仕事はもちろんプライベートで日頃感じたこと、体験したことをGINGERだけに本音で綴る田中みな実さんの貴重な連載。今回は、“会話”についての考察。【連載「田中みな実のここだけ話」】
今月のテーマ:無意味な会話の必然性
どうしてだろう。
長く付き合ったり、夫婦になると、無意味な会話や電話、メールのやりとりが減ってしまうのは。一緒にいる時間が増えるんだから、意味のあるやりとりが増えるのは必然だと言われればその通りなんだけど、無意味なことにこそロマンがあると感じ、なくなっていくことに淋しさを覚えるのは、面倒な女の発想だろうか。
連載の原稿を書くときは決まったカフェで時間を決めて取り組むことが多い。家にいると、つい大掃除が始まったり、愛犬の可愛さに原稿そっちのけになってしまうから。ひっそり佇むカフェの2階席、定位置は窓側のカウンター席の端っこ。
この日は客が少なく、後ろのテーブル席に30代と思しきご夫婦、数席空けた隣には仲睦まじい若めのカップルが写真を見せ合い談笑している。しかめっ面でそれぞれのスマホに見入りながら子どもの学校について話をする夫婦。洗濯機だか食洗器の故障についても、淡々と、必要なことだけをポツリポツリと発している。
対照的にいかにも仲の良い男女は、初めて会ったときの互いの印象を恥じらいたっぷりに語り合ったり、質問攻撃がとまらない。「シーかランドだったら?」「初めて行った海外はどこ?」そして、不意に「やばい、うちらめっちゃ合うね」って見つめ合ったりして。幸せの圧が凄まじい。この二人もそう遠くない未来には、必要なことしか話さなくなってしまうのかな。“付き合う”とは? “結婚”とは? いったい。
思えば、大人になればなるほど、恋愛関係になって暫く経つと、二人の間のやりとりがどこか事務的になっていった。
お付き合いに至る前後の「好き?」「会いたいね」っていう生産性のない甘やかな言葉の応戦は、時を経て「何時に終わる?」「ごはんどうする?」「明日遅い?」そんな形式的なやりとりを日に数件する程度に変化した。
電話だって「ねぇ、俺のシャツどこ?」「クリーニングだよ」「えー、着たかったのに。いつ戻ってくる?」たった数十秒の目的だけの会話が増えていく。
私たち、始まった頃は顔が見たいからって度々テレビ電話をしてたのにね。そうしてくれたのは、むしろ、あなたの方だったのにね。中身のない会話を何時間もして、笑ったり、照れたり、ドキドキしたり。すべてが幻であるかのようで虚しくなる。
この違和感を相手にぶつけてみたこともあったけど、伝わるはずもなく、かえって向こうの機嫌を損ねたりした。「ほとんど毎日一緒にいるのに、これ以上俺に求めるの?」「長く一緒にいればそうなるだろ。生活だから」。彼の深いため息の中に、私への失望を感じ取って、自己嫌悪に陥った。
私は、いつか、一緒になるであろう人とは、会話がしたい。“人”対“人”として会話をしたい。決めなきゃいけないこと、話し合わなきゃいけないことは、ひとまず置いておいて、1日のうちの5分でいいからまっすぐにお互いを愛しく想う時間を設けたい。それは決して義務になってもいけなくて…。それすら叶わないのなら、恋愛の一歩手前で留まっている方がマシだ。あなたが“日常”や“生活”と呼ぶ、哀しみの渦に呑まれる前の、甘く芳しい幸福なあの瞬間から一歩も先へ進みたくはない。
今月のみな実さん
初のキラキラな世界
ティファニー表参道のオープニングイベントに呼んでいただいて、生まれて初めてこんな華やかなパーティーに…。ドキドキしたけど数時間だけお姫様になったみたいで、楽しかったな〜♡
田中みな実(たなかみなみ)
1986年11月23日生まれ。埼玉県出身。TVドラマ「最愛」(TBS)、「あなたがしてくれなくても」(CX)、「ばらかもん」(CX)などに出演。9月からスタートしたCM「au三太郎シリーズ」では、鬼ちゃんの妻で、趣味が“マネ活”の「鬼嫁」を目力強めな演技で注目。