誰にでも独占欲というものはある。ちなみに田中みな実さんの場合はーー。【連載「田中みな実のここだけ話」】
今月のテーマ:推し被り
「ねぇねぇ、『スラムダンク』観に行かない?」会社員時代の同期に誘われ、久しぶりに人と映画を観に行く約束をした。スラダン世代の私たちにとって、この作品の公開はかなりアツい。
「ちなみに誰推し?」と彼女に聞くと、「流川!」と即答されたので「え~、私も流川なんだけど――」と、“変えてよ”と言わんばかりの落胆を顕わにする私はやはり性格に難がある(笑)。
だって、推しはなるべくなら被らない方がいいじゃない? それに、彼女の過去の男の趣味や好きな芸能人のタイプを聞いてきた限り、流川とは想定外で、絶対にリョーちんか三井あたりだと踏んでいたのに。
思い返せば、子供の頃のセーラームーンごっこもそうだった。みんながセーラームーンをやりたがる中、私は毎度、先手を打って「ヴィーナスがいい!」と声を大にして主張し、役がなかなか決まらない子には「〇〇ちゃんはスポーティーだからジュピターがいいよ」とかなんとか世話を焼いてはヴィーナスの座を揺るがされまいと画策した。
好きなサンリオのキャラクターはバッドばつ丸。文房具なんかも全部ばつ丸にしていたけど、誰かと被ったことはなかったし、仮に「ばつ丸ってカワイイよね~」という話題になったら「キティちゃんの方が好きって言ってなかった?」と、軽くけん制。
アメリカで過ごした幼少期はスパイス・ガールズが一世を風靡していて、仲良しグループで“なりきりごっこ”をしていたのだけど、ヴィクトリア・ベッカムがダントツの倍率を誇る中、私はベイビー・スパイス(エマ・バントン)の座をキープ。被りそうになると、他のメンバーの優れているところをプレゼンして、その子がぴったりである理由を述べた。やり口は幼稚園児の頃から変わっていない。
さて、肝心の映画はというと、推しが誰だとかはどうでもよくなるほど最高で、後半の流川の覚醒には、同期の肩をぎゅっと掴んで小声で「やばぁ~い♡」を連発してしまった(10feetの音楽にかき消されていたから周りの方のご迷惑にはならなかったはず!)。帰り道もキュンが止まらず、それを分かち合える存在がいるのを尊いと感じた。流川を独り占めしようとして、ごめん。
今ならスパイス・ガールズごっこで何人ベイビー・スパイスがいたって楽しめる気がする。アラフォーになって少しは心が広くなったのだろうか。