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TIMELESSPERSON

2024.01.30

虚構の世界を描くのが生業の脚本家・生方美久が、嘘に溢れたネットに乗せて、嘘の話を語る

令和の清少納言を目指すべく、独り言のようなエッセイを脚本家・生方美久さんがお届け。生方さんが紡ぐ文章のあたたかさに酔いしれて。【脚本家・生方美久のぽかぽかひとりごと】

写真協力/Ryouko.S

最後まで全部ウソ

生まれて初めてついた嘘はなんだったろう。しっかりと濡れた布団を前に「おもらししてない」と言ったことか。空になったお菓子の袋から目をそらし「食べてない」と言ったことか。家族や友人に対して「きらい」と言ってしまったことか。

すきなドラマのなかで、「子供が嘘をつくのは、本当のことを言って信じてもらえなかったときから」と言っていた。なるほど。嘘のはじまりは、事実を嘘にされたとき。

嘘をつかれることに慣れてきてしまった。ショックの前に「またか」という溜め息が出て、怒りの前に「もういいや」と諦める。嘘というものをどう捉えるかにもよるけど、仕事をしている大人にとって、嘘をつかれるのは日常茶飯事なんじゃないだろうか。約束や時間を守ってもらえないことも嘘だし、予定通りのギャラがもらえないことも嘘。説得されるときに使われる言葉なんて8割が嘘だ。ネットニュースやSNSは“本当風”の嘘の羅列ばかり。以前とある取材依頼で「ご主人もご同伴願えますか?」と聞かれた。わたしは独身だし、過去に結婚していたこともない。本当は私ではなく別の女性脚本家さんにオファーしたつもりだったのかもしれない……だとしたら大変だ……と思って確認したが、本当にわたしに夫がいると思っていたらしい。嫌な思いをする予感しかなかったのでソースは確認しなかった。それに似たような出来事がいくつもある。なんで? と思って自分の名前を検索エンジンに入れてみた。出てくる出てくる。嘘うそウソ。

子供の頃、学校の先生に突然呼び出されて「○○ちゃんをいじめているらしいね」と言われた。いじめもなにも、ほとんど話したこともないクラスメイトの名前だったので意味がわからず「いじめてません」と言ったが、信じてもらえなかった。先生は「双方に寄り添います」という顔をして、目の奥で「嘘つくなクソガキ」と言っていた。後から別の友人たちに聞いたが、そういった“加害者にされる”という被害が他にもあったようだ。でも、先生のなかで「生方さんはクラスメイトをいじめた子」という真実が成り立ってしまっていて、これはもう消えないということを子供ながらに理解し絶望した。実際にグループ内ではぶき、はぶられ、といういじめを経験したことはあるが、今思うとすべてにおいて全員が悪いものばかりだった。イヤな思い出なので美化はできないが、仕方のないことだったとは思える。でもこれは違った。嘘をつかれたうえに、それを信じる人(しかも大人)が周りに多くいた。わたしが悪者なのは、もはや真実なのだ。その子はきっとわたしの何かが気に食わなかったんだろうし、なんならわたしが本当に無自覚なクソガキで、その子からしたらいじめと言える行為をしていたのかもしれない。なんにせよ、その真意を知ることはできない。嘘をつかれ、嘘が真実になった人間には、真実を知る権利はない。

だから、ドラマや映画という“公式な嘘”の世界に逃げ込んだのかもしれない。冷静に考えてみると恐ろしいことだ。毎日せっせと書いている脚本は現実にはない嘘の世界。嘘に苦しみながら、嘘を描くことで日々救われている。こんなに嘘がきらいなのに、嘘を仕事にしている。皮肉だし、なんだかとっても自分らしい。

脚本家デビュー作の情報解禁があった直後、「この枠は爆死が続いているから新人しか書いてくれる脚本家がいない」「新人だと脚本料が安くあがるから起用された」などとネット記事に書かれた。作品を観てもいない他人が、それもペンネームらしきものを掲げて。嘘を言う人は、その人そのものが嘘のことが多い。ありがたいことにそのドラマはたくさんの人に観ていただけた。あのネット記事を書いたライターさんは、ドラマを観てくれただろうか。続編となる記事が見当たらないので、わからない。嘘は大抵、嘘のまま放置される。二作目となったドラマのなかで「ネットニュースの見出しは嘘を本当っぽく書く」的なセリフが出てきたので、よくネットをチェックしている知人たちに確認してみたが、それに触れるネットニュースはなかったらしい。なんで~!!!

事実を話した相手に、「え、嘘! ネットにこう書いてあったよ!」と当たり前に言い返されることすらある。自分ことや自分が携わった作品のことなのに、目の前にいる自分の口から出た言葉より、ネットの中のどこの誰が言い出したかもわからない情報を信じる人がたくさんいるのだ。そんなことが続くとどうしたって思う。じゃあもういいや、何も言わなくていいや、信じてもらえないならいいや、ずっと黙ってよう。すると今度は言われる。「黙って逃げるな」。なんか言ってもダメ。なんも言わなくてもダメ。名前や顔を世に出してエンタメをつくるというのは、人権が少し奪われるということ。

尊敬する脚本家さんが言っていた。「逃げるというのは、生き延びる方を選ぶということ」。わたしはなんとしても嘘つきたちから逃げて、逃げて、逃げて、嘘の世界で生き延びようと思っている。ここ最近は、取材や講演などの執筆以外の仕事は基本的にすべて断っている。すきなアルファベットを聞かれて「Aです」と答えると、「Bはきらいなんですね!ひどい!」と言われるからだ。それに反論だの擁護だのという謎立場から「Cに関して以前こう言ってますね」「Dに触れないのはどうして?」みたいなやつが現れたりなんかして。Aを守るためにも、自分を守るためにも、わたしはちゃんと逃げる。生き延びる方を選ぶ。

ウソ、ウソ。ここまで書いたこと、全部ウソ。

生方美久(うぶかたみく)
1993年、群馬県出身。大学卒業後、医療機関で助産師、看護師として働きながら、2018年春ごろから独学で脚本を執筆。’23年10月期の連続ドラマ「いちばんすきな花」の全話脚本を担当。

TEXT=生方美久

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