さまざまな経験、体験をしてきた作詞家の小竹正人さんの連載がGINGER WEBでスタート。豊富なキャリアを通して、今だからわかったこと、気付いたこと、そして身の回りに起きた出来事をGINGER WEBだけに綴っていきます。【連載/小竹正人の『泥の舟を漕いできました』】
「FANTASTICS怪盗団」
なんか嫌な予感はしていたのである。
ある夜。EXILE HIRO氏とFANTASTICS from EXILE TRIBEのメンバーが食事会をしていた。私も誘ってもらったのだが、他に用事があり、その場に一瞬(10分ほど)だけ顔を出し、その一瞬で面白おかしい毒を吐きまくって(私はかなりの毒舌です)笑いを誘い、「それではみなさん、ごきげんよう」と、風のように去った。
それから私用を済ませ、帰宅して部屋着(とても人前には出られない毛玉だらけのスエットパンツにヨレヨレのパーカー)に着替えて人間スイッチOFF。
さて『脱出おひとり島』(韓国の恋愛バラエティー番組)の最終エピソードを観ようと、テレビの前に座った瞬間、ピンポ~ンと我が家のインターフォンが鳴った。夜の10時近くである。
ここ数年、私は早寝早起きで、こんな時間に誰かがいきなり自宅に来訪するなんてこと皆無。不審に思いながらもドアののぞき穴から外の様子をうかがうと、ニコニコ笑う佐藤大樹の顔が。そして、私がドアを少しだけ開けた瞬間、ものすごい力でドアを大きく開かれた。そこには大樹だけではなく、世界、澤本夏輝、堀夏喜、木村慧人までいるではないか。
「HIROさんが、『おだちゃんがきっとさみしがってるよ』って言ってたから来ました!」と、全く悪びれることなくとんちんかんなことを言う面々。
声を大にして言いたいが、私はどんな時間よりひとり時間が好きだ。さみしいとか人恋しいとか、そんな感情は遠い昔に葬った。しかも、こいつらは会食終わりで全員ほろ酔い、いたずらっ子のような顔をして笑っている。
私が「帰ってよ!」と、いきなり部屋に来た未練がましい元カレを追い払う女みたいな大げさな口ぶりで言ったのに、やつらは「ちょっとだけ~、ちょっとだけ~」と合唱しながら入ってきやがった。渾身の力で全員をドアの外に押し出そうとするが、なんせ1対5(しかもそのうち3名は私より高身長)、あれよあれよ、全員が我が家の玄関にすし詰め状態。ああっ。
しかし、根がスーパー優しい私。我が家に入ったことを明らかに喜んでいる5人の顔を見たら、なんだかこのまま追い払うのがかわいそうになった。
「あっ、なっちゃん(堀夏喜)、このスニーカー欲しいって言ってたよね」と、以前、私が履いていたスニーカーを彼が欲しがっていたことを思い出したので、シューズインクローゼットのドアを開けた。そして、そのスニーカーをなっちゃんにあげた。
そこからがカオスであった。ひょこ、ひょこ、ひょこ、ひょこ、ひょこ、っと、シューズインクローゼット中を覗き込む5人のひょっこりはん。口々に「うわあ、すごい靴の数!」と言っている。
昔から靴が大好きな私は、好みのスニーカーやサンダルを見つけると履きもしないのにそれを買ってしまう悪癖がある。よって、いつの間にか私のシューズインクローゼットは箱に入ったままのスニーカーやサンダルでテトリスがごとく埋め尽くされていて、見るたびに「どうしよう」と思っていた。
奇しくも、「2024年は何もかも断捨離!」と心に誓ったばかりだったので、ここぞとばかりに靴箱を次々に玄関に出し、スニーカーやサンダル(ほとんどが新品、計20足くらい)をみんなにあげた。大体全員の好みを把握しているので、それぞれが好きそうなものを。ついでに着ていない(絶対に私には似合わない)新しい服なんかもあげ、5人全員が大荷物を持って私の家から出て行ってくれた。
ようやくひとりになって、ずいぶんとすっきりとしたシューズインクローゼット(最後に大樹がちゃんと片付けていってくれた)を見て、ふと思った。心に誓うだけで、全然やろうともしなかった断捨離を、思いがけず有言実行できて、結果よかったな・・・と。
これが、「2024年FANTASTICS怪盗事件」の全貌である。
その後、5人全員が「いきなり行ってすみませんでした。思いがけない大きなお年玉をありがとうございます」的なメッセージを送ってきて、次の日に早い時間から仕事があって怪盗団に参加できなかった八木勇征は「僕も行きたかったあ」と悔しがっていて、「ああ、やっぱりFANTASTICSが大好きだなあ」と思った私って・・・・・・本当に世界一のお人好しじゃないですか?
What I saw~今月のオフショット
小竹正人(おだけまさと)
作詞家。新潟県出身。EXILE、三代目J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE、E-girls、中島美嘉、小泉今日子など、多数のメジャーアーティストに詞を提供している。著書に『空に住む』『三角のオーロラ』(ともに講談社)、『あの日、あの曲、あの人は』(幻冬舎)、『ラウンドトリップ 往復書簡(共著・片寄涼太)』(新潮社)がある。