ぃつかいーの私は、他人を洞察して、その人の表面ではなく内面に向き合おうと心掛けている。相手が居心地が悪そうだったら、ちょっとでも楽になるように努力する。
ところがどっこい、外国の大都会(ニューヨークとかロンドンとかね)に行くと、「他人は他人、自分は自分」と、なぜかめちゃくちゃクールな自分を演出してしまうのである。ものすごく無口で無表情、いつものように「あんた正気か?」みたいな馬鹿笑いはせず、「大人ですけど何か?」みたいな静かな笑い方をする。そして、日本のカフェでは常に甘いカフェラテを頼むのに、知らない国のカフェでは「ダブルエスプレッソを」なんて、通っぽいものを注文しやがる。もちろんノンシュガー、もちろん美味しくない。
「ごっこ」の楽しみ方がもはや恐怖。
さて、今回の沖縄だが、当然のように「いつもとは違う私ごっこ1」をやってきた。
同行した子どもたちを引率して毎日通った室内プールで、みんなに猛烈なバタフライ(そりゃもう襲いかかるイノシシのような)を披露したり、水中でシンクロナイズドスイミングもどきをやって、「すごい!」と言わせたり(海育ちの水泳部員だったので)。誰?つ-くらいの激しいスポーティー陽キャっぷり。
帰京してからこの旅の疲れがドッと出て、2日間ほど家の中でナメクジと化してよろよろヌメヌメ過ごしながら、「どうしてこんなもんを嬉々として持ち帰って来たんだろう」と、旅先でまるで宝さがしのように拾ってきた貝殻やサンゴを、死んだ魚みたいな目で見つめるのであった。
「旅の恥はかき捨て」というが、私は、その「恥」を旅先に置いてこないで、持ち帰ってきてしまうあんぽんたんなのである。
What I saw~今月のオフショット
小竹正人(おだけまさと)
作詞家。新潟県出身。EXILE、三代目J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE、E-girls、中島美嘉、小泉今日子など、多数のメジャーアーティストに詞を提供している。著書に『空に住む』『三角のオーロラ』(ともに講談社)、『あの日、あの曲、あの人は』(幻冬舎)、『ラウンドトリップ 往復書簡(共著・片寄涼太)』(新潮社)がある。